山上たつひこ「鬼面帝国」(1976年4月30日初版発行)

 収録作品

・「鬼面帝国」(1969年「週刊少年マガジン」6月29日号・7月6日号掲載)
「万国博(ばん・くにひろ/通称「バクー」)と樽本治太は、喧嘩で崖から転落、意識を取り戻すと、奇怪な世界にいた。
 彼らは、他の人間と共に、鬼達に監視され、どこかに移送されている途中らしい。
 輸送車から脱出した二人は、ここが「死の世界」で、死者は「ヘルの町」に送られることを知る。
 この世界から脱出する方法は、自身の死が「完全の死」でない状態(例、仮死状態)で、法の神アマートの管理する「生の門」を通れば、蘇えることができるらしい。
 その可能性に一縷の望みを託し、二人は、閻魔大王の娘が乗る馬車を襲い、御者から鎧をぶんどり、ヘルの町へと入る。
 ヘルの町では、死者達は鬼達に虐げられており、彼らの唯一の望みは「スカーヴァティー(極楽)」に行くことであった。
 手配中の死者であることがばれてしまった二人は逃げるも、樽本は捕縛。
 一方のバクーは窮地を、中学校の時の熱血教師、岡崎先生に助けられる。
 しかし、岡崎先生は、鬼の手先であり、バクーは鬼達に引き渡されてしまう。
 二人は死刑を待つ身になるが、その二人を閻魔大王の娘が助ける。
 彼女は「生の世界」に興味を持ち、二人に連れていくよう頼む。
 バクー、樽本、鬼娘の三人は、スカーヴァティーに向かう船を乗っとろうと企てるのだが…」

・「ウラシマ」(1972年「別冊少年マガジン冬期号」掲載)
「豊城小学校にて、先生が八名殺害され、児童2500人が行方不明になる事件が起きる。
 ただ一人、無事だったのは、目を怪我して、保健室で休んでいた友成という少年であった。
 彼は、家で介抱していた行き倒れの老人からことの真相を教えられる。
 老人は、昔話の浦島太郎の弟、次郎であった。
 老人によると、昔話の浦島太郎は半分は偽りであり、乙姫は残忍な性格で、太郎は三年、次郎は十二年、竜宮城で奴隷として働かされていたという。
 最期に、老人は、乙姫のペットである海亀が密猟者に殺されたことへの復讐を企てていると告げ、こと切れる。
 その時にはすでに「水亡」(水死者のゾンビ)の魔の手が友成に伸びていた。
 友成はたった一人で乙姫の率いる「水亡」達と立ち向かうことになる…」

・「ミステリ千夜一夜」(1968年4月25日完成)
「一人の男が、スパカマ星にあるスズキTNT鉱石開発会社の工場を訪れる。
 彼は会社から派遣された調査官で、工場の生産が落ちていることを調べることが目的であった。
 工場の作業員は三人で、皆、調査官に対して隠し事をしている様子。
 調査官は発掘現場を見て回る際、この星の原住民(といっても、猿より少し知能が高い程度)の部落に寄る。
 そこで、彼は、工場の生産が落ちている、本当の理由を知るのだが…」

・「そこに奴が… JACK THE RIPPER」
「2156年、(多分)日本の関西地区で、若い娘が、喉を切られ、脇を抉られるという連続殺人事件が起きる。
 一月で四人も被害者を出しながらも、犯人の出没する地点があまりに支離滅裂で、捜査は難航。
 そんな時、警察署や新聞社に犯人からと思われる手紙が届く。
 差出人は「ジャック・ザ・リパー」とあり、若い刑事のタニは、1888年の「切り裂きジャック」事件との類似に気付く。
 268年の時を超えて、切り裂きジャックが蘇えったのであろうか…?
 タニは「霧の中の殺人鬼」という、古い芝居に謎を解く鍵を見出すのだが…」

 どれも傑作でありますが、やはり目玉は「鬼面帝国」でありましょう。
 前の袖で「地獄をSF冒険活劇風にえがいてみました」との作者の言葉があり、陰惨さを目的とした作品ではありません。
 でも、人間や善悪といったものに対する、作者の考えが所々で述べられていて、読後感は複雑です。
 破天荒でありながらも、その底には深い洞察が堅固としてある作品で、作者の懐の深さを感じさせます。
 また、「ミステリ千夜一夜」「そこに奴が…」は「SF」と「サスペンス・ミステリー」の非常に巧みな融合です。
 SF作家としても、山上たつひこ先生はもっと、もっと評価されるべきですよ!!

2019年6月20日 ページ作成・執筆
2019年9月12日 加筆訂正

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