犬木加奈子「サソリお姉さま」(1996年7月30日第1刷発行)

 収録作品

「サソリお姉さま」
・「第一話」('94年7月「ネムキ」Vol.20掲載)
 サソリとサナギは姉妹だが、性格は正反対。
 勝気で、自我の強い姉と較べて、妹のサナギは気が弱く、おっとりとした子。
 サソリは、母親の愛情をサナギに奪われると感じ、サナギに対して嫉妬心と敵愾心を燃やす。
 ある日、サナギは姉のクレヨンを折ってしまい、サソリは激昂、怪我までさせられて、サナギは途方に暮れる。
 すると、姉の飼っているトカゲがサナギに話しかけてくる。
 そして、トカゲが尻尾から再生エキスをクレヨンに垂らすと、クレヨンは元通りとなる。
 サソリは、クレヨンを元通りにする秘密を知ろうと、サナギを詰問するのだが…。
・「第二話」('94年9月「ネムキ」Vol.21掲載)
 トカゲの再生エキスの影響で、身体があちこち抜けるようになってしまったサソリ。
 腕や足が抜ける時の激痛と、その後に訪れる爽快感と猛烈な痒みにサソリはすっかりはまってしまう。
 調子に乗って、頭だけになってしまったサソリは、バラバラになった身体の始末をサナギに押し付ける。
 かと言って、サナギにもどうすることもできず、窓から身体を捨てると、いつの間にかなくなっていた。
 サナギが訝っていると、つい最近隣に越してきた、アリ塚さんからお礼にと家に招待される…。
・「第三話」('94年11月「ネムキ」Vol.22掲載)
 姉という存在は、自分のものは妹には決して触らせないくせに、妹のものは自分のものにしようとするもの。
 サナギが買ってもらった、おままごとハウスもサソリがすっかり独り占め。
 仕方なく、サナギは、姉が母からもらった「ハウス」で遊ぼうとするのだが…。
・「第四話」('95年7月総集編「ザ。犬木加奈子」掲載)
 総集編のために描き下ろされたカラーページなのではないでしょうか?
 三ページだけです。
・「第五話」('95年1月「ネムキ」Vol.23掲載)
 ―トンボの目―
 秋、生き物を採集するのが好きなサソリは赤とんぼをたくさん捕まえる。
 しかし、狭い虫かごに詰め込んだために、トンボは皆、死んでしまう。
 サナギの非難にカチンときたサソリは、トンボの眼を集め、それをジュースの中に入れ、サナギに飲ませる。
 トンボのような目になると怯えるサナギであったが、その夜…。(注1)
 ―サナギの絵―
 サソリの誕生日。
 友人達は皆、用事で来られなくなり、サソリはお冠。
 サナギは姉のためにちゃんとプレゼントを用意していたが、それは姉を描いたスケッチブックであった。
 両親の前では喜んだ振りをするが、子供部屋に戻ると、サソリはその本性を現し、サソリはサナギの絵をボロクソにけなす。
 サナギがスケッチブックに涙を落とすと、部屋がサナギの絵とそっくりに変わる。
 そして、サソリも同じく…。
 ―サソリ人形―
 クリスマス・イブの翌朝。
 サナギは姉に壊されないおもちゃをサンタに願う。
 翌朝、サナギの靴下には、サソリにそっくりな人形が入っていた。
 サソリは早速その人形に手を伸ばすのだが…。
・「第六話」('95年3月「ネムキ」Vol.24掲載)
 すっかり虫の姿も見かけなくなる晩秋。
 サソリは、家でサナギが口から糸らしきものをはいているのを目にする。
 また、母親も同様にひそかに口から糸をはいていた。
 自分以外はサナギになって越冬すると思い込み、サソリは孤独に苛まされるのだが…。
・「第七話」('96年1月「ネムキ」Vol.29掲載)
 うるさく、邪魔っけなだけの妹。
 ある日、サナギは急に親戚のもとに預けられる。
 一人だけの生活をエンジョイするサソリであったが、日が経つにつれ、妹の不在が気がかりになる。
 両親に聞いても、はっきりしたことを教えてくれず、サナギを取り戻すために、サソリは親戚の家へと駆ける…。

「うしろ神」('94年1月「ネムキ」Vol.17掲載)
 ちまきは幼い頃から非常に身体が弱く、何度も生死をさまよう。
 だが、彼女には、他の人には見えない何者かの姿を見ることが出来た。
 その何者かが身近な人間のそばに控えていると、その人間は死に、ちまきは回復する。
 長ずるにつれ、彼女はそれが俗に言う「死神」だと気づく。
 死の影に怯えながら、ちまきは中学生になる。
 そこで、姉、サツキの友人の丹吾にほのかな恋心を抱くのだが…。

「サイコ・ボックス」('95年5月「ネムキ」Vol.19掲載)
 丸い穴のあいた箱を持って、道端でずっと立ち続けている老婆。
 誰も気にかけずに通り過ぎる中、一人の女子学生が老婆に興味を抱く。
 彼女は老婆を物乞いと思い、幾度か小銭を箱の中に入れる。
 そういうことが何度も繰り返されるが、ある時、老婆が自分は物乞いでないと話しかけてくる。
 そして、この箱にものを入れても無駄と付け加える。
 一度は立腹して、その場を立ち去るが、考え直し、老婆のもとに戻って、事情を聞くことにする。
 すると、老婆はしばらくの間、この箱を持っていてくれたら教えると、彼女に箱を手渡す。
 また、箱の中を絶対に覗かないよう念を押し、その場から立ち去る。
 彼女が扱った箱は見かけのわりに意外と重く、また、老婆は戻って来ない。
 一時間も経ち、彼女は箱の中を確かめてから、箱を置いて、帰ろうと決めるのだが…。

 「サソリお姉さま」は犬木加奈子先生がご自身の体験をもとに描いたものです。
 とにもかくにも、キャラの立ちまくったサソリお姉さまが魅力的。
 目じりを吊り上げ、眉間に皺を寄せまくって、どす黒いオーラを発散させる、このエキセントリックさは、犬木加奈子先生が創造したキャラの中でも独特の地位をを占めているように思います。
 犬木加奈子先生の他のマンガと較べ、ユーモラスで、グロ描写は控えめなので(個人の感想です)、先生の怪奇マンガが苦手な方は試しに読んでみては如何でしょうか?
 「うしろ神」は、死神を扱った短編ですが、ラストをどう感じるかで評価が変わると思います。
 目元からして幸薄そうなヒロインがあまりに禍々しく、強烈な印象を残します。(ひょっとして青木智子先生のアシストが入ってる?)
 「サイコ・ボックス」は楳図かずお先生の「残酷の一夜」にインスピレーションを受けたのでありましょうか。(注2)
 影響はあったとしても、きっちりアレンジして、犬木加奈子先生にしか描けないような作品に仕立てており、唸らされます。

・注1
 鴨川つばめ先生の「マカロニほうれん荘」の「トシちゃんの分身が一人行方不明になる話」を彷彿いたしました。
 とりあえず、「Do the trouser press,baby!!」(by Bonzo dog band/BBCセッションズのバージョンが最高。)

・注2
 余談ですが、渋いところでは、ゼナ・ヘンダーソンの「なんでも箱」という有名な短編があります。
 ゼナ・ヘンダーソン(1917〜1983)は、1950年代に活躍した、アメリカの女流SF作家です。
 本棚には、
 「果しなき旅路」(ハヤカワ文庫/1978年7月15日発行)
 「悪魔はぼくのペット」(ソノラマ文庫海外シリーズ/1984年11月30日発行)
 の二冊がありますが、本棚で背表紙を飾るだけで、いまだに読んでおりません。
 短編集の「悪魔はぼくのペット」は近いうちに読みたいと思います。

2017年9月16・17日 ページ作成・執筆

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