まつざきあけみ「子泣きの杜」(1989年7月20日初版発行)

 収録作品

・「小婢子童子(こけしぼうこ)」(1986年「プロムナイト」No.1)
「ある一家(両親と娘のまゆみ)が最近、買った別荘を訪れる。
 別荘は十年もの間廃村だった場所に建てられ、裏には川が流れていた。
 奇妙なことに、このあたりではこけしが幾つも祀られており、至る所から出てくる。
 まゆみは八郎という同じ年頃の男児と知り合い、翌日、八郎が友人達を連れて、別荘にやって来る。
 彼らは皆、着物姿で、名前から判断すると、末っ子のようであった。
 また、彼らは母親が出したおむすびにむしゃぶりつき、こんなうまいものを食べたのは初めてと感動する。
 子供たちが帰った後、父親は奇妙なことに気付く。
 彼らの足跡が全く見当たらず、それに、この付近の村は全て、廃村になっており、子供なんかいるはずがない。
 その夜、嵐が別荘を襲い…」

・「白い鎮魂曲」(1987年「プロムナイト」No.2)
「妹尾聿子(せのう・いつこ)は、ミッション・スクールに通う、非常に内気な少女。
 彼女には翔子という同じ歳のいとこがおり、彼女は美しく、頭もよく、誰にも好かれていた。
 翔子は幼い頃、両親を亡くし、聿子の両親に引き取られたために、非常にしっかりしており、聿子は翔子にいつも守ってもらう。
 しかし、翔子は一年前、冬の川に転落して溺死する。
 聿子は翔子を助けようとするも、手を差し伸べるのが一瞬遅れ、そのことをいまだに悔やんでいた。
 そんな彼女に、翔子の恋人だった右京が接近する。
 彼は彼女に質問が二つあるようであったが…。
 以来、聿子の様子が別人のように変化することが起こるのだが…」

・「真夜中奇譚」(1987年「プロムナイト」No.3)
「第一話 影」
 マンションへの夜道を急ぐ女性。
 彼女は自分の妊娠を知り、浮き浮きしていた。
 ある家の窓に映った人の影を目にして、彼女は夫の前妻のことを思い出す。
 前妻は病身で、愛人だった彼女は前妻をむりやり離婚させたのであった。
 翌日、前妻は女児と共に果物ナイフで無理心中をする。
 さて、女性がマンションの前に来ると、自分の部屋の窓に母子らしき影絵が…。
「第二話 鍵」
 弓削一郎が学生だった頃、彼は下宿先の家を出ることとなる。
 と言うのも、家のおかみは、主人が事業に失敗し自殺した後、借金のカタに家を取り上げられるからであった。
 彼女には病弱な女の赤ん坊がおり、これから先は、身一つで兄のもとに身を寄せるしかない。
 弓削とおかみが話をしていると、子供部屋から物音がする。
 駆けつけると、安井という男が刺殺されたところであった。
 安井は詐欺で得た金を持ち逃げし、仲間の男達に追われていた。
 男達は子供部屋に金庫の鍵がないか調べるのだが…。
「第三話 遺産」
 余命いくばくもない、資産家の老婆。
 彼女の周囲には金目当ての親族ばかり。
 老婆が信頼するのは、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる女中の京子だけであった。
 老婆の死後、京子へ老婆の肖像画だけが遺されるのだが…。

・「子泣きの杜」(1987年「プロムナイト」No.4)
「可奈子は18歳の時に、高左右家に嫁ぐ。
 高左右東朗は再婚で、十以上も年が離れていた。
 高左右家は父親の代から生物学者で、広大な屋敷の片隅には地下実験室があった。
 また、屋敷は広大な杜に囲まれており、杜の中から赤ん坊の泣き声が聞こえると噂されていた。
 この杜では東朗の弟や妹、彼の前妻の娘が死体となって見つかっており、「高左右家に生まれる赤ん坊はみんな怪死」すると女中の悦子は話す。
 実際に可奈子も赤ん坊の泣く声をたびたび耳にするが、杜のどこから聞こえて来るかはわからない。
 そんなある日、彼女は自分の妊娠を知る。
 自分の赤ん坊も狙われていると感じ、彼女は赤ん坊の泣き声の出所を突き止めようとするのだが…。
 赤ん坊の怪死の相次ぐ高左右家の秘密とは…?」

・「美しく眠れ」(1987年「プロムナイト」No.5)
「渋谷でもトップクラスの総合エステティック・サロン。
 そこで最も腕の立つのは麻理で、「魔法の指」を持つと言われていた。
 特に、彼女の「特別指導」は魔法そのもので、短期間で相手をダイエットさせることができるという。
 「短期指導」は滅多に行われないが、サロンのオーナーの一人娘、麗子に施すことになる。
 麗子は、麻理の親友であるみどりの恋人を奪おうと、一か月で20キロ痩せたいと言うのだが…」

・「妖気をあなたに」(1987年「プロムナイト」No.6)
「克彦は17歳の高校生。
 彼の悩みはあまりに女っぽい自分の顔であった。
 加えて、性格も軟弱かつ臆病で、いつも自己嫌悪に陥る。
 ある日、彼は幼稚園の頃の知り合いだったかおると再会する。
 彼女は彼の高校に転入するが、男勝りの彼女は彼を「サイテ―」と軽蔑し、無視する。
 これで一念発起した彼はメイクすれば多少なりとも男らしくなると考える。
 彼は化粧品店で眉墨ペンシルを拾うが、これには不思議な力が宿っていた。
 これを使うと、歌舞伎の隈取(くまどり)と同じ効果があり、相手にはその形相が見えるらしいのだが…」

・「雅琴人形(まさきにんぎょう)」(1982年「グレープフルーツ」)
「小説家の弓削一郎は旅行中、山深い田舎に無人の廃家を見つけて、住み込む。
 ここには若い娘の等身大の人形が飾られ、一室には人形の嫁入り道具が一式揃えられていた。
 どうやら金持ちの夫婦が亡くなった娘のために新居として建てたものらしい。
 一郎の友人で編集者の宮川誠一は一郎から原稿が届かないので、その廃家を再訪する。
 すると、廃家同然の屋敷は見違えるように立派な建物へと変わっていた。
 中もきれいに掃除され、一郎は雅琴という人形と一緒に暮らしていた。
 しかも、人形を自分の女房と呼び、東京には帰らないと話す。
 その夜、誠一は屋敷に泊まることとなるが…」

・「窓」(「少年少女SFマンガ大全集」掲載年不明)
 サキの名編「開いた窓」そのまんまです…。

 「プロムナイト」というホラー漫画雑誌に掲載した作品が主に収録されております。
 どの作品も素晴らしい出来ですが、表題作の「子泣きの杜」は奇想炸裂で、かなり気持ち悪い内容。
 また、弓削一郎・宮川誠一コンビの「雅琴人形」は「人形もの」の大傑作!!
 と言っても、ベタな呪いの人形とかでなく、からくり人形を巡るサスペンスというところが新鮮。
 後半のスペクタクルな展開には目が点になります。

2023年6月2日 ページ作成・執筆

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