楳図かずお「恐怖@」(1971年11月10日初版・1992年2月20日62版発行)

 ここに語られるのは、みやこ高校新聞部に籍を置く新井エミ子と夏彦の体験した怖い話。

・「うばわれた心臓」
「ミステリークラブ主催の「百物語」を取材するため、エミ子は「百物語」に参加する。
 会は進み、九十九話目。
 話のネタに困った松山瞳は自身の体験談を語り出す。
 過去、彼女には御山多加子という大親友がいた。
 心臓移植のニュースに触発された二人は、面白半分に、どちからかが心臓の病気になった時、片方が死ねば、その心臓を相手にあげるという約束をする。
 それからしばらくして、瞳は重い心臓の病気が明らかになる。
 多加子は、自分が死んで、瞳に心臓を移植されるのではないかとノイローゼになり、それが悪化、とうとう外出すらままならなくなる。
 だが、それが災いし、家にダンプが突っ込んできて、多加子は即死。
 以前の約束通り、多加子の心臓は瞳に移植され、瞳は一命を取り留める。
 その話が終わり、百話目をエミ子が話し始める。
 その内容とは、多加子の死の真相であった…」
 あかつかただし(aka 故・木村光久先生)「わたしの影がない」でも扱われてましたが、解剖の際に意識があると言うのは、海外の「ミステリー・ゾーン」か何かが元ネタなのでしょうか?

・「吸血面」
「演劇部の豆まきパーティ。
 彼らは御霊神社から鬼の面を無断で借り、美人部員の美原レイ子に鬼の役をやらせる。
 しかし、豆まきの最中、レイ子の姿が見えなくなる。
 演劇部の連中が彼女を探すと、彼女は御霊神社の中で倒れており、鬼の面が飾ってあった壁のお札が破り取られていた。
 以降、彼女の顔から鬼の面がどうしても取れなくなってしまう。
 それから、数日後、学校で女子生徒が首から血を吸われるという事件が起きる…」

・「毒ガ」
「理科学部のリーダー、大宮ルミ子。
 彼女の研究は、毒蛾の鱗粉から防腐剤を作り出すことであった。
 ある日、ささいなことから、田中由美という女子生徒が転落死。
 ルミ子は、由美の両親を説得して、死体に防腐剤を注射する。
 しかし、それ以降、死体に蛾が群がるようになる。
 また、由美の死因となった女子生徒が、死んだはずの由美から襲われる。
 異変はこれだけにとどまらず、由美の死体は口から糸を出し、繭を作り始める…」

・「恐怖の館」
「山で遭難したエミ子と夏彦。
 彼らは偶然見つけた洋館に避難する。
 そこの主人は、身体中をマントに包んだ、奇妙な男であった。
 部屋に案内されるが、どこからか悲鳴が聞こえる。
 悲鳴のする地下室に向かうと、そこは拷問室で、刃物の振り子の下、老人が拘束されていた。
 実は、老人は「恐怖がからだにどんな変化をあたえるか」を息子を使って人体実験をしていたのだが、今、息子に復讐されていたのである。
 エミ子と夏彦は館から脱出を図るが…」
 私のトラウマ大傑作。でも、今読んだら、十ページぐらいしかないんだよね。ところで、「刃物の付いた振り子」って実際は何て言うのでしょうか?

・「白い右手」
「ピアノの好きな女子生徒、五十嵐文子は下校途中、車に右手を轢かれる。
 意識を取り戻すと、そこは天才ピアニストの野木カオルの病室であった。
 全身が腐る病気にかかっていたカオルは、文子に右手を移植したいと話す。
 手術は秘密裏に進み、文子は復学。
 以来、文子は天才ピアニストとして名を馳せるようになる。
 しかし、文子の「右手」は、文子の意に反して、ピアノを弾くことに執着。
 邪魔する者を容赦なく襲うようになる…」
 さがみゆき先生「お墓に手首と指三本」に影響を与えているように思います。

・「顔を見ないで」
「下校途中、夏彦は車に撥ねられ、気絶する。
 気が付くと、久美という女性の家で、介抱されていた。
 彼女の美しさに魅了され、夏彦と久美は度々彼女の家で逢瀬を重ねる。
 夏彦の突然の変化と、易者の言葉から、エミ子は彼にただならぬことが起こったと確信。
 彼女の神仏への祈りが通じ、久美はある夜、その正体を現す。
 久美はもはやこの世の者でなく、その姿は腐乱死体そのものであった。
 怯える夏彦に、久美は「八月三日」に迎えに来ると告げ、姿を消す。
 霊の呪縛から逃れた夏彦は順調に回復するが、「八月三日」が近づくにつれ、落ち着かなる。
 そこで、当日、幽霊など出そうにない海水浴場に皆して出かけるのだが…」

・「こわい絵」
「江夏先生の妻、優子は、病の身をおして、自画像を描く。
 その自画像は花嫁衣裳の彼女が剣を持っているというものであった。
 絵の完成した当日、彼女は死去する。
 時が経ち、彼は、女子生徒の麻利アヤコと、卒業後に再婚。
 彼女は、前妻の部屋に住むことになるが、その部屋にはあの自画像が飾られていた。
 幸せな日々が続いたある日、アヤコは絵が変化していることに気付く。
 日々を追う毎に、絵の中の優子が憤怒の表情を増しているのであった。
 アヤコは絵を捨てるよう夫に懇願するが、夫は躊躇するばかり。
 そのうちに、アヤコは、絵の優子に殺される幻覚を見るようになり、寝付いてしまう…」
 ラフカディオ・ハーン「破約」に絵画怪談を絡めたものですが、展開を一捻りしております。流石!!

・「雪女」
「蔵王でスキーをしている最中に遭難した水島と加藤。
 彼らが偶然見つけた山小屋に避難していると、そこへ雪女が訪れる。
 加藤はあっさり凍死させられるが、水島はハンサムなので見逃すとのこと。
 ただし、他の女の子を愛さないよう約束させられる。
 雪山から運よく生還した水島であったが、退院後、小夜雪子という美しい女子生徒が転入してくる。
 雪子は水原に付きまとうが、雪女との約束があるので、彼女に心を動かされまいとする。
 しかし、彼が入院した際、甲斐甲斐しく尽くしてくれる彼女に遂に本心を明かしてしまう…」

 私にとって「原点」の一つとも言える単行本です。
 のみならず、「恐怖」「怪」シリーズは、後の怪奇マンガの原型(プロトタイプ)となったものではないかと考えております。
 ここで一番重要なのは、過去の様々な材料(映画、小説、伝説、等)を用いながら、それに「新しい命」を吹き込み、現代的な恐怖を産み出したこと。(注1)
 言い換えると、「恐怖」を現代に通用する形に再構築したということであり、そこに楳図かずお先生の偉大さの一つがあると思います。

 あと、「恐怖」の単行本の帯の文章は「深い」ように思いましたので、全文掲載してみます。(文章が楳図かずお先生によるものかどうかわかりません。)
「恐怖は……実生活の中に、ひそかにたむろするとともに心の虚構の中にたくみに、その姿を組み立てはじめる。人によって、ついに恐怖のとらわれの身となる人もいれば、ひややかな笑いで恐怖をあざけることさえ出来る人もいる。あるいは、心の中の経験とするなら、最後の一点をめざして、積み上げていく微妙なかけ引きは、どんな物語よりも強烈に感情をとらえて、はなさないでしょう。
 これは、恐怖を多角度のパターンで、かき集めたものです。」

・注1
 今現在も、意欲的な怪奇漫画家さん達によって「恐怖の深化・再構築」が果敢に行われております。
 そういった優れた作品についても積極的に扱っていきたいと思うものの、その時間が今のところ、ありません。
 言い訳でしかありませんが、内容の素晴らしさに関わらず、顧みられることの少ない、過去の怪奇マンガについてまずは紹介したいのです。

2018年1月27日 ページ作成・執筆

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