楳図かずお「おろちD」(1971年10月10日初版・1981年7月20日23版発行)

 時を超えて、さまよい続ける少女、おろち。
 彼女が目撃する、あまりに奇怪な人間ドラマの数々とは…

・「戦闘」
「岡部正は中学生。
 彼の父は、困っている人がいれば、誰であろうと分け隔てなく親切を施し、その労苦を全くいとわない。
 正は父を尊敬する一方で、父親の行動にかすかな疑問を感じていた。
 そんな彼の前に、片手片足の男が現れ、風呂敷包みを父親に渡すよう頼む。
 正が中をこっそり見ると、中身は頭蓋骨で、正はそれを道端に蹴り捨てる。
 数日後、妹が手榴弾で大怪我をする事故が起き、彼はこれに片手片足の男の影を感じる。
 ほとぼり冷めた頃、彼に、映画のチケットが封筒で送られてくる。
 彼がその映画の指定席に座ると、隣に片手片足の男がいた。
 男は正に、彼の父親が戦争中に送られたガダルカナル島での出来事を話してきかせる。
 以来、正は、父親の親切の一つ一つに裏があるように感じ、父親を避けるようになる。
 極限状況下のガダルカナル島で、正の父が体験したこととは…?
 そして、正は、父への思いに決着をつけることができるのであろうか…?」

 太平洋戦争中の「カニバリズム」をテーマにした力作です。
 非常に難しいテーマにも関わらず、ドラマチックなストーリーに、少年の繊細な心理描写を織り込み、説得力を持たせているのは流石の一言。
 ただ、前半、片手片足の男の行動の意図がよくわからず、そこだけは少し残念です。

・備考
 巻末に「足立蔵書」印。

2019年10月11日 ページ作成・執筆

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