高階良子「ナーギの塔」(1982年4月10日初版発行)

 収録作品

・「ナーギの塔」(1981年「別冊ビバプリンセス」秋号)
「1974年、内戦中のカンボジア。
 NHK報道局に雇われたカメラマン、新原史郎は、クメール・ルージュがいるにも関わらず、単身、アンコール遺跡へ向かう。
 彼を無謀な行動へと駆り立てたのは、アンコール遺跡とその伝説への深い憧憬と、クメール王国の守護神である蛇神ナーギの思いに触れてみたいという熱望であった。
 数々の危険をくぐり抜け、アンコール・ワット(王都寺院)を目前にした時、一人の少年兵に見つかってしまう。
 だが、それは少年兵ではなく、美しい娘で、彼女の口添えのおかげか、彼はアンコール寺院の取材を許される。
 彼が遺跡の取材中、ロン・ノル政権が倒れ、内戦が終了する。
 しかし、兵士達は遺跡への破壊を開始し、止めようとした史郎は機関銃で撃たれる。
 夢の中、彼はナーギに出会い、撮影の成果を日本に持ち帰る代わりに、彼の命を捧げると約束する。
 気が付くと、彼は無傷のままで、彼の横にはあの娘がいた。
 娘の言葉に従い、西に向かい、どうにか日本に帰りつくが、一月程の間に、四年の歳月が流れていた。
 彼の写真展は大成功を収めるも、彼の脳裏からはあの娘の面影が離れない。
 ナーギが与える「愛と栄光と破滅」とは…?」

・「セーアカトルの日」(1981年「プリンセスゴールド」7月25日号)
「富山篝(とやま・かがり)はマヤ文明に夢中の女子高校生。
 彼女の両親はマヤ文明の研究者で、三年前、遺跡発掘中の事故で亡くなっていた。
 彼女には落合正史という彼氏がいたが、彼は彼女の理解者を装いつつも、実際は、打算的な現実主義者であった。
 ある時、篝は、両親が家で調べていた翡翠像の底から、緑色の玉を見つける。
 すると、美しい青年が現れ、「セーアカトルの日(神ケツアルコアトルがマヤの地に再び帰ってくる日…らしい)が近い」と話す。
 そして、彼女に、マヤ文明が、キリスト教の宣教師によって破壊された過去を見せ、彼と同一化するために「心をひらいて…うけいれる」よう頼む。
 緑色の玉を持っている左手に衝撃を受け、篝が翌朝、気が付くと、左の掌には、「羽毛の蛇」の形をした、緑色のアザがあった。
 更に、メキシコの姉妹校と二週間の交換留学に参加することになる。
 メキシコに飛んだ篝は、ユカタン半島のメリダへ向かうが、そこで、落ちぶれたマヤの子孫達の姿を目の当たりにする。
 彼らはいまだにケツアルコアトルの帰還を祈り続けていた。
 マヤの魂に呼ばれ、戸惑う篝の選ぶ道は…?」

・「死を踊るランダ」(1982年「別冊ビバプリンセス」冬号)
「バリ島の東、クルンクン。
 エミは、亡父の出身地であるバリ島を訪れる。
 その目的は元・婚約者のヒロシを忘れることであった。
 彼がバリ島の民族の研究のため、伯父宅に滞在していた際、エミと出会って、熱烈な恋に落ちる。
 しかし、彼は名門の出であり、彼の母親から由緒ある血筋の婚約者がいると聞かされ、ショックのあまり、その場を逃げ出したのであった。
 傷心の彼女はさまよい歩いているうちに、「善神バロンと魔女ランダの物語」の踊りの舞台を目にする。
 魔女ランダを踊るのは、彼女のいとこのラトナであった。
 ラトナもヒロシに想いを寄せており、それに、エミの死を望む心境が重なって、ラトナに魔女ランダが憑依する。
 同じ頃、ヒロシが、エミを追って、バリ島へとやって来る。
 ランダは、ヒロシを誘惑し、エミを死へと誘おうとするのだが…」

・「風の菩薩」
「今沖タツヤは、鉄橋から跳び下りて、入水自殺を図る。
 彼は大学に入学したものの、裏口入学を疑われ、再会した中学校時代の親友の黒川は彼の全財産を持ち逃げし、とどめに、最愛の京子がある男性の愛人であると知って、絶望したのである。
 とは言え、自殺など早々できるものではなく、ようよう川岸に泳ぎ着いた時、彼の前に、風変わりな娘が現れる。
 彼女の名は菩薩風子といい、なんだかんだ言いつつ、彼のアパートについてきて、あれこれと世話を焼く。
 何から何まで奇妙な娘で、彼女の行く先々では不思議なことばかり。
 彼女は、彼が「生きるてがかり」を求めたから、来たらしいのだが…」

 高階良子先生お得意の「秘境ロマンシリーズ」。
 このシリーズは名作ぞろいですが、「ナーギの塔」「死を踊るランダ」もズバリ、傑作です。
 「風の菩薩」は、秘境ロマンシリーズではありませんが、ハート・ウォーミングな内容で、高階先生の優しいお人柄を垣間見ることができます。

2021年1月27・28日 作成・執筆

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