高階良子「美術部殺人事件」(2002年11月15日初版発行)

 収録作品

・「美術部殺人事件」
「母親の再婚相手とうかくいかず、暁学園高等部に編入することとなった椿森聡美。
 彼女が入る湊河寮はエリート養成のためのもので、聡美は何故自分が無試験で入れたのかさっぱりわからない。
 学園では生徒は必ずクラブに所属しなければならず、聡美は美術部を選ぶ。
 同じクラスで美術部員の蜂谷優香に美術室へ案内されると、そこには女性の肖像画を見つめる青年の姿があった。
 彼は、美術部部長の岩瀬七海。
 そして、肖像画の女性は、湊河園長の愛娘、湊河多佳子を描いたものであり、聡美によく似ていた。
 蜂谷優香が言うには、岩瀬部長の恋人はその絵の女性なのだと言う。
 また、クラスメートの話によると、あの絵を描いたのは、五年前の美術部部長、那珂里康樹(なかざと・やすき)。
 彼は、絵を描き上げた直後、那珂里は謎の転落死を遂げ、多佳子は絵の前でナイフで自殺する。
 以来、夜になると、多佳子の肖像画の前では、すすり泣く声が聞こえると噂されていた。
 その話の最中、偶然、通りかかった優香に、聡美はある提案を持ち掛けられる。
 岩瀬部長は多佳子の幽霊に憑りつかれており、午後十時に美術室をこっそり調べてみないかというものであった。
 夜、聡美が美術室に向かうと、噂通り、何者かの呻き声が聞こえる。
 慌てて優香と共に、肖像画の前に行くが、優香の目的は別のところにあり、聡美にどうやって湊河寮に入れたのか聴き出そうとする。
 呆気にとられる聡美に優香は激情し、詰め寄られるうちに、聡美は頭を打って、意識を失う。
 気が付くと、聡美は自室のベッドの中であったが、服は優香の血にまみれていた。
 そして、部屋の外では蜂谷優香が首を刺されて殺されたために大騒ぎになっていた。
 院長や寮長の本多洋子が聡美の部屋に駆け付けてきたが、彼女達は聡美が殺人事件と無関係のように装おうとする。
 蜂谷優香を殺したのは誰…?
 そして、湊河多佳子の肖像画にまつわる秘密が明らかになる…」

・「園芸部殺人事件」
「一年生の野妻詩織は園芸が大好きで、園芸部のホープと目されていた。
 園芸部では、非常に珍しい、ヒマラヤ原産のシルバーソードの育成に成功しており、詩織が在学中に二十年に一度の花が咲くとされていた。
 ある日、別のクラスになり、疎遠になっていた酒井美咲から手紙が届く。
 その手紙には、詩織に話したいことがあると書かれていたが、詩織がその手紙に気付くよりも前に、美咲は待ち合わせ場所のプールで溺死体で発見される。
 更に、その死体にはシルバーソードの葉が一本、握られていた。
 美咲は、学園のスポンサーの娘、藤崎摩堵香(まどか)の一味にいじめを受けており、それを苦に自殺したとの噂が流れる。
 だが、学校側は単なる事故死として扱い、詩織は美咲の訴えに気付かなかったことへの悔恨に苛まされる。
 そして、詩織が三年生になって迎えた初夏。
 これまでの努力が実り、シルバーソードに花が咲く兆候が見え始める。
 時を同じくして、ハワイ帰りの三歳年上の片瀬蓮が詩織のクラスに編入してくる。
 蓮は何かと園芸部に顔を出し、詩織と関わろうとするが、彼には藤崎摩堵香も目を付けており、二人ははたから見てもラブラブ・モード。
 だが、実は、蓮は美咲の事件について探っており、美咲は自殺でなく、殺されたと詩織に断言する。
 そうして、二人は事件の真相に近づいていくのだが…」

・「妖かし研殺人事件」
「千本松高校の旧校舎の奥に、三年前に行方不明になった西野実奈子の霊が出るという噂が立つ。
 霊が出るとされる場所は、昔の美術室で、そこには「妖かし研究同好会」(通称「妖かし研」)があった。
 一年の園村里香子は友人達と共に幽霊を見ようと旧校舎へ赴く。
 そこで実奈子は、幽霊の代わりに、妖かし研の部長、悠木孝司と出会い、成り行きから入部することになる。
 妖かし研という名称であったが、降霊会や怪奇スポット巡りをりするわけでなく、悠木孝司が言うには、霊が現れるのをここでただ待つのみとのこと。
 だが、こういう部でも、美術部の顧問、三塚先生が掛け持ちで顧問となっていた。
 その話を、里香子が友人の田所美帆にすると、彼女は大興奮。
 美帆は三塚先生の大ファンで、彼の行動を逐一チェックするストーカーまがいなことをしていた。
 美帆に好みのタイプを聴き出すよう頼まれ、里香子が妖かし研を訪れると、西野実奈子の写真を見つめる孝司の姿があった。
 里香子から三塚先生の好みのタイプを(かなりの意訳で)聞かされた美帆は妖かし研の入部を決意し、妖かし研へ向かう。
 だが、美帆はなかなか戻って来ず、里香子が妖かし研へ行くと、悠木孝司が意識を失って、床に倒れていた。
 更に、仕切りの向こう側には、美帆の首吊り死体が…。
 美帆は自殺したのか…?
 そして、西野実奈子の幽霊は本当に出るのであろうか…?」

・「時の迷路殺人事件」(「冥界のラビリンス」改題)
「岡崎由香が目を覚ますと、記憶を失っていた。
 両親の顔さえもわからず、町を出歩いても、知らない町のような感じが付きまとう。
 更に、由香は恐ろしいことに気が付く。
 鏡に自分の姿が映っていないのであった。
 また、夜中、両親の会話から、両親には子供がいないことを知る。
 由香は自分はもう死んでいると考え、そのことに気付かないふりをすることを決意。
 死んでいる(らしい)身でありながら、由香は、父親の後輩である伊庭(いば)に心惹かれる。
 彼はある殺人事件の犯人を捜していた。
 その目撃者は由香で、彼女は火事になった家の二階から落ちて、記憶を失ったらしい。
 由香は徐々に記憶を取り戻していくのだが…。
 炎を中に現れる女の正体は…?」

 ミステリーというものは複雑化するものでありまして、情報量が多くなると、スッキリ仕上げることは難しくなります。
 このハードルを越えるのはなかなか大変で、ここに挙げた作品もわかりにくいところが若干あるように思います。
 でも、筋はきっちり通っており、矛盾が見当たらないのは流石!!(重箱の隅をつつきまわせば幾らでも出てくるでしょうが、そこは目をつむりましょう。)
 個人的なお気に入りは「園芸部殺人事件」。
 また、「時の迷路殺人事件」も異色作で、重い余韻を残します。

2017年8月8〜10日 ページ作成・執筆

秋田書店・リストに戻る

メインページに戻る