香坂鹿の子「不死蝶伝説」(1989年5月25日初版発行)

 収録作品

・「不死蝶伝説」(「ひとみCCミステリー」1988年8月30日号掲載)
「故蝶鱗(こちょう・りん)は勉強もスポーツも抜群、しかも、イケメンという転校生。
 片桐菜々は、彼が木陰でうたた寝をしている時、彼の周りに蝶が群がっているのを目にしてから、彼に好意を抱くようになる。
 片想いだと半ばあきらめていたが、ある日、彼からデートのお誘いの手紙が届く。
 デートで菜々は彼に蝶のことを話すが、途端に彼は顔色を変え、自分のことは忘れるよう告げて、立ち去る。
 失恋にショックを受ける菜々だが、翌日、学校で、鱗の周りにいた女子生徒が三人、同時に事故死する。
 菜々が、事情聴取を終えた鱗を警察署の前で出迎えに行くと、彼は彼女に全てを明かす。
 山口県出身の彼は、平家の子孫であった。
 壇の浦の合戦の後、山中に追い詰められた先祖は、助けてくれれば、山の神のしもべとなり、どんな言いつけにでも従うと祈る。
 その祈りが通じ、山の神は加護と繁栄を約束するが、その代償として、毎年、若くて美しい男を捧げるよう求める。
 そのいけにえに選ばれたのは、彼の父や兄で、二人共、森で行方不明になっていた。
 更に、山の神は、結婚する相手の決定権も持ち、それが原因で、彼の姉は自殺する。
 そうしたことから逃れるため、彼と母親は部落から逃げ出したのであった。
 だが、山の神の追手である蝶は執拗に彼を監視していたことを知り、鱗は絶望する。
 しかも、修学旅行では壇の浦に寄ることになる。
 菜々は彼を守る決意をするのだが…」

・「パパとママに殺される」(「ひとみDX」1988年7月25日号掲載)
「宏美は、勇樹と美華の、新しい母親ができる。
 だが、二人は、継母が元妻の子供をいじめるという話を聞き、非常に神経質になっていた。
 しかも、二人が心を込めて準備した百合も、飼おうとした猫も、宏美は大の苦手で、トラブル続き。
 遂には、朝食抜きで学校に出かけた二人が風邪で倒れ、宏美は学校で散々なじられる。
 子供達にとって、しっかりした母親であろうと、宏美は努力を重ね、子供達との仲も改善していく。
 しかし、ある日、彼女は学校から呼び出され、意外なことを聞かされる…」

・「桃花童子」(「ひとみCCミステリー」1988年12月30日号掲載)
「昔、山中の村。
 源太は天から桃色の玉が落ちてくるのを目にする。
 その玉の中には赤ん坊が入っており、滝へと流されてしまう。
 玉は下流で、子供のない老夫婦に拾われ、赤ん坊は桃太郎と名付けられる。
 源太は桃太郎を、神の子と信じ、絶対守ると決意する。
 桃太郎には不思議な力があったが、飢饉の際、いけにえにされそうになったことが原因で、老夫婦と源太、それと森の動物達以外には心を開かない。
 数年後、桃太郎は、女よりも女らしく成長する。
 源太は彼に心を動かされ、桃太郎も彼への想いを隠そうとはしない。
 だが、源太にその想いを拒否され、桃太郎は、友達でいる代わりに、男として生きることを約束する。
 そんなある日、村が山賊に襲撃され…」

 知名度は低いですが、力作揃いの単行本です。
 バッド・テイスト、かつ、奇想炸裂の「不死蝶伝説」、後味悪すぎ「パパとママに殺される」(注1)、おとぎ話をベースに倒錯した悲恋を描いた「桃花童子」、どれも読み応えがありました。
 中でも、「桃花童子」は傑作だと思います。(ただ一つ、難を言うと、桃太郎の正体、最後まで謎なのが残念。)
 こういう作品の方が、純粋なホラーよりも作者の資質に合っていたんでしょうね。(ホモの要素もありますし…)

・注1
 ラストから、トラウマ・ホラー「ザ・チャイルド」の影響ありかも…と思いました。(違ってたら、ゴメンね)

2020年11月19日 ページ作成・執筆

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