高階良子「蜜の森」(1986年4月1日初版発行)

 収録作品

・「蜜の森」
「鈴本亮は大学院生物学科の学生。
 彼の先輩の倉本はブラジルのアマゾンにテレビ取材に出かけ、幾つか記念品を持って帰る。
 その中に、見たことのない植物の実があった。
 それは猿が握っていたもので、案内人のインディオ保護官、辻子郎は毒だと警告する。
 亮はそれをもらい、家で調べる。
 殻は固く、殻の繊維を顕微鏡で調べたところ、未知の組織であった。
 次に、実にメスを入れると、殻が裂け、この世のものとは思えない甘い香りが立ち上る。
 その香りに酔って、亮は三層になった果実の一つを口にする。
 すると、南米にしかいないはずのモルフォ蝶が彼の目の前を飛び、それを追うと、いつの間にかジャングルの中にいた。
 そこで、彼は美しい少女と出会う。
 彼女は「夢の木の花」で、彼は彼女を「フローラ」と名付ける。
 彼は、夢の木の実を食べたために、このような夢を見ているのであった。
 彼は、彼女と会うために、夢の木の実を食べていく。
 そして、夢の中で花の蜜を飲むごとに、彼女の住む世界との間にあるベールが少しずつ剥がれて行く。
 フローラは、二人が一体になるためには、本物の夢の木を訪ねるよう言うのだが…」

・「哀島洞窟」
「鹿賀野裕(かがの・ゆう)はS大学に籍を置く日本史研究家。
 三年前、彼の恋人、真理は「(彼が)よろこぶもの」を取りに行ったまま、行方不明になっていた。
 ある日、彼のもとに、宮下真理からの小包が届く。
 出されたのは三年前で、中身は、彼が捜し求めていた古文書の二・三巻であった。
 それは、壇の浦の戦いで安徳天皇が草薙剣(くさなぎのつるぎ)と共に密かに逃げ延びたことが記述されており、一巻のみ裕は入手していた。
 小包の消印は広島の姫髪島で、同僚かつライバルの篠沢康彦と共に向かう。
 そこで、裕はある旅館を見つけるが、旅館の主人は真理の親戚で、古文書はその家に伝わるものであった。
 旅館の主人に話を聞くと、彼女は、古文書を借りて行って以来、行方がわからないと言う。
 この古文書には、安徳天皇はこのあたりまで逃れたものの、病死し、小さな島の洞窟に葬られたと書かれてある。
 とは言え、このあたりは島がたくさんあり、どこなのか見当がつかない。
 その夜、裕が風呂に入ると、岩陰に真理の気配があった。
 彼女は「哀島は……ほんとに名前のとおり哀しい島」と言い残して去り、彼は追うも、彼女の姿はない。
 裕と康彦は「哀島」へと舟を出すが、そこは死人の霊が集まると言われる島であった。
 そこで、裕が目にしたものとは…?」

・「遠い闇より」
「笠原仁と亜子は、血のつながりはないものの、この世で二人だけの兄妹。(亜子が幼い頃、仁は里子として家に来た)
 二人は、祖父・両親が亡くなった後も、華山家の土地を借りて、街道筋に茶店を構えて、生計を立てていた。
 笠原家は華山家の先代に並々ならぬ恩があり、亜子は病弱な当主、広春のために薬草を採取する。
 広春は病弱なだけでなく、足も不自由で、別棟の奥に閉じこもり、亜子でさえ顔を知らなかった。
 ある日、広春のいとこ、厚史がやって来て、その幸せな生活に陰が差す。
 厚史は、広春の命が長くないことから、この邸の全てを手に入れたつもりで、好き放題。
 だが、当主の広春は亜子達の生活を守ることを約束し、重役達を呼ぶよう手配する。
 それを知った厚史は夜中、ひそかに広春の部屋の窓を開け、肺炎を起こさせる。
 更に、その現場を仁に見られたため、広春は仁を事故に見せかけて、殺害。
 店は潰され、厚史には手籠めにされそうになり、亜子は死を選ぼうとするのだが…」

・「地獄のマリア」
「厚子はいとこの直樹が好きでたまらない。
 だが、彼がしのぶという女性と結婚すると聞き、彼女は嫉妬に苦しむ。
 当てつけのため、鬼が谷という自殺の名所へ行くが、吊り橋で誰かに呼ばれた気がする。
 下に降りると、土砂崩れを起こした場所があり、彫った下から、マリア像が出てくる。
 彼女はマリア像を木の洞(うろ)に安置して、兄としのぶの仲を裂くよう祈る。
 その夜、厚子の夢の中に、マリアが現れる。
 マリアは、厚子の願いを叶えるかわりに、彼女を「わたしのすむところへ」「つれて行きたい」と話し、厚子は了承する。
 目が覚めると、寝汗で濡れており、着替えようとすると、マリアが手を当てていた肩に、手形がついていた。
 翌日、しのぶは首のスカーフをトラックに引っかけられ、重体となる。
 憔悴した直樹を目にして、厚子は鬼が谷へと向かうのだが…」

 「蜜の森」には辻子郎が出ていて、「精霊の森」とつながりがあります。
 どの作品も安定した出来ですが、個人的には、「哀島洞窟」が、おどろおどろしいムードで面白かったです。

2022年2月14・15日 ページ作成・執筆

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