亜砂都優子・画/池田悦子・原作「妖華 ―アルラウネ―C」(1988年9月10日初版発行)
断頭台の下で何百人もの死刑囚の血を吸って咲く花、アルラウネ。
アルラウネが現われて五百年後、日本人の遠野華(とおの・はな)はその毒を受け継ぎ、アルラウネが復活する。
彼女の行く所には悪徳の種が蒔かれ、悪の華が乱れ咲く…。
・「第13話 仮面の訪問者」
「幸彦のもとに友人のブルーノとその妹のカテリーナがバチカンから訪ねてくる。
ブルーノもまた教皇の側近で、カテリーナは故郷で行われる湖水祭りで聖処女に選ばれていた。
三人は再会を祝して乾杯するが、幸彦は急な眠気に襲われ、眠り込んでしまう。
実はシャンパンには眠り薬が仕込まれており、これは幸彦を陥れるためのブルーノの罠であった。
また、カテリーナは彼の妹ではなく、観光客目当ての女スリで、幸彦がベッドで目覚めた時、彼女は彼の傍で泣き真似をして、処女を汚されたと訴える。
幸彦はうろたえて、自分の無実を証明すべく、ホテルにいるブルーノに会いに行くのだが…。
幸彦を狙う「吸血鬼」の運命は…?」
・「第14話 煉獄のコレクション」
「安條美加は資産家の娘。
彼女の婚約者の信也は貧乏学生で、博士号を取るため、研究室にこもりっぱなしであった。
ある日、彼女は幸彦と共に遠野華の家に招待される。
その目的は「珍しいコレクション」を見せるためであったが、華のコレクションはパイプ、空き瓶、パスポートと価値のないものばかり。
だが、それらは自殺者や事故死した人物の持ち物であった。
そして、最後に華が美加に見せたのは一枚の写真。
それには信也が女性と写っているのだが、その女性とは…?」
・「第15話 裏切りの報酬」
「ある洋裁店。
初老の女店主は結婚せずに女手一つで店をここまで育て上げる。
この店にはセツ子という働き者の娘がおり、店主は身寄りのない彼女に店を継がせるつもりであった。
ある日、店を訪れたアルラウネは配達に出かけるセツ子にバスには乗らないよう警告する。
セツ子は占いなど信じないと言って出かけるが、地図を取りに戻った時、乗るはずだったバスが交通事故を起こすのを目にする。
後日、彼女は華の屋敷にドレスの仕立てに訪れる。
仕立てが終わり、セツ子が帰ろうとした時、華はセツ子の運命が変わる悪い兆しがあると告げる。
本来、人間の真心と努力しか信じない彼女であったが…」
・「第16話 魔女の涙」
「幸彦は平賀里恵と婚約するが、婚約発表を前にして、里恵が奇病に侵される。
彼女の身体には痣が広がり、徐々に痩せ衰えていた。
幸彦は華の仕業だと見抜き、悪魔祓いの経験のある神父に相談。
アルラウネを倒すには「聖水を飲まして眠らせ断頭台に使われた木切れで家の窓を封印したのち火をかけて焼き殺」すしかない。
正義は悪に勝つことができるのであろうか…?」
・「春の光」
「邑崎未春は将来、山田流箏曲室を継ぐ娘。
彼女には五歳年上の婚約者、真樹壱(まき・はじめ)がいたが、彼はロック・ミュージシャンを目指す。
未春はロックが大嫌いで、彼がどんどん遠く離れていくように感じる。
壱は人にはそれぞれの道があると彼女に説くが、二人の心はすれ違うばかりで…」
「アルラウネ」はドイツの怪奇小説家、ハンス・ハインツ・エーヴェルスの小説が有名で(注1)、「妖華」でも「魔性の女(ファム・ファタール)」が扱われております。
池田悦子先生お得意のテーマのように見えて、「妖華」はそこまでの評価を得られてはおりません。
理由を考えてみますと、まず、ヒロインの遠野華の性格が話によってバラバラです。
冷酷無慈悲かと思いきや、妙に心優しい回もあったりして、一貫性が感じられません。
まあ、その点に関しては、「エコエコアザラク」の黒井ミサも魔女というわりにはお人好しなところや脳天気なところがあったので、「女性の気まぐれ」というふうに解釈しておきましょう。
問題は遠野華が想いを寄せる幸彦という奴!!
こいつがあまりにのん気で、遠野華が魔女と知りながら、普通に付き合い、被害を拡大させております。
神父のくせに、オメーは何がしたいんだよ?!
しかも、最終回ではあまりのへたれっぷりにガッカリきます。
というわけで、ストーリーは悪くないものの、キャラクター設定で損をしてしまった作品のように思います。
それでも、池田悦子先生が原作ですので、そこそこ面白いですよ。
あと、併録の「春の光」は箏が扱われていて、なかなか新鮮に感じました。
・注1
大学生の頃、国書刊行会の本で読みましたが、全く覚えてない…。
ちなみに、エーヴェルスは「蜘蛛」という短編が恐らく、一番有名です。
「怪奇小説傑作集D」(創元推理文庫)で簡単に読めますので、まだの方はとりあえず読んでみてください。
2025年4月17・18日 ページ作成・執筆