楳図かずお「おろちC」(1971年8月5日初版・1981年7月20日27版発行)

 時を超えて、さまよい続ける少女、おろち。
 彼女が目撃する、あまりに奇怪な人間ドラマの数々とは…

・「秀才」
「立花優は、優秀な父親と美しい母親の間に産まれた、待望の男の子。
 両親は優に愛情をいっぱい注いでいたが、一歳の誕生日に悲劇が起こる。
 立花家に強盗が入り、優は首を刃物で刺されたのであった。
 命はとりとめたものの、首筋には醜い傷痕が残り、子供達は彼を気味悪がる。
 更に、母親は彼に外で遊ぶことは許さず、家で勉強を強要。
 一方の父親はすっかり自堕落になり、母親と優のことは放置する。
 優は小学校に上がった後も、勉強だけはできるが、社交性に欠けた子供になっていく。
 だが、小学五年の時、社会の宿題のために、図書室で十年前の新聞を調べていると、立花家の強盗事件の記事を目にする。
 以来、彼は、母親に言われなくとも、自主的に勉強するようになる。
 彼はひたすら父親が卒業したK大への入学を目指すのだが、彼の真意とは…?」

・「眼」
「盲目の少女、田口恵子。
 ハンデのある身に加え、父子家庭でありながら、家事を毎日きちんとこなしていた。
 ある日、彼女の家に男性が助けを求めて来る。
 彼を中に匿うも、別の男が家に押し入り、彼を刺殺。
 恵子は盲目ということで危害を加えられずに済み、そのまま、気絶。
 その後、恵子の父親が帰宅するが、警察は彼を殺人犯として逮捕する。
 恵子は盲人の観察力から犯人を推測するものの、警察は盲人の言葉を信用してくれない。
 ふとしたことから、彼女は犯人の身分証を手に入れ、仲の良い少年、サトルに犯人捜しを協力してもらう。
 しかし、身分証は過って焼失してしまい、また、犯人に身分証を持っていることを知られてしまう。
 犯人は、身分証を取り戻すために、恵子の周辺にうろつくようになり、恵子は身に危険を覚え始める。
 雨の夜、恵子は、犯人から身を守るために、家の窓や戸を釘で打ち付けるのだが…」
 盲目の少女を主人公に据えた(注1)、サスペンスフルな中編で、かなり面白いです。
 ただ、殺人現場で、犯人の身分証明書が、刑事達には見つからずに、盲目のヒロインが発見するというのは無理があるかも…。
 それから、公害問題をストーリーに(一応)盛り込んでおりますが、うまく溶け込ませていない感じです。

・注1
 「盲目のヒロイン」が主人公のサスペンスと言えば、オードリー・ヘップバーン主演の「暗くなるまで待って」(1967年)。
 有名な映画なのですが、未見です。(そんな映画がいっぱいあって、空しくなる…。)

・備考
 巻末に「足立蔵書」印。

2019年10月9日 ページ作成・執筆

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