楳図かずお「半魚人」(1971年2月5日初版・1976年7月15日6刷発行)

 収録作品

・「半魚人」(1965年「少年マガジン」)
「式島次郎の兄は、何の前触れもなく、次第に魚類へと化していく。
 歯は鋭く尖り、嗜好も魚しか受け付けなくなる。
 皮膚は鱗で覆われ、指の間には水かきの膜が張り、次第に人間らしさを失っていく。
 夜ごと、外出する兄を次郎がつけると、彼は海の中で跳びはね、魚を捕っていた。
 次郎の兄は自分が身も心も魚類と化していくことを悟り、次郎の前から去る。
 ある日、次郎は、親友である健一の父親が働く研究所を訪れる。
 健一の父は、千年後に地上は海に没し、それに対応するために、人類が魚類化しているという学説を発表していた。
 だが、研究所に偶然逃げ込んだ、次郎の兄は、健一の父になり代わる。
 そして、健一を監禁し、魚類に変えるために、乱暴な実験や手術を行う。
 次郎は健一を解放しようとするものの、逆に、拘束されてしまう。
 次郎の目の前で、健一は徐々に半魚人へと姿を変えていく…」

・「ひびわれ人間 楳図かずおのフランケン」(1966年「少年マガジン」)
「灰田博士とその助手、三太は、人造人間をつくる実験をしていた。
 彼らは墓場で、交通事故で亡くなった幼児、影森良彦の脳を入手する。
 実験は成功するものの、雷に怯えた人造人間が大暴れして、灰田博士は死亡。
 雷雨の中、人造人間は町にさまよい出て、影森家に帰ってくる。
 しかし、影森夫妻にそれが自分の子供であることなどわかるはずもなく、逃げようとしたところ、夫は人造人間により撲殺。
 外に出た人造人間は崖から足を滑らせ、海に転落、三太は人造人間を研究所に連れ帰る。
 一方、未亡人となった影森夫人は、遺産を狙う親戚達に監禁され、拷問を受けていた。
 逃げ出した影森夫人は、研究所に逃げ込み、人造人間と再会。
 人造人間の脳が自分の子供であることを知った影森夫人は、遺産を狙う親戚連中を人造人間を使って、始末しようとする…」

・「恐怖の首なし人間」(1966年「少年画像」)
「雨の日、探偵五郎は自宅で首はライオン、胴体はワニという化け物(ワニオン)に襲われる。
 すんでのところを、二人組の男がワニオンを射殺。
 二人組の男は、一方は身体をマントに包んだ、中年の男、もう片方は、覆面をかぶった、体格のいい男であった。
 右腕に怪我をした五郎を治療するため、彼らは五郎を彼らの研究所に運ぶ。
 その研究所では、異なった動物同士を結合させる研究が行われていた。
 そして、その研究は、頭以外の身体がボロボロになってしまった、藻呂尾(もろお)博士の息子のためであった。
 自分の身体が狙われていることを知った五郎は研究所から脱走しようとするのだが…」

 先日、アヌシー国際アニメ映画祭にて、湯浅政明監督の「夜明け告げるルーのうた」がグランプリ、片渕須直監督の「この世界の片隅に」が長編審査員賞という快挙がありました。
 それを記念して、今回は、楳図かずお先生の「半魚人」を扱います。(単に、「夜明け告げるルーのうた」での「人魚」つながりです。)(注1)
 この短編集は、楳図かずお先生の作品によく見かけるテーマ「変身」「改造」を扱った作品が収められております。
 冒頭の「半魚人」は、「人類滅亡の恐怖」と「滅亡から生き残るために変身する恐怖」という相対する恐怖を扱っており、当時の少年達にはかなりショッキングな作品ではなかったのでしょうか?
 また、あまりにサディスティックな「改造」シーンも、生々しさに花を(?)添えております。
 他の作品への影響力を考えますと、ズバリ名作だと思います。
 「ひびわれ人間」はタイトルにもあるように楳図かずお版「フランケンシュタイン(映画版の方)」です。
 ストーリーに遺産問題が絡んで、人造人間を復讐の道具に使おうという発想が、成功しているかどうかはともかく、面白いと思います。
 「恐怖の首なし人間」は、と〜ってもB級で、私の琴線にビンビン触れました。
 作中にもあるようにH・G・ウェルズ「モロー博士の島」(私、この作品、大好き!!)にインスパイアされて、描かれた模様です。
 「モロー博士の島」では、動物を人間に作り変えてましたが、この作品ではキメラ動物をつくるという設定に変えられています。(二番煎じをよしとしない、プロ意識は流石。)
 その時点で、すでにB級のオーラを発しており、作中のフリーク趣味炸裂のキメラ動物達にはエビ反りになっちゃいます。
 また、博士の正体が「ゾンバイオ 死霊のしたたり」は先取りしているのが凄い!!(頭と胴は、実は、つながっていますが。)
 そして、ラスト、博士の胴体に追っかけられる描写に「バタリアン」のシーンを重ね合わせたりして、一人、悶え喜んでいるのです。
 まあ、つまることろ、好きなホラー映画を彷彿させる要素があれば、それだけで狂喜しているのであります。単純ですね…。

・注1
 「夜明け告げるルーのうた」がグランプリとは青天の霹靂でありました。
 確かに良作の部類には入るでしょうし、西欧人には西欧人の感性があるとは思います。(やっぱり「人魚」とか好きなのかな。)
 海が大好きなイタリア人なんかにはウケるのではないでしょうか?
 しかし、個人的には、ツイッターにも書いたように「決して駄作ではありませんが、一般受けはしないかも…」という感想を抱いてます。
 どうもクセが強いような気が拭えないのです…。(私が最初に観た、湯浅政明監督の作品ですので、監督の意図や個性はわかりません。)
 ともあれ、国際的な映画祭でグランプリを取ったことで、この映画の再上映を行う映画館が増えてくるかもしれません。
 機会があれば、再見して、新たな魅力を見出してみたいと思ってます。
 それから、ファンにとっては、「この世界の片隅に」がグランプリを逃したことは残念でありました。
 非常に「日本」的な題材で、外国の方には、わかりにくい部分や感情移入しにくい部分が多々あり、その壁はやはり超えられなかったということなのでしょうか。
 加えて、ストーリーの中に「説明不足」な点が幾つかあったこともイタかったのではないか、と考えてます。(例、りんさんが「この世にそうそう自分の居場所は云々」と話すシーンが突如挿入されるシーン。完全版希望!!)
 それでも、最も権威あるアニメ映画祭で、準グランプリに喰いこむのは凄過ぎる。
 もしも近場でまだ上映している映画館があったら、未見の人は観に行ってください!!
 観ないと、損しますよ!!(損したと言う方がおられたら、五人まで私がチケット代、もちましょう。それ以上はちょっとゼニ―が…。)

2017年6月18・19日 ページ作成・執筆

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