楳図かずお「残酷の一夜」(1991年1月20日初版・1995年4月20日第2刷発行)

 収録作品

・「残酷の一夜」(1969年「週刊少年キング」掲載)
「風の吹きすさぶ夜、病院で男児が産まれる。
 夫婦は赤ん坊を半ばあきらめており、心から喜ぶが、そこに「死神」と称する男が現わる。
 彼は赤ん坊は将来、世界を破滅に導く存在になると告げ、呆気に取られる夫婦の目の前に男は穴の開いた箱を置く。
 この中を覗くと、未来が見えるというのだが…」

・「本」(1968年「プレイコミック」)
「茂木は板橋の製本会社に勤めるサラリーマン。
 彼は秋子という女性と会い、結婚する。
 幸せな毎日が続いていたが、それは秋子の指にできたアザによって破られる。
 秋子が病院で診察を受けた後、茂木は彼女が悪性の腫瘍に侵されていることを医者に知らされる。
 もはや手遅れで、将来的には秋子の全身に腫瘍が広がり、死を待つばかり。
 マンションの部屋で秋子は衰弱していくのを見て、茂木はある決意をする。
 彼は、彼女が醜くなる前に、自分の手で殺したのであった。
 彼は会社をやめ、部屋に閉じこもる日が続く。
 彼は一日中、飽きずに一冊の本を見つめているのだが…」

・「死者の行進」(1967年「週刊少年マガジン」掲載)
「昭和十八年、ニューギニアに近い孤島。
 米軍の奇襲により、壊滅状態に陥った部隊。
 生き残りはこのことを本部に報告すべく、徒歩で北に行進する。
 米軍攻撃の際に隊長を見捨てたことのある、年若い山川二等兵は、隊長からひどい扱いを受ける。
 どんどん「落伍」していく中、追い討ちをかけるようにマラリアが蔓延。
 水を汲みに行った山川二等兵のせいにされるが…」

・「凍原(ツンドラ)」(1973年「ビッグコミック」掲載)
「平凡な主婦。
 夫はまじめでおとなしく、一人息子は大学生。
 彼女のこれまでの人生は穏やかで平凡な日々の連続であり、それはこれからも続くように思われた。
 ある晩、玄関の呼び鈴が鳴る。
 夫と思ってドアを開けると、そこには目出し帽にコートの怪しい男がいた。
 その男は彼女に乱暴しようとするが、彼女は抵抗し、小指を喰いちぎる。
 男は逃げ、彼女は夫の帰りを待つが、帰宅した夫の顔色はすぐれない。
 彼は何故か右手をポケットから出そうとせず…」
 ウィリアム・アイリッシュ「爪」を思わせる作品です。

・「手」(1968年「週刊少年ジャンプ」掲載)
「戦国時代。大和、日高城。
 桶狭間の戦いの余波で、城に火が出て、阿由姫が城に取り残される。
 城主、日高長安は姫を助けたものには姫をやると言う。
 以前から姫に憧れていた多々良藤介が名乗りを上げ、姫を救い出したものの、顔に大火傷を負ってしまう。
 約束どおり、藤介は姫をもらおうとするが、飲んだ酒に毒を仕込まれる。
 姫のもとに向かおうとするものの、藤介はめったやたらに切りさいなまれる。
 その際、切り落とされた手首が姫の首筋に喰い込んで、離れなくなる…」

・「ダリの男」(1970年「プレイコミック」掲載)
「自分の醜さにとり憑かれている男。
 男は長年憧れていた梨麻と結婚する。
 しかし、女性が迎え入れられた家は、家の構造、家具調度まで全て歪んだものであった。
 男は女性の感覚自体を歪ませ、彼の姿を美しいものに思わせようとするが…」

 貸本時代の終焉間近い1960年代後半から1970年代前半、大人向けの作品にも挑戦し始めた頃の作品を集めたものでしょうか。
 あの時代にこれ程の完成度の作品を残していることを考えると、「怪奇マンガの歴史=楳図かずお先生」と言っても過言ではありますまい。

2015年1月25日 ページ作成・執筆
2024年2月13日 加筆訂正
2024年10月22日 加筆訂正

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