小山田いく「紅い十字路」(1997年12月5日初版発行)

 収録作品

・「夢が知っている」(1997年「サスペリア」4月号)
「バツ当番で帰りが遅くなった日、有坂妙は、小さな電気屋さんで、ビデオテープを買う。
 帰宅後、そのテープで「怪奇特番」を録画するが、テープには居眠りした時に見た夢が録画されていた。
 妙は、このテープを使って、友人の友部清美や朝倉高史の夢を録画。
 だが、朝倉高史の夢に、殺人のシーンが映っていた。
 それは、小学生の彼の前で、初老の男性が、ビデオデッキで頭を割られて死んでいるというもので、被害者は、彼女がビデオテープを買った店の主人であった。
 妙が電気屋について調べるうちに、秘められた過去の殺人が明らかとなるのだが…」

・「紅い十字路」(1997年「サスペリア」6月号)
「真柴祥子が高校に入学するのに合わせて、新興住宅地に建てた新築の家に引っ越す。
 二階の彼女の部屋から見下ろせる十字路では何故か、事故が多かった。
 ある夜、彼女はそこに幽霊らしき男性を目にする。
 そこで、友人の蘭と、その恋人で、寺の次男坊の香西陣に夜、来てもらう。
 蘭が先に来て、祥子と二人、十字路を見下ろしていると、そこに陣がやって来る。
 だが、彼は亡霊達に取り囲まれて、何かを見て、震え慄いている。
 蘭は十字路にとび出すものの、彼女もそれに怯え、遂には、二人とも逃げ去る。
 翌朝、蘭が交通事故死する。
 祥子が陣に会いに行っても、彼は昨日の晩から書庫に閉じこもったきりで、出てこない。
 その夜、祥子は二人が見たものを確かめるために、十字路で待つが…」

・「あたしが死ぬ朝」(1997年「サスペリア」7月号)
「鼓の寿命は十年と25日。
 母方の実家がある村の神社では、村で生まれた赤ん坊の寿命を神様が告げて、その予言は全て的中していた。
 そして、今年の6月8日は、彼女が死ぬ日。
 残された日々を彼女はなるべく普段通りに過ごしながら、友達に心の中で別れを告げる。
 そして、寿命が尽きる日が近づくにつれ、彼女には死者の姿が視えるようになる。
 その浮遊霊達を哀れに思い、彼らの願いを叶えていくのだが…」

・「面影燕」(1997年「サスペリア」9月号)
「夏休み、香代は、小西章夫と共に、彼の田舎の山に登る。
 途中、天気が急変し、無理に空き別荘へ向かおうとした香代を雷が直撃。
 章夫もそれに巻き込まれ、意識不明の重体となる。
 一方、香代の魂は燕の雛にのり移る。
 彼女は、伝えることのできなかった章夫への想いを伝えようと、彼の周囲に現れる。
 だが、彼は、燕を見ると、香代の死を思い出し、猛烈な拒否反応を示す。
 それでも、香代は、燕として生きながら、ずっと彼を見守り続けるのであった…」

・「黒板」(1995年「サスペリア」4月号)
「中学一年生のエミは、空き教室の掃除をした際、そこの黒板が「カズキ君の黒板」であることに気付く。
 彼女が小学五年生の秋、カズキは、学校に侵入した通り魔に殺され、黒板に貼り付けにされた。
 以来、黒板から視線を感じたり、黒板の前にカズキが立っていたのを見たという子が現れ、そのうちに、黒板を背にして歌を歌うと、彼が現れるという噂が立つ。
 結局、黒板は撤去されるが、修理され、中学校で再利用されていた。
 彼のことが好きだったエミは、当時のクラスメート達と共に、カズキを呼び出そうとするのだが…」

・「凍蝶(いてちょう)」(1997年「サスペリア」3月号)
「夕占(ゆふけ)乙夜は街頭の占い師。
 ある冬の夜、彼が店じまいしようとしていた時、パジャマ姿の女の子に「どこへ行けばいいの?」と尋ねられる。
 彼はサービスで占うが、以来、彼女は何度も彼の前に現れ、彼女が行くべき場所について占いを求める。
 風邪気味で朦朧とした意識の中、彼は彼女に乞われるまま、行くべき方向を指示していく。
 一方、彼と同居している姪っ子の夕占弥夜(やや)は、クラスメートの六胡桃紀乃が火事で死んだというニュースを聞いて、ショックを受ける。
 その後、次々と彼女をいじめた男の子や、彼女を捨てた父親が焼死する。
 弥夜は、紀乃が赤い蝶となって、乙夜に憑りついていることに気付くのだが…」

 ベストは、ハートウォーミングな「あたしが死ぬ朝」でしょう。
 ストーリーが、作者の資質と見事に合致した、珠玉の名編だと思います。
 あと、「黒板」は、小山田作品とは思えないグロ描写が炸裂。
 小山田いく先生は、怪奇マンガではたまに「本気」を見せつけていて、プロ根性が窺えます。

2020年12月25・27・28日 ページ作成・執筆

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