ムロタニ・ツネ象「人形地獄」(1970年9月3日初版発行・1974年3月15日5版発行)

 収録作品

・「第一話 怪奇死郎」
「女生徒の吉井邦子と彼女の弟、健は不良達の車に拉致され、シンナー遊びを強要される。
 邦子は車から逃げ出すが、シンナー中毒を起こし昏倒、そんな瀕死の女生徒吉井邦子を救ったのは、怪奇死郎という青年だった。
 邦子が不良達の車に戻ると、すでに弟は不良達と車内で中毒死していた。
 健の死体にすがり、生き返してくれるよう神様にお願いする。
 怪奇死郎は神などいないと言い放ち、自分と一緒に「ブラックゾーン」に来れば、健に会えるかもしれないと告げる。
 邦子はブラックゾーンに行くことを決意し、怪奇死郎と共に、池に映った満月に身体を沈める。
 二人は、健の姿を捜して、ブラックゾーンをさまようが、彼らの前には様々な障害が立ち塞がる…」

・「第二話 虫地獄」
「森で蝶採集をする小学生三人。
 彼らは蝶の群れを追って、森の奥に入り込むが、そこで蝶の化物に襲われる。
 何とか撃退したものの、そこは昆虫の化物が人間を「採集」する世界だった…」

・「第三話 人形地獄」
「雨の夜、三四郎と幸子の兄妹は、剣道の稽古からの帰りに、女性の悲鳴を耳にする。
 駆けつけると、外国人の娘、ヘレンが、人形に襲われていたのだった。
 壮年の男性の姿をした人形は通りがかった車に轢かれてバラバラになる。
 その車に乗っていたのは、ヘレンの近所に住む美鈴霊花という女性だった。
 三四郎達が霊花の車でヘレンの家まで送ってもらうと、ヘレン宅で三四郎は旧友ジョニーと偶然にも再会する。
 後日、ジョニーが道場の三四郎を訪ねてくる。
 彼によると、真夜中に、姉のヘレンがどこかへ出歩いているというのだ。
 その夜、三四郎とジョニーが見張りをしていると、夢遊病者のようにヘレンは寝室から外人墓地に向かう。
 すると、先導をする、小さな気味の悪い人形と共に、ヘレンは宙に浮かび上がり、墓地の森の中へと姿を消してしまう。
 朝になると、ヘレンはいつの間にかベッドに戻っていたが、その日にヘレンは急逝。
 何故、ヘレンは死んだのか?
 魔の手はジョニー、また、三四郎と幸子にも伸びる…」

・「第四話 パビリオン地獄」
「大阪万博。
 加藤茂雄は、会場に潜り込んで、寝泊まりしていた。
 ある夜、茂雄は謎めいた行列を目にする。
 その行列について、パビリオンに入っていくと、そこは地獄に通じていた。
 地獄では、黒鬼達が亡者達を思うがままに蹂躙し、暴虐の限りが尽くされていた。
 一方、黒鬼達よりも劣等とみなされている白鬼達は、亡者の解放運動を展開。
 しかし、圧倒的な軍事力を持つ黒鬼達に、白鬼達は虐殺されてしまう。
 白鬼の娘に助けられた茂雄は、黒鬼達の軍事拠点を破壊工作に手を貸すこととなるのだが…」
 この単行本の中で、最も風刺の色合いが濃いです。
 個人的には、「ラムさん」以前に、ビキニ・スタイルの鬼娘を描いたことで、非常にポイント高いです。(虎縞もいいが、黒もいい。)
(同時期に、山上たつひこ先生の「鬼面帝国」もありますが、個人的な趣味により、こちらの方に軍配を挙げます。)

 怪奇マンガ史に残る、傑作単行本であります。
 何が凄いかって、「奇想」を圧倒的な画力で描き切り、芸術的な雰囲気を併せ持った「怪奇」マンガをつくり上げたことであります。
 作者の伸びやかな想像力の翼に乗って、様々な地獄のパノラマを俯瞰するのは、実に絶景かな、絶景かな。
 エンターテイメントとしても優れており、百年後にも読まれるであろう漫画だと、私は思います。

 単行本はかなり入手困難かつ高価であります。(特に、初版は鬼娘のカラー口絵があるため、値段二倍、二倍〜。)
 ただし、サンワイド版「地獄くん」にて、「地獄くん」とのカップリングで、「パビリオン地獄」以外は再録されておりますので、読みたい方はそちらをお勧めいたします。
 この単行本もそのうち復刻されると思いますので、指折り数えて待ちましょう。

 
2017年1月1日 ページ作成・執筆

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