川口まどか「やさしい悪魔の物語A」(2001年6月15日初版発行)

 「やさしい悪魔」は悪魔が嫌いで、人間が好きという「悪魔の世界のクレイジー兄弟」。
 一生に一度の魔法の扉が開く時、悪魔は人間達の願いを何でも叶えてくれる。
 ただし、彼らの魔法はとってもお金がかかるものであった。
 低予算なら低予算なりに「やさしい悪魔」は最善を尽くすのだが…。

・「♯4:開いた扉のもっと先に…」(2000年「ミステリーボニータ」11月号)
「アイビー・シェフレラが『やさしい悪魔』に願ったのは、元カレのポトス・コニアーのことを忘れること。
 一年前、彼はアイビーを捨て、アイビーの友人のスイート・アリッサムと恋仲になっていた。
 『やさしい悪魔』と取引をした後、彼女は二人の刑事に連行される。
 ポトスが車で轢き逃げされ、全治八か月の重傷を負うが、その容疑が彼女にかかっていた。
 容疑はすぐに晴れ、スイートをストーカーしていたクロトン・コリウスの仕業と判明する。
 アイビーは病院にポトスを見舞った後、刑事のパキラ・ベンジャミンと共にスイートの家で彼女の警護をする。
 だが、スイートの家にピザ屋の車が突っ込んできて、銃を持ったクロトン・コリウスが現れる。
 アイビーは悪魔からもらった道具を持ちだすが、パキラ刑事はそれを銃と間違え、彼女を阻止しようとする。
 気が付くと、二人はドアだらけの空間にいた。
 この空間はアイビーとクロトンの心の中で、ドアは「思い出」の部屋に通じている。
 そして、二人の手にある棒は「ピンクの煙」に見える恋心を消すことができた。
 アイビーの目的は過去の自分の「愛する思いを殺していく」ことだったのだが…」

・「♯5:悪魔のふたり」(2000年「ミステリーボニータ」9月号)
「『やさしい悪魔』の弟は兄がせっかく作った魔法薬をあやまって爆発させてしまう。
 材料を買いに、兄と共に悪魔の国に行くが、今度はおかしなものを食べて、瀕死になる。
 兄がボラルと交渉してくれたお陰で、九死に一生を得るが、兄の足手まといでしかない自分が情けなく…」

・「♯6:人魚伝説例外編」(2001年「ミステリーボニータ」1月号)
「ミズリー中学二年生のビオラ(ビオレット)・ステラは家にも学校にも居場所のなかった。
 彼女の『やさしい悪魔』への願いは「人魚」みたいに自由に海を泳ぐこと。
 悪魔は彼女にペンダントを渡し、これを口にくわえれば、半魚人のような姿になり、水中では自由自在に行動できる。
 ただし、二つだけ条件があった。
 @泳いでる姿を人に絶対見られないこと。
 A人に魔法のことを絶対に話さないこと。
 これを破ると、思いもよらない不幸が訪れ、やがて魔法は使えなくなるという。
 早速、ビオラはペンダントを使い、水中で開放感に浸るが、家に帰ろうと海面に上がると、嵐になっていた。
 しかも、一人の少年が漁船から転落し、溺れかけている。
 彼女は彼を無人島まで運び、人工呼吸をして助ける。
 だが、姿を見られてはならないと、慌てて変身を解くも、彼にばっちり見られていた。
 彼女は自分は「人間と人魚のハーフ」と嘘をついて、秘密を守るように言う。
 彼は彼女は命の恩人なので、彼女の言うことは何でも聞くと約束する。
 彼の名はサビイ(サビック)・ベーコンで、彼女と同じ学校の同学年であった。
   いじめられっ子の彼女と違い、彼は学校の人気者であったが、義理堅く、彼女の「友達」になってくれる。
 だが、彼女が沈没した海賊船の宝を発見したことで、二人はトラブルに巻き込まれてしまう…」

・「♯7:永遠の思い出」(2001年「ミステリーボニータ」3月号)
「『やさしい悪魔』の兄弟は育ての親のルーシーのもとに呼び出される。
 そこでは悪魔のドリダ夫人がルーシーを人質に取っていた。
 話を聞くと、彼女の娘のギャシーが人間の世界から赤ん坊をさらってきたという。
 だが、「人間に関わる悪魔は人間と確実に取り引きしないと、死神が必ず殺しにやって来る」のであった。
 『やさしい悪魔』の兄は「アンダー・サン」の協力を仰ぎ、この窮地を脱しようと考える。
 「アンダー・サン」は夢見世屋で、悪魔を眠らせ、夢を見させることができた。
 悪魔が人間と共に眠ると、人間の魂は悪魔の夢の中に引きずり込まれ、それを現実のことと思い込む。
 そして、夢の中で死ぬと、人間の魂はより安全で安定した場所に生き返ろうとして、人間の世界に戻ることができるのであった。
 その時、『やさしい悪魔』の弟が、一月前に彼らのもとを訪れた女性を連れてくる。
 彼女は余命いくばくもなく「家族を作ること」を願ったが、金銭的な余裕がなく、断られていた。
 『やさしい悪魔』の兄はその女性とさらわれた赤ん坊と一緒に眠り、夢の中で三人は家族となる。
 三人は夢の中で幸せな生活を送り…」

・「大ッキライ」(1999年「ホラーM」10月号)
「可愛い女子高生。
 彼女は何故か普通の人より死体を目にすることが多い。
 友人達にせがまれ、彼女は見た時のことについて詳しく詳しく話すのだが…」

 「人魚伝説例外編」と「永遠の思い出」がこの単行本での目玉でしょう。
 「人魚伝説例外編」は一種の「人魚(?)もの」ですが、溌剌としたヒロインがとっても魅力的。でも、あの胸に当てている貝はちょっと…。
 また、「永遠の思い出」は非常に美しい話で、珠玉の一編です。(ちょっぴりわかりにくい部分もありますが…。)

2023年6月29日 ページ作成・執筆

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