近藤ようこ「月影の御母」(1999年10月30日第1刷発行)
・@「水底の夢」(「ネムキ」1997年11月号)
「田舎にある一軒家に、少年は母親と共に住んでいた。
ある日、空から人を呼ぶ声が聞こえ、彼は自分の名前が思い出せないことに気づく。
考えようとはするのだが、頭がもやもやして、考えがまとまらない。
次第に、彼は母親に違和感を覚えるようになる。
その頃、ある沼では魚が獲れなくなっていた。
ある日、釣り人が、女の着物と懸守を釣り上げる。
この沼には主がいるらしいのだが…」
・A「海石榴市(つばいち)」(「ネムキ」1998年3月号)
「少年は懸守の中の紙片から自分の名が蓮生丸であることを知り、一匹の猿(ひょん太)と共に母を捜す旅に出る。
夜、彼は市が立つ場所で休み、翌朝、市の人々に母を尋ね歩く。
すると、一人の年老いた尼僧が、行き倒れの女を養生していると話して、彼を寺へと案内する。
この市は寺の前に開かれており、中には見事な椿の木が立っていた。
寺の中からは母親を名乗る女性が現れ、蓮王丸が彼女と抱き合うと、ひょん太がしきりに鳴く。
庵主は猿を中には入れてはならないと命じ、わらわらと現れた尼僧たちもそう繰り返すので、ひょん太は外の杭につながれる。
蓮王丸はこの寺でしきりに歓待を受けるが、尼僧達がどうも気味悪い。
ひょん太は何かに気づき、ある日、縄を食いちぎって逃走。
そして、蓮王丸もある夜…」
・B「子供の砦」(「ネムキ」1998年7月号)
「ある日、蓮王丸は武装した子供達と出会う。
彼らは孤児で、落武者などから身を守るため、砦を築いていた。
指導者の佐吉から仲間に入るよう勧められるも、蓮王丸は母親を捜すからと拒否。
それに腹を立てた彼らは蓮王丸からひょん太を奪う。
殴られ、気絶した蓮王丸が目覚めると、そこは焼け落ちた村の屋敷跡で、そばには母親を名乗る女性が座っていた。
だが、その母親は、子供と別れた母親達の死骸が一つに凝り固まったもので…」
・C「付喪神」(「ネムキ」1998年11月号)
「旅の途中、蓮王丸は巫女を名乗る老婆と出会う。
老婆は彼に占いを勧めるが、彼は相手にしない。
その夜、彼は寂れたお堂に入ると、女性の先客がいた。
彼女は蓮王丸の名前を聞くと、自分は彼の母親だと名乗る。
彼は母親の顔を見ようとするが、暗いためか、白くぼんやりとしか見えず、触っても、冷たくてすべすべしているだけ。
ひょん太が騒ぐので、蓮王丸は猿を外に出すと、外では、彼をつけてきた老婆が中を窺っていた。
とりあえず、様子を見るために、老婆とひょん太は回り廊下の下に潜んで休む。
夜更け、お堂に様々な異形のものが集まってくるが、それは付喪神たちであった。
彼らは人肉を食しながら、宴会を始めるのだが…」
・D「竹の女人」(「ネムキ」1999年3月号)
「侍達に間者と間違われ、蓮王丸は肩に怪我をする。
ひょん太が侍達を足止めしている間に、彼は逃げるが、途中で力尽きる。
目覚めると、そこは竹藪の中の一軒家であった。
そばには美しい女性がおり、彼を介抱する。
彼は彼女の優しさに心安らぎ、ずるずると滞在してしまう。
ある日、二人が山菜を摘んでいると、赤ん坊の泣き声が聞こえる。
どうやら赤ん坊の両親は死ぬか、連れ去られるかしたらしい。
女は赤ん坊を家に持ち帰るも、女は乳は出ず、貧乏所帯故に、食べ物もろくにない。
蓮王丸が訝っていると、女は「いい方法」を考えたと、裏庭へのすだれを上げる。
裏の竹藪には、子供の頭のついた竹が幾つも生えていた…」
・E「花の家」(「ネムキ」1999年7月号)
「旅を続け、蓮王丸は和泉の国、前田の庄にある、父、楠本直定の屋敷に到着する。
屋敷は荒れ果てていたが、父親の正室が一人残っており、彼を出迎える。
蓮王丸は彼女から、父親が戦に出て不在のこと、そして、母親が側室であったことを聞く。
正室には子供がない故、この家の跡取りは蓮王丸のみ。
彼は屋敷に残って、父親の帰りを待つこととなる。
その夜、彼の部屋に忍び寄るものがある。
気配に目を覚ますと、光る糸が伸びており、彼はそれを辿る。
すると、ある部屋に巨大な蜘蛛の巣があり、中には干からびた子供の亡骸があった。
声がしたので、振り向くと、入り口に正室が立っている。
正室は蓮王丸に真実を明かし、その正体を見せる。
蓮王丸の運命は…?」
「あとがき」によると、近藤ようこ先生は『おかあさんの物語』を描いてみたとのことです。
主人公の少年の「おかあさん」は異形のものと化し、また、行く先々で「おかあさん」の妖怪と遭遇します。
そんな「おかあさん」は恐ろしくもあり、悲しくもあり、優しくもあり、残酷でもあり、また、愛おしくもありですが、近藤ようこ先生の肩ひじ張らない素直な(けど、シュールな)描線によって温かみのある存在として表現されております。
一応は「怪奇マンガ」に分類される作品だとは思いますが、根底にあるのは「母の愛」。
この「人肌」感は男には描けないモノかも…。
2023年2月16・25日/3月12日 ページ作成・執筆