坂田靖子「闇夜の本」(1983年1月30日初版・1985年11月15日7版発行)

 収録作品

・「part1 大嵐」(「デュオ」1982年5月号)
「田舎の一軒家。
 住むのは両親と一人息子のマイク、それと、頑固な祖父。
 嵐が近づいてきたので、父親は天窓の修理、祖父とマイクは梨畑を見に行く。
 すると、物凄い突風が吹き、父親、祖父、マイクの三人は飛ばされてしまう。
 マイクと祖父が墜落した所は全く見覚えのない森であった。
 先に進むと、奇妙な生き物と少年が焚火を囲んでいる。
 少年の名はトキ、そして、奇妙な生き物は「森の木の下に住んでいるおかしなバケモノ」のバンダ。
 彼らはバンダの住処の巻貝の殻が大嵐で飛ばされたので、それを捜していた。
 父親の話の中にトキとバンダのことが語られていたので、マイクは彼らに親近感を持ち、行動を共にする。
 彼らが海岸に出ると、嵐で飛ばされたものの吹き溜まりになっていた。
 父親と合流した後、バンダの住処の貝が見つかるのだが…」

・「part2 月界通信販売」(「デュオ」1982年7月号)
「フォシーは文筆家の男性。
 満月の夜、コラムを執筆していると、夜中の二時に郵便屋がやって来る。
 郵便屋は家を間違えていて、隣に引っ越してきたラムーアに用があった。
 フォシーが窓から覗くと、郵便屋の小包を動物のような手が受け取るのが見える。
 彼はこれが気になって執筆に手がつかず、ラムーアの家の外でこっそり様子を窺う。
 窓は全部カーテンが閉められ、中の様子はわからないが、中から「目玉焼き リンゴの輪切り ビンの底 カンヅメのふた 時計の文字盤…」という歌が聞こえる。
 歌は続き、「カレンダー」と言ったところで、誰かが絶叫し、また歌が続くと、「コロラドムーン」で再度、絶叫が聞こえる。
 一晩中、この奇妙な音楽は流れ、結局、何が何だかさっぱりわからない。
 翌日、フォシーは大家からもらったチーズクッキーをお土産にして、ラムーアの家を訪ねる。
 ラムーアは普通の青年で、家も別段変わりない。
 しかし、チーズクッキーを見せた途端、彼は叫び声を上げて、家の奥に身を隠す。
 その隙に、フォシーが家の中を捜すと、昨夜の小包が出てくるのだが…。
 ラムーアの正体は…?」

・「part3 非常識な死体」(「デュオ」1982年9月号)
「アートは古城を遺産として受け継ぐも、諸々の出費により、文無しになってしまう。
 水道がないので、草むらを切り開いて、井戸を捜していると、穴に落ちてしまう。
 そこは墓場で、脱出しようともがいていると、誰かが下から押さえてくれ、よじ登ることができる。
 彼を助けてくれたのは、そこに安置されていたサー・ベントリィ・ジョン・ウィリアム五世、1783年に死んだ「生身の死体」であった。
 サー・ベントリィはこの時代の風俗に興味を持ち、アートが叔父夫婦へ訪問するのについて来る。
 外の暑さで彼の身体は腐り出し、異臭を抑えるため、彼は香水を借りようとした時、電話での会話を聞き…」

・「part4 ジュラ」(「デュオ」1982年11月号)
「ベントリィ・バンクスは四年の出張から戻り、娘のユリアと再会する。
 その際には新しい妻のアニーが同行していた。(前妻は彼女が幼い頃に死去。)
 親子水入らずの生活が始まるも、ベントリィは一つ気になることがある。
 それはユリアの友達、ジュラであった。
 ユリアはずっと孤独で、空想上の友達を作り出していたのである。
 庭で一人遊びをするユリアを見て、父親は腹を立てるだけでなく、彼女を病気だと決めつける。
 アニーはユリアと話し合おうとするのだが…。
 ジュラの正体は…?」

・「part5 神が喜びを下さるように」(「デュオ」1983年1月号)
「雪のクリスマス・イブ。
 しがない会社員で独身のペインは悩んでいた。
 五年前に喧嘩別れをしたレスターという女性から仲直りがしたいと手紙をもらっていたが、レスターは資産家の娘で、今更会うのも気が引ける。
 あれこれ考えていると、店のショーウィンドウの前で薄ら汚れた天使の人形が雪に埋もれているのが目に入る。
 クリスマスツリーから落ちたのだろうと、彼は人形を拾い上げ、ショーウィンドウの枠に置いておく。
 彼は帰路に就くが、貧しい身なりの少年がおもちゃ屋のショーウィンドウを覗いていた。
 少年は裸足で放っておくこともできず、彼は少年に汽車のおもちゃを買い与えると、少年は彼について来る。
 結局、服まで買うことになり、家でシャワーをさせて、服を着せると、まあまあの格好。
 少年はクリスマス・ツリーに興味があるようで、ペインはレスターの家なら立派なものがあるだろうと考え、少年と共に彼女のもとを訪れる。
 ペインは少年を自分の息子と彼女に紹介するのだが…。
 そして、起こるクリスマスの奇跡…」

 個人的には「ほんわか」と言えば、坂田靖子先生。
 不思議な作品を幾つも描かれており、この独特な世界観はまことに「ふわふわ」かつ「ピースフル」。
 故・吾妻ひでお先生でなくても、この世界にいたら、あまりの心地よさに大酒喰らって高いびきをかいてしまいそうです。(吾妻ひでお「ふたりと五人」愛蔵版のおまけ漫画を参照のこと。何巻かは失念。)
 というワケで、「怪奇」というよりも「ファンタジー」よりなのですが、幽霊やバケモノが出てきてますので、外すことはできません。
 この単行本では「ジュラ」「神が喜びを下さるように」の出来が良いと思います。
 甘ったるいと考える向きもあるでしょうが、ハート・ウォーミングな内容が「ほんわか」した絵柄と絶妙にマッチして、胸にしみ入ります。

2024年1月4・5日 ページ作成・執筆

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