楳図かずお「闇のアルバム」(1990年8月20日初版発行)
・「その1 洞窟の女」
「登山者の男性が落盤にあい、洞窟に閉じ込められる。
洞窟の奥には全裸の女がいた。
彼女は、彼を待ってずっとここに住んでいたと話す。
真っ暗闇の中、彼が女を手でまさぐると、まるで目で見ているように女の形がわかり、仕事や妻といった面倒臭いことを忘れて、ずっとこうしていたいと願う。
そうして、何日経ったのだろうか、男は帰らなくてはならないと考えるのだが…」
・「その2 電話」
「ある男が一週間の出張の間、妻に電話をするので外出しないよう命令して出かける。
妻は自宅で待機していると、セールスマンが来て、妻は彼とベッドイン。
そんな時、夫から電話がかかってきて…」
・「その3 バー《ラララ》」
「サラリーマンの浦井は退屈で冴えない男。
ある晩、彼は「ラララ」というバーに入ってみる。
そこでは三人の女が彼を待っており、女達の歓待を受け、彼は楽しく過ごす。
「ラララ」は彼の行きつけになるが、ある時、同僚の「誰にも相手にされてない」という言葉を受け…」
・「その4 しあわせの日々」
「幸せな一家(夫婦と一人息子)。
ある時、夫がアルバムを眺めながら、いろいろな出来事があったが、自分達の前には幸せしかなかったと話す。
夫は何故、自分達が幸せなのか、しきりと気になり、一方の妻は激しく拒否反応を示す。
妻がその理由を思い出した時…」
・「その5 縄」
「夜、車が海沿いの道を走っている。
その車には男と愛人と、縄でぐるぐる巻きにされた、女の死体。
二人は死体を海へ遺棄した後、男は愛人をマンションの前まで送る。
そして、別れるが…」
・「その6 空より」
「男性がハム無線をしていると、見知らぬ女が映る。
女は、地球にそっくりの別の惑星の人間で、彼女の星には「黒い穴」が近づきつつあった。
二人は通信を続けるうちに、互いに愛情を感じ始める。
「黒い穴」が彼女の惑星を滅ぼす直前に、女は宇宙船で脱出。
彼女は地球を訪れるのだが…」
・「その7 井戸」
「初老の男性。
ある日、食事をしていると、味噌汁の中に女の髪の毛が混じっている。
更に、歯磨きの時、水道の蛇口から女物の結婚指輪が出てくる。
これは二十年前に失踪した愛人のカナ子のものであった。
彼の家では井戸から水を引いていたが…」
・「その8 来客」
「ある主婦が買い物からの帰り道、見知らぬ女性から工藤一郎という男性の家を尋ねられる。
主婦は女性に道を教えた後、近道を使って、急いで帰宅すると…」
・「その9 小さな出来事」
「美しくなく、特徴もない地味なOL。
彼女に注目する男性はいなかったが、彼女の中には男性に見つめられたいという欲求があった。
ある日、彼女は帰宅後、洋服の裾に薔薇の刺繍を施すことにする。
実物の薔薇を見ながら、丹念に縫い、翌日、思い切って会社にその服を着ていく。
誰もその刺繍には気づかないと思いきや…」
・「その10 火事」
「夫婦があるデパートで買い物をしていると、火事が発生。
人々は屋上へと逃れるが、救助ヘリに乗れるのはあと一人。
夫は妻を助けようとしながらも、自分だけが救助されてしまう。
病院で彼が、自分が犠牲になってでも、妻を助けたかったと話していると…」
・「その11 蛾」
「共働きの夫婦。
二人の弁当は姑が作っていた。
ある日の出勤途中、夫は、間違えて妻の弁当を持ってきたことに気づく。
興味が湧き、妻の弁当を開けてみると、ご飯の上に蛾が乗っていた。
姑の嫌がらせか、それとも、姑が耄碌しているのかと訝りながら、帰宅し、妻の弁当を自分の弁当と取り換える。
その日、彼は妻を会社にまでつけて、彼女の様子を窺うのだが…」
・「その12 背後の影」
「瀕死の妻によりそう夫。
妻は夫に悪夢を見たと話す。
それは、彼女が死んだ後、夫の後ろに花模様のドレスを着て、真珠の首輪を付けた女が現れ、夫に「あなた!」と言う内容であった。
夫は、自分でこの世で愛したのは妻だけであり、そんな女はいないと妻を安心させるのだが…」
・「その13 見知らぬ女」
「サラリーマンの男性が帰宅途中、車にはねられる。
幸い、大したケガもなく、そのまま、帰宅すると、家には妻の美代子ではなく、見知らぬ女がいた。
彼女は民江という名で、ずっと彼の妻だったと主張する。
男が自分の妻は美代子だと言い張っても、女は譲らず…」
・「その14 首飾り」
「ある男が寂しげだが、美しい女に心を奪われる。
彼はあらゆる手段を用いて、女に接近するが、彼女は、自分を愛さないようにと彼を拒む。
しかし、遂に女は彼を愛してしまった。
彼女は自分の部屋で男に自分の秘密を打ち明けるのだが…」
・「その15 海」
「ゴムボートで一週間も漂流している一組のカップル。
ある日、男が双眼鏡を覗くと、彼方に島が見える。
男は女をゴムボートから突き落とし、女を海に置き去りにする。
数時間後、女は通りがかった船に救助されるが…」
・「その16 墜落」
「ある男が墜落する夢を見る。
夢の中で彼は果てしない深い底に向かって落ちていくのであった。
彼はいつか墜落して死ぬという考えにとり憑かれ、墜落しそうな所には決して近づかず、遂には、アメリカ大陸の地殻の変動が一番少ない場所に家を作って住む。
その頃、地球を含む銀河系自体が…」
・「その17 見知らぬ男」
「駅で、ある女が男の顔を見つめ、後に付いてくる。
それがきっかけで二人は付き合い始めるが、ある時、ホテルで女は男に結婚してくれるよう懇願する。
男は婚約者がいるため、付き合うことはできても、結婚はできないと説明すると、女は刃物を男に突き付ける。
女が彼とどうしても結婚しなければならない理由とは…?」
・「その18 再会」
「原子分解を起こす直前のロケット。
乗組員のカップルはある惑星に避難するも、男は過去へ、女は未来へ飛ばされてしまう。
男が着いた惑星はまだ始まったばかりで、生命は存在していなかった。
男は女と再会するため、自分の身体の細胞をばらばらにして、海へと流す。
生命が誕生し、数百億年の時を経て…」
・「その19 蛇」
「平安時代。
宮中に白い蛇が現れる。
白い蛇が宮中に住みついた年は、国は栄え、喜び事が続くと言われていた。
しかし、実際は飢饉、略奪、天災と禍だらけであった。
一方、宮中では栄華の夢から覚めやらず、貴族達は日々にきらびやかになっていく。
ある日、一人の侍が白い蛇を討とうとするのだが…」
・「その20 隣の人」
「団地の一室に、夫と臨月の妻が住んでいた。
ある日、隣の部屋に女性が越してくる。
女性の名は松田優子で独身、手内職で暮らしていた。
時は流れ、妻は男児を産む。
出産祝いをいただいたので、妻がお礼を言いに行くと、松田優子は病に臥せっていた。
その時、妻は部屋に男物の背広がハンガーにかかっていることに気づく。
以来、妻は言い知れぬ不安に付きまとわれるようになるが、自分と松田優子を比較して、優越感に浸ることによりそれを克服する。
そんなある日、松田優子が満面の笑みを浮かべて、妻の部屋を訪れるが…」
・「その21 発作」
「道子は気が付くと、新幹線のホームにいて、目の前の女性を線路に突き落としていた。
女性は即死するが、道子は何故、自分がそこにいて、そんなことをしたのかがわからない。
家で悩んでいると、夫が仕事から帰ってきて…」
・「その22 鞄」
「男は連れ子のある女性と結婚する。
その女の子は彼にちっともなつこうとせず、死んだ父親の黒い鞄を常に持っていた。
男が鞄の中を見せてくれと頼んでも、女の子は決して見せようとしない。
鞄の中身とは…?」
・「その23 予言」
「結婚をためらうカップルが自分達の未来をモニターで見る。
だが、見終わった後は記憶を消され、何も覚えていない。
二人の決心は固く、結婚し、幸せな毎日を送るのだが…」
・「その24 終末」
「不細工で内気な夫と、美しい妻はありふれた生活を送る。
妻の願いはただ一つ、夫の幸せのみ。
彼女の愛の心は募るばかりで、ある日、彼に告白をするのだが…」
「闇のアルバム」は「ビッグコミックオリジナル」(1974年5月〜1975年5月)に掲載された短編集です。
「その20 隣の人」以外は1ページ1コマで8ページ(タイトル・ページ含む)に統一されております。
そのため、形式としてはショートショートに分類されるでしょう。
ショート・ショートは結末の切れ味が命ですので、「縄」「再会」「終末」あたりが傑出していると思います。
ちなみに、「墜落」はほとほと変な話で、実はかなり気に入ってます。
2023年2月14・15日/2024年2月13日 ページ作成・執筆