古賀新一「血みどろの蟲屋敷」(1987年9月15日初版発行)

「旧家の嫡男、大村秀樹に嫁いだ由美子は不妊症であった。
 そのために、由美子は、義母、義祖母より、陰湿な仕打ちを受ける。
 由美子の身を案じた秀樹は、ある日、孤児院より優(ゆう)という名の少女(13歳)を養女として引き取る。
 彼の母と祖母は血がつながっていないと一顧だにしなかったが、秀樹と由美子は彼女を温かく迎える。
 しかし、優にあてがわれた部屋は、二階の奥にある、あかずの間であった。
 実は、その部屋を使う者は皆、異常な死を遂げたため、封印されていたのである。
 最初の夜、優は祖母と曾祖母が頭を叩き割られている夢を見るが、それ以外はほぼ平穏な日々が続く。
 数か月が過ぎた頃、不妊症と診断された由美子が妊娠。
 また、優はタネゴとして、大村家にもらわれたことを知る。(「子供ができないので、もらい子をすると、なぜかひねくれて妊娠するという言い伝えがある」(p81)とのこと)
 あまりのショックに悲嘆に暮れる優であったが、その頃から、秀樹の様子が徐々におかしくなる。
 庭に人の背丈ほどの穴を掘ったり、斧で優を襲ったりする。
 遂には、ある夜、秀樹は、帰宅途中の女性の後頭部を斧で叩き割り、彼女の脳ミソを貪り喰うまでに、病状が悪化。
 由美子は、生まれてくる子供の為にも、秀樹の病気を治そうとする。
 一方、優の部屋では至るところから奇妙な虫がわき出し、彼女に寄生しようとまとわりつく。
 優の部屋からわき出てくる虫の正体は…?
 そして、十三年前に起きた惨劇がまた繰り返される…」

 1980年代に描かれた、古賀新一先生のマンガの評判はあまり耳にしないような気がします。
 レモンコミックスではまだ力を入れておりましたが、秋田書店での描き下ろしでは、かなりしんどかった御様子。
 ところどころ、絵柄がめちゃくちゃライトな描線になっておりまして、グロ描写との落差は、本格的な怪奇ファンからしてみたら、身悶えしてしまうんじゃないでしょうか?(注1)
 ですが、この時代のマンガもやはり独特の「味」は健在で、捨てがたいものがあります。(と言うか、私は好きです。)
 この作品でも、「不妊症の嫁」→「養女をあかずの部屋に」→「嫁が妊娠」→「脳に虫が寄生して夫が殺人鬼」という、普通の発想では思い浮かばないようなストーリー展開で、「予定調和」なんて陳腐なものは微塵も存在しておりません。(なさ過ぎるのも、問題ありかもしれませんが…。)
 そういうストーリーの合間に、「不妊女の小便は草木をただちに枯れさせる」(p31)とか「タネゴ」の言い伝え等が挿入され、ビザールさだけが高じていきます。
 そして、迎えるラスト、これって海野十三の「振動魔」ではないんでしょうか…?(注2)
 う〜ん、古賀新一先生らしい作品だなぁ〜。

・注1
 絵柄に関しては、私は全く平気です。
 時たま、頼りない描線の部分もありますが、スクリーントーンなんかに頼らずに、自らの手で描き込んでいるところに好感を持ちます。(漫画家は「肉体労働者」なのであります。)
 ちなみに、古賀新一先生の作品、貸本時代の作品から雑誌に掲載された作品、代表作「エコエコアザラク」、ひばり書房や立風書房等での描き下ろし作品、全部が全部素晴らしいとは言えませんが、あらかた好きだったりします。
 約四十年かけて、怪奇マンガ一筋でやってきただけあって、そこには一つの「世界」があると思います。
 そろそろ、古賀新一先生の作品と真摯に向き合おうとする人が現れてもいいのでは?(私には荷が勝ちますので、他の方に丸投げしております。)

・注2
 昔に読んだ作品ですが、ラストはこの作品と同じだったように記憶してます。
 読み返そうと思ったのですが、収録された本が捨てられた模様で、確認取れておりません。
 創元推理文庫で、海野十三の作品集が出ていたはずですが、未入手です。

2017年6月4日 ページ作成・執筆

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