成毛厚子「くつ箱の中から…」(1995年7月20日初版発行)

 収録作品

・「くつ箱の中から…」(1993年「眠れぬ夜の奇妙な話」Vol.13)
「真紀子は朝から晩まで家事と育児に追われ、疲弊していた。
 更に、夫の健二は浮気をいるようで、彼女のストレスはたまる一方。
 ある日、夫の出勤前に、二人は大喧嘩をして、そのまま、夫は失踪してしまう。
 何故か買ったばかりのイタリア製の靴は残されていた。
 二年後、真紀子はシングルマザーとしてバイトを掛け持ちしつつ、一人娘のエミを育てていた。
 しかし、女手一つではどうにもならず、このままではマイホームを手放すしかない。
 そんな時、夫の同僚の日高と彼女は深い仲になる。
 彼女は夫のイタリア靴を捨てるため、靴箱から取り出すと、靴箱の中から助けを求める声がする。
 靴箱の中に男の姿があるのだが…」

・「K社の秘密」(1993年「眠れぬ夜の奇妙な話」Vol.14)
「『日本全国 翌日配達』を売りにしている運送業のK社。
 ライバル社の男はK社では「物質転送機」を使っているのではないかと疑う。
 彼はそれを確かめるべく、自分が段ボールの中に入り、同僚の実家のある北海道に配達してもらうのだが…」

・「埋葬」(1994年「眠れぬ夜の奇妙な話」Vol.17)
「閑静な住宅街。
 市田という主婦はマイホームを手に入れ、娘は有名私立校にやり、幸せな生活を満喫していた。(夫は単身赴任。)
 ある日、彼女の家の前に花が置いてある。
 それはまるでお供えのようで、彼女の知らないうちに数が増えていく。
 近所の人の仕業かとと思うが、交際は皆無に近く、交番で警察官に相談しても役にたたない。
 そのうちに、花だけでなく、線香まで置かれるようになる。
 彼女が再び交番を訪れると、地図の彼女の家の場所に小さな矢が刺さっていた。
 更に、今日の日付が書き込まれているのだが…」

・「復活」(1994年「眠れぬ夜の奇妙な話」Vol.19)
「サチ子のお誕生日会。
 だが、サチ子はクラスメートの財布を取ったと疑われ、川に身を投げて脳死状態になっていた。
 母親はサチ子がお礼を言いたいからと彼女の友人を部屋に連れて行く。
 最初に連れてこられた舞はベッドで寝たきりのサチ子を覗き込む。
 すると、彼女の上体が起き上がり、舞に無実を訴えて…」

・「エスニック」(1994年「ネムキ」Vol.20) 「若いカップルが香辛料の匂いに誘われ、あるレストランに入る。
 中には外国人だけで、話す言葉もメニューもチンプンカンプン。
 それでも、店内にはお香が濃く靄り、エスニックの雰囲気が満点で、彼氏はここは穴場だと得意顔をする。
 飲み物の後に料理が出てくるが、これはゆで卵とウツボのような魚の入っているスープ。
 魚は彼氏の指に噛みつき、彼氏がウェイターに文句を言うと、ウェイターは彼の指の血を床に滴らすと、そこに蝋燭を置く。
 更に、鶏の首を大きな包丁で切断すると、今度は土人の呪術師が現れ、鶏の首から血を浴びると、カップルにもその血をかける。
 どこからともなく太鼓の音が聞こえ、店内の客が踊り出す中、儀式は続く。
 カップルは店から出ようとするが…」

・「愛玩動物 ―ペット―」(1995年「ネムキ」Vol.25) 「朝日動物病院。
 ある青年が、ペットの猫用に下痢止めをもらいに来る。
 待合室にはもう一人お客がいて、彼女は身なりの良い裕福な女性であった。
 彼女のペットはカゴの中で姿は見えないが、かなり凶暴で食欲旺盛らしい。
 彼女はこのペットを処分しに来たのだが、右手をカゴに引き込まれ、手首を食いちぎられる。
 医者が駆けつけ、彼女を診察室に運ぶが、青年はカゴの中が空っぽなことに気付く。
 彼はそっと病院を抜け出し、家に急いで戻るのだが…」

・「成毛厚子 奇妙な三本立て劇場」(1993年「眠れぬ夜の奇妙な話」Vol.11)
「第1話 福の神」
 バブルがはじけ、会社が倒産し、莫大な借金を抱えている元青年実業家。
 彼の恋人はかなり浮世離れしており、彼のため、「福の神」の缶詰を買ってくる。
 困った時にこれを開けると、商売繁盛、家内安全、気運上昇とのことなのだが…。
「第2話 雪ダルマ」
 夜の公園。
 歯医者で遅くなったため、子供は誰もいないが、ケン太は雪ダルマを作って遊ぶと言い張る。
 母親は仕方なく付き添うのだが、ふと、雪の日に幼い女の子が変質者に殺された事件を思い出し…。
「第3話 風邪」
 あるサラリーマンの男性。
 彼のアイドルが「例のウイルス」に感染したとカミングアウトしたのを知って、彼は大きなショックを受ける。
 彼女のグッズをまとめて捨てた後、会社に向かうが、どうやら風邪をひいたらしい。
 たかが風邪と考えていたが、電車の中では露骨にバイキン扱いされ、誰もが彼から逃げようとする。
 出社してから、彼は同僚に「風邪」について尋ねるのだが…。

 成毛厚子先生は短編の名手ですが、この短編集ではバカバカしさ炸裂の「K社の秘密」と切れ味鋭いオチの「愛玩動物 ―ペット―」が優れていると思います。
 ただ、「埋葬」と「エスニック」はイマイチ意味が分からず、面白みに欠けます。

2023年7月17日 ページ作成・執筆

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