伊藤潤二「首吊り気球」
(1994年9月20日第一刷・1995年7月10日第二刷発行)

 収録作品

・「血玉樹」(「月刊ハロウィン」1993年11月号)
「山奥の道路で、自動車事故を起こした安西と加奈。
 人家を探して、山道を進む二人は、掘っ立て小屋にたむろする子供達に会う。
 が、どうも様子がおかしく、無視して行こうとしたところを襲われ、噛み付かれる。
 加奈はあちこち怪我をしてしまい、休むところを探しているうちに、廃墟となった村落に入り込む。
 廃村の奥の屋敷に、端正な顔立ちの青年が住んでいて、二人はそこで傷の手当てを受ける。
 青年が言うには、この村に住んでいるのは彼だけで、子供達はどこからかやって来て、悪さのし放題とのことだった。
 この家に電話はなく、二人は一晩泊まることとなる。
 食事の時に、主の青年にどうしてこんな廃村に住んでいるのか、と安西が尋ねると、そういう心境になったから、と答える。
 そして、青年は不思議な話を二人にする。
 彼が愛した女は、孤独な女だった。
 リスト・カットを度々行うが、その理由を彼女は、血が彼女から愛想を尽かして、逃げたがっているから、と語る。
 彼女の言葉通りなのか、喉もとの傷から、枝のようなものが伸び、その先には血の詰まった果実のようなものが幾つもつく。
 数日後に、痩せ干からびた彼女の死体のわきで、首から生えた木は旺盛に分枝を伸ばし、その先端にたわわに血の果実を実らせたと言う。
 その話を聞きながら、いつしか青年は眠り込んでしまったらしい。傍らに、加奈の姿はない…」

・「首吊り気球」(「月刊ハロウィン」1994年1月号)
「人気絶頂期に、動機不明の首吊り自殺をしたタレント・アイドル、藤野輝美。
 しかし、彼女の死後、宙に浮かぶ彼女の生首が多く目撃され、騒動になる。
 輝美の友人、和子は幽霊だという噂に半信半疑だったが、輝美の恋人だった白石晋也は実際に目にしていると言う。
 そして、ある晩、晋也から電話をもらった和子が公園に駆けつけると、木に登った晋也が宙に浮かぶ輝美の巨大な生首に話しかけている最中だった。
 故意か、偶然か、上方から垂れ下がってるロープの先端にある輪で、晋也は首を吊ってしまう。
 立ちすくむ和子の前に、木陰から大きな晋也の生首が現われる。顔の下の首に当るところからロープが伸び、晋也の死体がぶら下がっている。
 巨大な顔が互いに口づけするのに肝を潰し、和子は交番に駆けつけるが、現場には何もない。
 しかし、これは惨劇の序曲に過ぎなかった…」

・「あやつり屋敷」(「月刊ハロウィン」1994年3月号)
「貧しい旅興行師の一家。
 父親に、兄弟二人に妹が一人。母親は妹が産まれた後で失踪。
 旅から旅の浮き草稼業。定住せず、興行が終わればすぐに引越しという生活。
 そんなある日、父親が病に倒れ、遂にボロ・アパートに住むことになるが、兄は先の見えない生活に嫌気がさして、家出。
 父親の死後、中学校を卒業した治彦は就職し、妹と共にアパート暮らしをする。
 そんな生活の中、旅をしている間に唯一心から親しくなれた日高絹子と再会、治彦と絹子の仲は急速に接近する。
 ある日、治彦のもとに、家出をしたまま、消息を絶った兄、雪彦から手紙が届く。
 彼は治彦と同じ町に住んでおり、兄妹が家を訪ねると、そこは立派なお屋敷だった。
 そして、彼らを出迎えた雪彦一家は、あやつり人形のように、身体の各部分が天井の隙間より下がる糸につながれ、操られているのだった…」

 伊藤潤二先生の最良の作品が詰まった一冊であります。斬新、そして、奇想炸裂でありながら、完成度の非常の高い傑作揃いです。
 まだ伊藤潤二先生の作品を読んだことがない人、もしくは、「富江」あたりしか読まず、大して感心もしないまま、他の作品を読まなかった人には、激しく推薦しておきます。文章で表現できないマンガばかりですので、とりあえず、読んでくださいとしか言いようがありません。
 個人的には、こういう作品にこそ、伊藤潤二先生の真骨頂があると考えております。

平成27年2月6日 ページ作成・執筆

朝日ソノラマ・リストに戻る

メインページに戻る