伊藤潤二「地下室」(1990年2月20日第一刷発行)

 収録作品

・「富江PART3 地下室」(「月刊ハロウィン」1989年6月号)
「森田病院。
 患者たちの間に奇妙な噂が流れる。
 ある夜、この病院でひそかに手術が行われるが、患者から摘出した腎臓には頭と手足が生えており、そのバケモノは地下室にいるという。
 患者の佐藤文仁という青年はこの噂に興味を持ち、こっそり地下室での医者の会話を立ち聞きする。
 医者達の話によると、噂は事実で、実際のところは次のようであった。
 一か月前の夜、恋人に刺殺された少女が病院に運び込まれる。
 少女の父親の了承を得て、腎臓病で入院していた三尾雪子に腎臓を移植するも、移植した腎臓は雪子の体内でバケモノ化する。
 そして、地下室の部屋に、その頭と手足の生えた腎臓が培養されていた。
 文仁は三尾雪子という名に心当たりがあり、彼女の病室を訪れる。
 三尾雪子は縮れっ毛の少女で、元・恋人の北山のことをいまだ想っていた。
 彼女は手術から二日後なのに、傷がもうふさがりかけていて、医者たちはバケモノの細胞に侵されたのではないかと必死に対策を探る。
 しかし、培養液の中の腎臓は一人の少女へと成長し、田村医師を誘惑。
 一方、三尾雪子にも変化が起こりつつあった…」

・「首幻想」(「月刊ハロウィン」1989年2月号)
「高校生の押切は両親が海外に出張のため、広大な屋敷に一人で住んでいた。
 彼はチビで、同じチビの中島と親友であったが、高校に入って以来、中島は急に背が伸び始め、彼はコンプレックスに苛まされる。
 しかも、二人の共通の女友達だった堀田が中島と付き合うようになったことも押切には耐えがたかった。
 ある日、押切は中島を殺し、屋敷の庭に埋める。
 だが、深く埋めなおすため、死体を掘り出そうとした時、死体の首が異様に伸びていた。
 慌てて死体に土をかぶせ、目にしたものについて考えを巡らす。
 とりあえず、学校に行くが、中島の失踪により、彼は堀田や先生からいろいろと質問される。
 彼は平静を装いつつも心の中では動揺するが、そのたびに、相手の首の長く伸びる幻覚に襲われる。
 幻覚に散々苦しめられ、彼は中島の死体を掘り出し、確認しようと決意するのだが…」

・「シナリオどおりの恋」(「ミステリー・ハロウィン」1989年6月号)
「香織はアマチュア劇団の白猫座に入る。
 そこで脚本家の高橋と知り合い、彼に恋をする。
 だが、女友達に忠告されたように、彼は女性と知り合っては、すぐに捨てるを繰り返していた。
 しかも、別れ際には「自分で自分を撮ったビデオ」を渡すという。
 やがて香織が捨てられる時が来て、逆上した彼女は彼を刺す。
 彼女が途方に暮れていると、彼の持ち物の中に「ボクとカオリの台本」という脚本が目に入る。
 どうやらビデオ用の脚本らしく、興味を惹かれ、彼女はビデオを観てみる。
 そこに映っていたものとは…?」

・「リ・アニメーターの剣」(「月刊ハロウィン」1989年8月号)
「啓二は大物政治家、曾我勢一郎の孫。
 だが、彼は家族と折り合いが悪く、祖父が瀕死の状態にあるのに、夜中に人魂を獲りにでかける。
 すると、夜空を人魂の大群が飛んでおり、神社の方に向かう。
 彼がその後を追うと、境内に一人の男が座っていて、人魂は男の身体に吸い込まれる。
 それを目撃した啓二は剣を持った男に追われ、崖から転落する。
 気が付くと、我が家で、母親から祖父が亡くなったことを知らされる。
 だが、関係者は祖父の死をひた隠しにして、一人の男を呼ぶ。
 その男は神社にいた男で、彼は「死体蘇生者」らしい。
 啓二はひそかに死体蘇生の儀式を覗き見し、祖父が生き返るところを見る。
 啓二が死体蘇生者の男について考えていると、人魂が彼をあの神社へと誘う。
 そこで、彼は「死体蘇生者」から秘密を聞かされるのだが…」

・「富江PART4 写真」(「月刊ハロウィン」1989年11月号〜12月号)
「花田ヶ丘高等学校。
 写真部の泉沢月子はかっこいい男子の写真を撮って、女子生徒に高値で売り付けていた。
 そんな彼女は風紀委員の川上富江に目を付けられる。
 川上富江はこの間転校してきたばかりであったが、太地と木股という男子生徒二人を従え、厳しく取り締まっていた。
 しかも、月子は憧れの山崎先輩から富江の写真を依頼される。
 がっかりしつつも、月子が富江を隠し撮りしようとした時、富江が彼女に向かってポーズをとる。
 いくらでも撮っていいと言われ、醜く撮れるチャンスを狙うも、富江の策略に引っかかり、月子は先生に写真販売のことを知られてしまう。
 月子は一週間停学処分となるが、富江の写真を現像した時、写真が全てバケモノのようになっていることに気付く。
 復讐のため、月子は富江の写真を学校中にばらまくが、そのせいで、富江の一派から命を狙われる破目に…」

 「シナリオどおりの恋」と「富江PART4 写真」が良い出来と思います。
 特に、「写真」はブラック・ユーモアが冴えており、太地・木股コンビのやり取りはかなり笑えます。

2024年1月19・21日 ページ作成・執筆

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