芝田英行「闇の密霊師A」(1985年9月15日初版発行)

 鷲羽涼は稲田大学の考古学助教授(?)。
 彼は迷い苦しむ霊に光への道を教え諭す霊能者でもあった。
 彼の遭遇する様々な事件とは…?

・「蛇石」
「剛田は駅前の古美術店で蛇石を買う。
 彼はこれに「金蛇様」が祀ってあり、金運上昇とホクホク顔。
 そこに涼がやって来て、あれは危険な石だと警告する。
 蛇石にもいろいろあり、神の使いの蛇霊が憑いている蛇石なら金運が授かることもあるだろうが、単なる蛇霊の場合、災いしかもたらさない。
 しかし、剛田は聞き耳を持たず、涼を追い出す。
 以後も金もうけは順調であったが、剛田の家族は次々と災難に見舞われることに…」

・「アンティック・ドール」
「涼は裕子が意識不明になったと彼女の母親から電話を受ける。
 涼が彼女を視ると、裕子は霊体を何ものかに抜き取られていた。
 母親は裕子が駅前の人形店で買ったアンティック・ドールが部屋にないことに気付き、涼はそいつが真犯人だと察する。
 涼はアンティック・ドール店「ウィピィリ」に向かうのだが…」

・「血の饗宴」
「涼は戸口恵子の父親から相談を受ける。
 戸口恵子はヨーロッパ旅行中、ハンガリーで行方不明になっていた。
 彼女の過去を霊査すると、彼女は二人の男にチェイテ村の古城に連れて行かれ、地下牢に監禁されていた。
 その古城は伝説の女吸血鬼、エリザベス・バートリーの城で、今再び、血の饗宴が開かれていた。
 涼はハンガリーに飛び、エリザベス・バートリーと対決する…」

・「霊能少女」
「白上亜々留(五歳)は霊能少女。
 彼女はテレビ番組で心霊手術を披露するも、手品師の沢田幻睡にインチキ呼ばわりされてしまう。
 そのせいで、亜々留は詐欺師扱いされ、ますます孤立。
 そんな彼女に涼は励ましの言葉をかける。
 そして、もう一人、江田という男性が彼女に声をかける。
 彼はテレビで心霊番組を企画しており、まじめに超常現象を追求しようとしていた。
 亜々留はその番組に出て、沢田幻睡に心霊手術をするのだが…」

・「メムノンの涙」
「吉川信一は優秀なエジプト学者で、日本の古代エジプト調査団の一人であった。
 帰国する直前、彼の夢枕にアメンホテプ三世(古代エジプト第18代の王)が現れたため、彼はメムノンの巨像(アメンホテプ三世の像)を訪れる。
 そこにアメンホテプ三世の霊が現れ、「我が王朝の真実の歴史を伝え広めてもらいたい」と彼に頼む。
 アメンホテプ三世の霊は吉川にその歴史を語るが、中でも重要なのは、三世の子、アクナトンの所業であった。
 会合の後、吉川が帰ろうとすると、案内役のエジプト人が彼を斬殺する。
 エジプト人はアクナトンの部下で、アクナトンは吉川の死体に憑依する。
 帰国後、吉川は大学でエジプト調査報告会を開く。
 涼と裕子も参加しようとするのだが、会場には凄まじい邪気が満ち溢れていた。
 アクナトンの秘密とは…?」

・「救世主」
「裕子は涼のような霊能者に憧れる。
 ある夜、彼女の部屋のベッドに神の使いを名乗る老人の霊が座っており、彼女に霊能を授けに来たと言う。
 翌朝、彼女が目覚めると、彼女は不思議な能力を身に付けており、悪霊を視ることができるようになっていた。
 彼女はどんどん悪霊を祓い、身の周りを彼女の崇拝者で固めていく。
 虚栄心を肥大させ、彼女はすっかり「救世主」気どりになるのだが…」

・「獣憑き」
「鷲羽涼の家にやって来た珍客…それは動物を見守るのが役目の精霊、チャピタイと衰弱死したアライグマの霊であった。
 チャピタイによると、S市の市長はオーストラリアと交渉し、どうにかコアラを譲ってもらうことになったが、それは単に金や次の選挙が目当てで、動物の命のことなどこれっぽっちも考えていなかった。
 涼はチャピタイの考えに賛同し、自分勝手な人間にお灸を据えることに協力する。
 翌朝、市長はオーストラリア政府がコアラの寄贈をやめたことを知らされる。
 大慌てで市役所に行くと、そこには涼が待ち構えていて…」

・「悪魔の子供」
「サタン崇拝者がこの世に呼び出した「悪魔の子供」、ゴブリン。
 彼の仕事は「一つでも多くの魂を地獄へ送ってやくこと」で、人々を手当たり次第に殺戮していく。
 この存在に気付いた涼と裕子は魔法陣で召喚の儀式を行い、ゴブリンを呼び出すのだが…」

 オカルトもの、歴史もの、人形ものとバラエティ豊かな内容です。
 「アンティック・ドール」「血の饗宴」「悪魔の子供」といった直球のホラー作品も悪くありませんが、「霊能少女」「救世主」といった「霊の世界」を真正面から扱った作品の方が込めた思いの熱量が違います。
 あと、「アンティック・ドール」の人形の不気味さは特筆ものです。(下手すりゃ、犬木加奈子先生の描く人形より怖いかも…。)

2023年8月3・4日 ページ作成・執筆

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