まつざきあけみ「黄金海流」(1989年4月20日改訂初版発行)

 収録作品

・「黄金海流」(「月刊ハロウィン」1986年9月〜12月号)
「小説家の弓削一郎と編集者の宮川誠一のコンビは「黄金伝説」の取材のために周防島(注1)に船で向かう。
 ここは昔、倭寇の根城の一つであり、島の近くの「魔の海」には黄金を積んだ船が沈んだという伝説があった。
 そのため、「魔の海」では多くのボートが集まり、宝さがしに精を出す。
 宮川誠一たちが船の乗客と話をしていると、少女が船から落ちる騒ぎが起こる。
 誠一は彼女を救うが、彼女は行方不明中の遊佐日乃(ゆさ・はるの)であった。
 遊佐家は周防島で最も大きな家で、家族構成は父親、長男の浩介、二男の駿吉、妹の舞、よいよいの祖母で、母親は早くに自殺していた。
 妹の舞によると、一月前の夕方、日乃は見知らぬ男性と会い、あることを確かめて、どうしても会いたい人がいると舞に告げ、翌日の連絡船に乗る。
 以来、消息がわからず しかも、日乃はその間の記憶を失っていた。
 日乃を助けたことで、一郎&誠一のコンビと、船で彼女の世話をした田村は遊佐の屋敷に厄介になる。
 誠一と日乃はお互いへの想いを深めていくが、島では奇怪なことが次々と発生。
 島では黄金探しをする人々への妨害が起き、「倭寇のたたり」が噂される。
 実際に過去、海岸の洞穴では「倭寇の亡霊」による殺人事件が起きていた。
 一方、遊佐の屋敷では日乃が土蔵で何者かに襲われ、次に、駿吉が晩飯に毒を盛られ亡くなる。
 悲劇はこれにとどまらないが、これは「倭寇のたたり」によるものなのであろうか…?
 そして、黄金の在処は…?」

・「スペシャル・メニュー」(「月刊ハロウィン」1987年1月号・2月号)
「宮川誠一の担当する覚馬詮(かくま・あきら)は大変な美食家。
 彼は会員制のフランス料理店でよく食事をするが、その近くのテーブルでよく食事をする男がいる。
 彼は海堂という名で、某大手食品会社の研究室にいた天才科学者であったが、学会を追放されて以来、音沙汰はなかった。
 海堂もまたかなりの食通だが、皮肉なことに彼は太平洋戦争中に妹を飢えで亡くし、戦後は妻が栄養失調と病気で亡くなる。
 ある晩、覚馬が肉料理を楽しんでいると、海堂が「どんな肉料理もあの肉の旨さには足もとにもおよばない」と話す。
 覚馬は「あの肉」とは何かと尋ねるが、海堂はそれは簡単に手に入る肉ではなく、自分のように何を食べても美味くない哀れな男になってはいけないと口を濁す。
 覚馬は納得せず、海堂に頼み込み、その肉料理を味わうこととなる。
 海堂の屋敷で覚馬がその肉を食べると、海堂の言葉通り、今まで食べたどの肉よりも美味しい。
 驚嘆する覚馬に海堂は自分の過去にあった出来事を話し始める…」

 まつざきあけみ先生がノリにノッてた頃の傑作です。
 「黄金海流」は江戸川乱歩風(というより横溝正史かな?)の怪奇ミステリーにスペクタクルな展開を絡ませ、ぐいぐい読ませます。
 多少納得いかないところがあっても、この怒涛のサービス精神の前にはひれ伏すしかありません。
 「スペシャル・メニュー」はダーク・ミステリーです。
 ミステリー作品で「美味い肉」と言えば、あの肉に決まってますので、当然、ヤバい描写があります。
 それだけで終わりかと思いきや、意外などんでん返しがあります。
 「華麗なる恐怖」に恥じない一作です。是非ご一読を。

  ・注1
 周防大島のことかと思ったが、島に周防山という火山があったり、「魔の海」には人を捕らえる海草があったりするので、違うかも。

2024年2月26日・5月3日 ページ作成・執筆

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