オガツカヅオ「りんたとさじ」(2009年10月30日第1刷発行)

 りん太とさじは花沢大学の同期で、恋人(?)同士。
 さじの本名は「佐藤順子」であるが、りん太に「さじ」と名付けられた瞬間、彼に恋してしまう。
 だが、このりん太、一癖も二癖もあって、験かつぎオタクなだけでなく、「変わった派遣」ばかりをやっている。
 彼と一緒に、さじも奇妙な出来事に次々と巻き込まれていくのだが…。

・「炬燵の人」(「ネムキ」2005年9月号掲載)
「りん太とさじが訪れたのは、先輩の花田さんの部屋。
 その日は月に一度のカレーの日で、二人はカレーを御馳走になる。
 花田は新婚で、妻の朝子は、りん太のメールを見て、外出していると言う。
 妻のいない間、花田は幼い頃の朝子の写真を二人に見せ、思い出話をする。
 そして、こっそり妻が二人を脅かすために隠れていると教える。
 朝子は隣の部屋のコタツの中に隠れているようなのだが…」

・「妖精の人」(「ネムキ」2006年1月号掲載)
「早朝五時、さじはりん太に呼び出される。
 「妖精」捜しをするという話であったが、実際は、ゴミで溢れた室内からミナという女性を発見することであった。
 このミナという女性は子供の頃、妖精を目にしたことがあるという。
 そして、一年前から、自分が妖精になる夢を見るようになっていた。
 だが、彼女と三日前から連絡が取れなくなり、恋人の伸治がりん太を呼び出したのである。
 ミナに何が起こったのであろうか…?」

・「味の人」(「ネムキ」2007年5月号掲載)
「さじは、モルヒネで錯乱状態に陥っている祖母を見て、ショックを受ける。
 病院からとび出し、りん太のバイト先に付いて行くが、そのバイトとは、ある家の屋根裏にいることであった。
 りん太によると、人が使わなくなった部屋には良くない気が沈滞しやすいので、たまに人が訪れる必要があるらしい。
 何故か、部屋の隅には盛り塩が置いてあり、また、さじは布で目隠しをされて、布には「替え魂」の図が描きこまれる。
 さじはりん太におにぎりをもらい、食べると、祖母の作ったものと同じ味で感動する。
 気が付くと、そこは病院で、死にかけのはずの祖母がベッドから起き上がっていた。
 そして、祖母の「味」にまつわる体験が再生されるのだが…」

・「穴の人」(「ネムキ」2007年9月号掲載)
「花を買った後、りん太が向かった先は、旧式のマンホール。
 そこには、両親を殺害したゴルファーの男が身を潜めているのだが…」

・「鳴く人」(「ネムキ」2008年1月号掲載)
「服部夫婦の愛猫ベル(享年10歳)の葬式。
 服部はりん太の先輩ということで、りん太とさじも出席し、進行役はりん太の先輩の三国。
 だが、服部は、妻に猫の死は話していなかった。
 妻の曽根は予定日まで一週間で、下手に動揺を与えないようにと配慮したためであった。
 だが、後日、りん太とさじは町中で、妊婦の曽根に出会う。
 彼女は元気いっぱいで、何故か、愛猫の死を知っていた。
 彼女が去った直後、りん太の携帯電話に着信がかかる。
 りん太達がベルの墓に向かうと、服部が骨壺を掘り出していた。
 その中身とは…?」

・「傘の人」(「ネムキ」2009年3月号掲載)
「花沢大学の大学祭。
 さじは「ちがいのわかるナースカフェ」で、ナース・コスプレで働く。
 出前を届ける途中、彼女は、車椅子の娘と一緒の中年の夫婦に話しかけられる。
 彼らの娘は20歳だが、七歳の時、脳の病気を発症し、車椅子生活になったと言う。
 そこで、娘が元気だった頃、撮ったフィルムを、娘と一緒に観てほしいと頼まれる。
 学園祭終了後、さじは打ち上げを脱け出し、映写室へと向かう。
 観客は娘とさじの二人きり。
 映画が上映されようとした時…」

・「また会う人」(「ネムキ」2009年5月号掲載)
「早起きして、弁当を作って、今日はりん太とのピクニック。
 しかし、外に出てみると、外は異形のもので溢れていた。
 りん太と会うことは会えたが、彼は彼女に近づかないよう言って、ピクニックとは名ばかり、延々と走らされる。
 あるビルに着くと、屋上に上がるが、上がる途中の階段で、さじは身体を何ものかに押さえつけられ、這いつくばって登る。
 ようやく着いた屋上で、りん太はさじにおむすびを差し出すのだが…。
 さじの異変の理由とは…?」

・「さくらの人」(「ネムキ」2009年7月号掲載)
「余命一年と宣告された大学教授の根本。
 だが、一年経っても、死ぬ様子がなく、このまま死なないのではないかと考える。
 すると、いつの間にやら、彼の研究室に、見知らぬ女子生徒がいた。
 彼女は佐藤順子と名乗り、机の下で鳴っている電話を回収しに来たと言う。
 根本は電話を渡すまいとするが、さじはハサミを取り出し、コードを切断しようとする。
 根本はさじに、この電話が大切な理由を話すのだが…」

 オカルト漫画をベースとしながらも、独特の奇想とブラック・ユーモアを絶妙にまぶした、不思議な味わいの連作集です。
 個人的に一番の魅力は、天真爛漫(能天気?)な「さじ」の溌剌とした(ズレた?)キャラで、陰惨になりがちな物語をいい塩梅に中和しているように思います。
 また、話が進むごとに、さじの成長が窺われるのもいいと思います。(「さくらの人」は名品です。)
 他にもエピソードがあるのでしょうか?
 気になります…。

2021年10月10・11日 ページ作成・執筆

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