坂田靖子「闇夜の本A」(1984年4月20日初版・1988年1月30日6版発行)
収録作品
・「part6 西風星」(「デュオ」1983年5月号)
「トキとパンダの住む土地では春になっても西風が吹かず、ひな菊も咲かないし、風車も回らない。
天文台に住むクノップフによると、原因は西風星が東の空に上って来ないせいで、どうやら山の向こう側で引っかかっているらしい。
このままでは春の間中、風が吹かないことになり、トキとパンダはクノップフに地図をもらい、西風星を捜しに山の向こう側を目指す。
山の麓の深い森を抜け、山頂付近にある岩の割れ目の中の通路を通り、トキとパンダは山の向こう側へ到達。
そこで西風星がケヤキの枝の中に絡まっているのを見つけるのだが…」
・「part7 骨董刺繍」(「デュオ」1983年7月号)
「ザンケストにある骨董店『馬の細骨』。
主人のブレンハムは眼鏡の修理のために、息子のウィスターに店番を任せる。
ウィスターが店にいると、ショーウィンドウに飾った海馬の刺繍が次々と問い合わせを受ける。
最初の客は紳士で、ブレンハムが値を付けてなかったため、ウィスターは「予約済」で対応する。
次の客は黒づくめの男で、刺繍を売るよう迫るが、ウィスターに断られると、腹を立て乱暴に店を出ていく。
三番目は小学生ぐらいの男の子で、彼は刺繍は自分のものだったと話し、それを撫でて立ち去る。
夕方、ブレンハムが帰宅すると、ウィスターは刺繍の買い手がついたことを報告する。
それを聞いて、ブレンハムはこの刺繍は百年以上も地下倉庫に埋もれていたのに少年が持ち主だったのはおかしいと訝る。
ブレンハムは店の灯りを消しに行くが、店の中はおかしなことになっていた。
気が付くと、二人の背後に波が迫り、二人は砂浜に打ち上げられる。
この刺繍の秘密とは…?」
・「part8 浸透圧T」(「デュオ」1983年11月号)
「小説家志望のラークは締切を目前にしながらも大スランプ。
彼がアイデアを求めていろんな本を漁っていると、動物図鑑の動物がペラペラになって出てくる。
これを利用して手品師に転職しようかと考えるも、いざという時に出てこない。
途方に暮れていると、ペラペラの動物の中から一人の男が現れる。
その男は「言語学者」で、ものを「出す」実験中だったのだが、何故か、こちらの世界に出てしまったと説明する。
実は、ラークの世界と言語学者の世界は重なり合って存在しており、本来は次元の壁できっちり分けられれているのだが、ラークの隣人のケントによる浸透圧の実験の影響で二つの世界が通じやすくなっていたのであった。
言語学者はケントの実験を止めようとするが、ひねくれ者のケントは機械の出力をアップ。
これのせいで二つの世界がごちゃ混ぜになり…」
・「part9 浸透圧U」(「デュオ」1984年1月号)
「二つの世界はまた分離したものの、ルークの方の世界に異世界の生物(ツリガネムシっぽい?)が残り、繁殖する。
それが巨大化すると、タクパウルスという非常に珍しい変異種となり、言語学者は大感激。
タクパウルスはそれ自体が一つの宇宙で、ルーク・ケント・言語学者の三人はその中心部を訪れる。
そこにはラオという実(?)が成っており、それを食べ過ぎたケントは厚みを失い、ペラペラになる。
彼を元に戻すには地下にある鉱泉のレプ湖に浸けるしかない。
ルークと言語学者はレプ湖を目指すのだが…」
・「part10 浸透圧V」(「デュオ」1984年3月号)
「ルークとケントはボートで魚釣りに出る。
明方、二人が気が付くと、ボートは何かの生き物の体内らしきものにあった。
ボートはどんどん奥に進んで行き、奥には異世界の「プレート」(地面/夜行性かつ群生)がいる。
ボートはプレートの周囲から離れることができず、ケントによると、次元が違うので変な力場を作ったらしい。
プレートを中心に空間も次元もひずんでいき、二人は言語学者の次元に飛ばされる。
ルークと言語学者はプレートをもとの次元に戻そうとするのだが…」
漫画家さんが一つのジャンルになっている方はいらっしゃいますが、坂田靖子先生もその御一人でしょう。
敢えてジャンル分けすると、「ファンタジー」なんでしょうが、ジャンル分けすること自体が無意味に感じられる唯一無二の世界観です。
ほんわかした絵柄で、ホラーとは無縁なようであるものの、作者は生物や天体を通して異世界への強い興味があるようで、そこがグロテスクな奇想につながっているように感じます。
特に、「浸透圧」三部作はSF・ファンタジー・アドベンチャー・奇想・独特なユーモア等が縦横無尽にクロスオーバーしており、かなりヘンテコな作品です。
一筋縄ではいかない「坂田靖子ワールド」…理解するにはまだまだ修行が必要です…。
2024年3月19日 ページ作成・執筆