わたなべまさこ「天使と挽歌A」
(日向葵・原作/1978年11月10日初版発行)

 赤い血が染みついた宝石の指輪。
 それは、中世の頃、悪事の限りを尽くした魔女、ローズバッドの持ち物であった。
 彼女は富、名声、快楽とあらゆるものを手に入れたが、唯一、「真実の愛」だけは得ることはなかった。
 ギロチンにかけられる前、魔女は指輪に、世の中の恋人達への呪いをこめる。
 そして、時は流れ、現在…

・「砂糖菓子の季節」
「海辺の別荘で過ごす美しい姉妹、イザベルとマリアンヌ。
 姉のイザベルは車椅子が必要な身体で、妹のマリアンヌは、姉を不具者にしたとの罪悪感から、甲斐甲斐しく姉に尽くす。
 そんな二人の前に、別荘の持ち主の息子、ミシェル・リボールが現れる。
 ミシェルは活発なマリアンヌと恋仲となるが、イザベルも密かに彼への想いを抱いていた。
 だが、イザベルは自らの恋をあきらめ、二人の幸せだけを祈る。
 一方のマリアンヌは姉への罪悪感に苛まされ、ミシェルから身を引こうとする。
 ある日、マリアンヌとミシェルは灯台島にボートでピクニックに出かける。
 しかし、急な嵐でボートが流され、二人は島に取り残される。
 その頃、イザベルは、不自由な身体故、窓が閉められず、別荘で雨ざらしとなっていた…」

・「風はふりむかずに」
「ある村の収穫祭にやって来た、一人の青年。
 彼は、元・スコットランド・ヤードの刑事、アーノルド・ホワイトに、ローズバッドの指輪を買うよう持ち掛ける。
 その値段は、40万ポンド。
 そして、青年は、アーノルドが射殺した強盗犯の息子であった
 13年前、刑事だった彼は、護送中の強盗犯からある提案を受ける。
 自分を逃がす代わりに、金の隠し場所を教えようというのだ。
 目の不自由な、娘のアイリーンと、刑事としての良心とに板挟みとなった彼は、はずみで強盗犯を射殺。
 結局、隠した金を自分のものとしてしまう。
 そして、今、強盗犯の息子がその金を取り戻すべく、彼を脅迫する。
 自分の家庭を守るため、アーノルドが向かった所は…」

・「パンドラの罠」
「ギリシャ、ミコノス。
 平凡な娘、パンドラは、サロモス家の邸を訪れた際、主人のタノスと出会う。
 タノスは彼女の前に、ローズバッドの指輪を投げ、自分の妻となるかどうかを問う。
 タノスは飛行機事故で両親も兄弟も亡くし、その顔半分には醜い傷痕が残っていた。  パンドラはこのチャンスに自らの「希望」を託し、タノスと結婚する。
 しかし、二人の結婚は不幸であった。
 パンドラは、タノスの氷の心を愛で溶かそうと努めるが、彼の心は頑ななままであった。
 そんなある日、彼女の前に、タノスの従弟、アレキシスが現れる。
 彼女は、彼の太陽のような明るさに魅了され、彼にこそ本当の「希望」を見出すのだが…」

・「光と影のロンド」
「一代で財を築いた大岡財閥の跡取り息子、大岡紀彦。
 彼は、幼馴染の、おでん屋の娘、冴子と結婚の約束をしており、結婚指輪として、ローズバッドの指輪を送る。
 しかし、華族のお嬢様、鷹爪美和とのお見合いが彼に持ち込まれ、彼は冴子を捨てる。
 冴子は、紀彦と美和の結婚式に、ローズバッドの指輪を送りつけ、自分はやけ気味に、前科持ちのチンピラと結婚。
 その後、冴子は女児に恵まれるが、偶然に紀彦と美和の間にも女児が産まれたことを知る。
 彼女は、自分の赤ん坊に左腕に赤い刺青を施した後、産婦人科に忍び込み、紀彦の子供と交換する。
 時は流れ、紀彦と美和のもとで、冴子の子供、光子は、美しく、幸せな娘へと成長していた。
 一方、影子と名付けられた、紀彦の子供は、冴子につらくあたられる日々を送り、不良娘となる。
 そして、ローズバッドの指輪が怪しく光る時、光子と影子の人生が交差する…」

 個人的に面白かったのは、「砂糖菓子の季節」。
 ちょっぴり「聖ロザリンド」が入ってて、嬉しかったです。
 また、「光と影のロンド」はお得意の「取り換えっ子」をテーマとした作品です。
 「悪女」を描かせると、筆の冴えが違いますね!

2019年5月15日 ページ作成・執筆

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