戸部けいこ「ミステリー劇場@ 鏡よ鏡…」(1989年8月20日初版発行)
収録作品
・「鏡よ鏡…」
「高校一年生の高田麗子は、美人でナルシスト。
お気に入りの鏡に自分を映していると、時を忘れてしまう。
だが、その美しい容貌に反して、孤独であった。
たくさん友達がいたのに、いつの間にか一人ぼっちで、何をしても冷たいとかキツイとか周囲にひどく言われる。
その腹いせに、他人のボーイフレンドを誘惑して、トラブルを起こし…という悪循環。
しかし、友人の直子(「直ちゃん」だけしかわからないので推測)のボーイフレンドを奪ったことが、麗子に大打撃となる。
直子にボーイフレンドを返してくれるよう乞われ、麗子は彼をふったものの、直子もふられてしまい、ショックで交通事故死してしまったのである。
良心の呵責に苛まされ、麗子は家の鏡を破壊し、自分は悪魔だと嘆く。
高田家はN市郊外に引っ越し、髪を切った麗子は、ミッションスクールの私立F高校に転校する。
早速、山下菜摘という友人もできるが、孤立を恐れ、「自分」を徹底して抑える。
だが、彼女の偽りの態度は、仰木優という男子生徒にあっさり見破られ、自分に正直になるよう言われる。
帰宅後、疲れ果てた彼女は鏡に向かって自分の「よこしまな心」を吸い取ってくれるよう願う。
翌日、麗子の心は妙に晴れ晴れ。
菜摘が勧めてくれた陸上部のマネージャーになるが、あれだけ気が進まなかったのに、楽しくて仕方がない。
あるきっかけで、麗子は、陸上部員の仰木優と急接近する。
しかし、菜摘から、優と付き合っていると言われ、麗子の過去の傷口が再び開く。
菜摘と優のもとから去ったものの、優への恋慕をどうしていいかわからず、麗子は苦しむ。
その時、鏡の中から「横取りしちゃいなさいよ」という声が聞こえる。
鏡の中には、もう一人の麗子がいた…」
・「鏡よ鏡…U 惨劇の館」
「麗子は、奇妙な夢を繰り返し見る。
港の見える丘に建つ古い洋館に、死んだ直子が入り、麗子は後を追う。二階に上がると、ある部屋のドアが開き、部屋の正面にはカーテンに隠れて鏡があった。鏡に近づくと、鏡の中から悪魔(もう一人の彼女)が現れて、彼女に襲いかかる…という夢であった。
麗子は、優の勧めで、恩田神父と会い、夢について話す。
神父はそれは「魔鏡」で、それは「見る人の心の弱さにつけ込み、その人物に乗り移って人間界に不幸をまき散らす悪魔の住む鏡」だと話す。
数十年前、横浜の貿易商により日本に持ち込まれ、長い間、行方不明であったが、どうも、麗子が二年前に古道具屋で買った鏡がそれらしい。
神父は麗子の家にある魔鏡に封印をするが、悪魔は別の鏡に逃げており、麗子はその鏡に閉じ込められてしまう。
悪魔がとり憑いた麗子は優を誘惑し、母親と恩田神父にケガを負わせ、病院送りにする。
麗子の様子に疑問を持った優は、鏡の中に本物の麗子が閉じ込められていることに気付き、恩田神父の息子、昇に助けを求める。
二人は、魔鏡から麗子を助け出した後、魔鏡を壊さねばならず、これはなかなか厄介であった。
しかも、悪魔が魔鏡をどこに隠したのかがわからない。
ヒントは、麗子が見ていた夢にあるようなのだが…」
・「うしろの正面」
「1983年10月。B高校。
由美はとっても怖がりな少女。
特に、苦手なのは、背後に何かがいる…というもので、いろいろと想像してしまうためであった。
ある日の下校時、気配を感じて、振り返ると、ローラースケートの少女が彼女の方に突っ込んでくる。
声をかけると、少女はバランスを崩し、道路にとび出して、通りがかったトラックに轢かれてしまう。
だが、由美は、関わり合いになるのが怖くて、その場からこっそり逃げ出してしまう。
翌日、由美は、少女が轢き逃げされて、死んだことを知る。
以来、彼女の背後にはその少女がついているような気が拭えず…」
・「初戀」
「文音は病弱な少女。
養子で弟の秀二は彼女を慕い、彼女の喜ぶことなら何でもする。
ある冬の日、秀二は、文音の命が長くないことを知る。
また、その話を文音がこっそり立ち聞きしていたことも…。
雪の降る日、文音は秀二に頼んで、外に連れて行ってもらう…」
名作「光とともに…」で有名な故・戸部けいこ先生。
怪奇マンガの印象はないと思いますが、初期には「プリンセスGOLD」で多くの怪奇マンガ作品を描いております。
単行本の袖によると、怖がりなのに、怖いもの見たさで、ホラーやミステリーに手を出していると書かれているので、バラエティーが豊富なのも納得。
また、どの作品もしっかりと作り込まれており、戸部けいこ先生の誠実さ、また、努力家の面が伝わってきます。
再評価が望まれます。
2021年12月1・2日 ページ作成・執筆