まつざきあけみ「好敵手」(1990年8月20日初版発行)
収録作品
・「蟻塚」(「月刊ハロウィン」1989年8月号)
「青年の乗るボートは嵐で遭難する。
すると、無数の蟻が黒い帯のようになってボートに伸び、ある孤島に引き寄せる。
その島には一馬と麗子の夫婦が住んでいた。
一馬は蟻のマニアで、別棟に『蟻塚』を作り、ほとんどそこで過ごしていた。
麗子は陰湿な一馬と蟻が嫌いで、青年は彼女を哀れみ、一馬を別棟に閉じ込める。
青年と麗子はボートで島から脱出を図るが、不思議な潮流のために、どうしても島に戻ってしまう。
脱出を試みながら、二か月が経ったある日、麗子は一馬を閉じ込めた別棟を訪れる。
そこで目にしたものとは…?
そして、『蟻塚』の正体とは…?」
・「魂請村」(「月刊ハロウィン」1989年9月号)
「20XX年、東京。
克巳は生命工学を勉強し、バイオ・ナーサリー・システム研究所に入ることが決定していた。
バイオ・ナーサリー・システムとは「生命工学を利用した育苗工場において、主として野菜や草花の良質な苗を量産するシステム」で、この時代には「水気耕栽培」が主流であった。
だが、克巳は「土壌による農業」に憧れていた。
彼は帰宅後、「理想の村」のジオラマ作りに没頭し、その村に「魂請村(たまこいむら)」と名付ける。
この村に彼は没入していき、遂には、民家の中の娘の人形に恋をするのだが…」
・「悪魔の種子」(「月刊ハロウィン」1989年10月号)
「瞳は柚木夫婦が施設からもらってきた養女。
彼女は天使のような可愛らしい女の子であった。
だが、母親は瞳が底知れぬ残虐性を秘めていることに気付く。
瞳は赤ん坊の頃、川の中に捨てられていたというのだが…」
・「十一月の四月馬鹿」(「月刊ハロウィン」1989年11月号)
「佼(さとし)と矗子(のぶこ)は新婚一年目。
だが、矗子は非の打ち所のない女性で、佼はそれ故に倦怠感を感じてしまう。
矗子はただ幸せになりたいだけであったが、最近、夫について良からぬ噂が耳に入る。
彼女は、夫が彼女と結婚したのは財産目的だったのでは?と疑惑にとり憑かれるようになり…」
・「クリスマス・イブ」(「月刊ハロウィン」1989年12月号)
「第1話」
ある屋敷に家族が集まり、パーティを楽しみにしているが、主人だけは浮かない顔。
彼には冬に嫌な思い出があった。
十年以上前、彼は雪山で遭難する。
気が付くと、山小屋に寝かされており、そばには「ゆき」という透き通るような肌をした娘がいた。
少しの間、厄介になるつもりだったが、いくら待っても、吹雪はやまない。
そのうちに、いろいろと疑問を抱くようになり、彼はゆきが人間でないと確信する。
彼女の留守の間に山小屋を出ると、背後からゆきがものすごい形相で追ってくる。
だが、どうにか彼は凍死寸前で麓の農家の人に助けられたのであった。
その話の後、次女の美季は皆の洋服から布を少しずつ切り取ってくる。
その布を、女中の洋子のつくった家族の粘土人形の服にするのだが…。
「第2話」
アリスとアルバートは恋人同士。
彼がロンドンの大学に入ってからは、二人はクリスマス休暇にしか会えない。
彼が大学を終える年のクリスマス、彼から届いたクリスマス・カードには彼女へのプロポーズが書かれいていた。
しかし、彼の乗った飛行機が墜落し、乗客は全員死亡。
それから、アリスは何度も一人だけのクリスマスを迎えるが、ある年、彼女にクリスマス・カードが届く…。
・「好敵手」(「月刊ハロウィン」1989年1月号・2月号)
「韻徹也(ひびき・てつや)と雲居俊介は子供時代から「宿命のライバル」であった。
お互い相手に負けないよう努力するが、勝負はいつも互角で、二人は相手への憎悪だけを募らせていく。
長じて二人は探偵小説家になる。
二人のデビューした年も一緒、人気もほぼ同じで、ライバル関係はいまだに続いていた。
雲居俊介は、徹也が探偵小説大賞を受賞したことに嫉妬し、その賞を狙うも、今年も徹也が受賞する。
その受賞記念パーティに何故か雲居の姿があり、編集者の宮川誠一や、徹也の付き人の稔が襲われる。
雲居俊介は韻徹也の命を狙っているようなのだが…」
どの作品も水準以上ですが、ここはまつざき先生には珍しいトラウマ・ホラー「蟻塚」が一押しでしょう。
蟻どころか、サルバドール・ダリの絵まで苦手になりそうなほどのインパクトです。
ラストは予想通り、「マタンゴ」でキメてくれます。
2023年6月3・6日 ページ作成・執筆