伊藤潤二「画家」
(1996年2月20日第一刷発行)
収録作品
・「画家」(「月刊ハロウィン」1995年7月号)
「森光夫は、「ナナ」シリーズで人気の新進画家。
三度目の個展会場で、彼は、美しい少女と出会う。
彼女は絵のモデルの堀江ナナをくさし、モデルを変えたらいいのではないかと言う。
後日、彼女は彼のアトリエに無断で現れ、悪意の溢れる嘘を並べ立てる。
怒った堀江ナナは出て行き、森光夫は彼女、トミエをモデルに絵を描くことになる。
彼は自分の腕には自信があったが、トミエは彼の絵を見て、自分の美しさを少しも表現していないと彼のもとから去る。
以来、彼はトミエにとり憑かれ、彼女を描こうとするのだが…」
・「暗殺」(「月刊ハロウィン」1995年8月号)
「木下哲夫は、夜の裏道で、若い娘が通り魔に滅多刺しにされる現場に遭遇する。
彼は娘を病院に連れて行こうとするが、彼女は彼の部屋に運ぶよう頼む。
彼女は何者かに狙われているらしく、今わの際に、自分が死んだら、人の来ない場所に埋めて、火葬は絶対しないよう頼む。
哲夫は彼女の遺言に従い、死体を山中に運び、埋めるが、立ち去ろうとした時、彼を呼ぶ声が聞こえる。
声は土の中から聞こえ、よくよく見てみると、死体の胸の傷痕から、娘の顔が新しく生えていた。
娘の顔に指示され、彼は死体から顔を切り取り、家へ持ち帰る。
首は彼に対して高圧的に振る舞い、更に、顔の首もとから身体のようなものが成長し始める。
ある日、顔は、彼が埋めた死体が生き返ったと言い、彼女を殺すよう命令するのだが…」
・「毛髪」(「月刊ハロウィン」1995年9月号)
「千恵は、父親の書斎で、桐の小箱を見つける。
その中には、とても美しい黒髪が収められていた。
不思議なことに、その黒髪は何故か伸び続けている。
千恵が、友人の美貴に相談した時、美貴が髪の一本を自分の頭につけると、そのまま、貼り付いてしまう。
千恵の頭にもその髪が一本、貼り付いてしまうが、以来、美しい少女の幻を頻繁に見るようになる。
一方、美貴はその黒髪を持ち帰り、増殖させ、あることを目論むのだが…」
・「養女」(「月刊ハロウィン」1995年10月号)
「老いた雛田夫婦は、財産家ではあったが、子供には恵まれなかった。
施設から養女をもらい受けるも、次々と亡くなり、世間では、いびり殺されたと噂される。
ある雨の夜、邸の庭に、美しい少女が倒れていた。
彼女の名は富江で、両親を飛行機事故で亡くし、行き先がないと話す。
渡りに船で、富江は夫婦の養女となり、老夫婦は彼女を大変にかわいがる。
ただ、唯一の気掛かりは、養女が早くに死んでしまうことだった。
老婆はそれについて富江に話すと…」
・「滝壺」(「ネムキ」VOL.28)
「山奥の小さな村。
その村から一キロ離れた場所に滝があり、若い男が自殺者が絶えなかった。
そこが自殺の名所となったのは最近のことで、若い男のセールスマンが村を訪れた時からであった。
彼は、土に埋めると、可愛い女の子が産まれるという肉の塊を村人に売りつけようとしたことで村人達に追われ、その肉塊を全て滝壺に捨てたのである。
ある日、二人の青年がその滝で釣りをする。
一人の竿に大きな獲物がかかるが、それは娘の死体であった。
男は死体を引き上げにとび込むが、いつになっても上がってこない。
もう一人が滝壺に潜ると、そこで見たものは…?」
伊藤潤二先生の代表作の一つ「富江」シリーズ。
個人的に、肌に合わないと感じていたのですが、改めて読みなおすと、すんません、メチャクチャ面白かったです!!
ホラーとして一級品なだけでなく、「暗殺」「養女」のように、奇想とブラック・ユーモアが表裏一体なところがまさしく伊藤潤二先生の独壇場だと思います。
そして、富江の凄絶な艶っぽさ…。
黒井ミサ同様に、ホラー・クイーンの一人として、息長く活躍するでありましょう。
2021年6月4日 ページ作成・執筆