井出知香恵「薔薇結社」(1989年4月20日初版発行)

 収録作品
・「薔薇結社」
「PART.1 薔薇結社」  17歳の誕生日を迎えた加取渚。
 彼女の肉親は、国際線のスチュワーデスとして働く姉だけであった。
 最近、姉の様子がおかしく、何かに怯えているように見える。
 久々の再会も束の間、渚は、海辺で姉が、男を殺すのを目の当たりにする。
 そこに、男女二人が現れるが、姉は、妹を頼むと言い残して、姿を消す。
 この男女は、サキ・クロンショーと、真日人(渚の初恋の相手でもある)で、白薔薇団という組織に属していた。
 また、渚は、姉が黒薔薇団の一員だと初めて知らされる。
 そもそもの始まりは、三百年前のドイツで、ローゼンクロイツという超能力者が「薔薇結社」という秘密結社を作ったことによる。
 薔薇結社は病人の無料奉仕が目的であったが、ローゼンクロイツが106歳で死んだ後、白薔薇団と黒薔薇団に分裂。
 黒薔薇団は悪の組織と結びつき、白薔薇団は黒薔薇団の犯罪を阻止するために、戦い続ける。
 そして、二つの薔薇団の目的は、ローゼンクロイツの超能力が封じ込められたと伝えられるランプを入手することであった。
 渚は、サキと真日人に保護されるも、二人が恋人同士を知り、ショックで屋敷をとび出す。
 そこで、姉と再び会い、渚と姉は血がつながってないと教えられるのだが…。
「PART.2 幽霊学園」
 渚は、ミッション・スクールでロイドという青年と知り合う。
 彼はヨーロッパの小国の大使の息子で、彼の優しさに渚は心癒される。
 しかし、彼の正体は黒薔薇団のヨーロッパ支部の青年隊長であった。
 彼は、中世の魔女狩りの際に使われたマサンタという幻覚剤を生徒達や渚に飲ませる。
 異変を感じたサキと真日人が夜の学校に行くと、ロボット化した生徒達に襲われる。
 生徒達を操っているのは、音楽らしいのだが…。
「PART.3 カンタレラ」
 イタリアに来たサキ、真日人、渚の三人。
 目的は白薔薇団の仕事であったが、四日目、渚とサキは、真日人の助けを求める声をテレパシーで聞く。
 真日人は、ビアンカ・ボルジアの根城であるカタコンベに潜入中で、何か起こったらしい。
 ビアンカ・ボルジアは黒薔薇団の女生物学者で、カタコンベでの行方不明事件は彼女の仕業であった。
 サキと渚はカタコンベに降りるが、激流に襲われ、離れ離れになる。
 一人になった渚を助けてくれたのが、人体実験のモルモットにされ、カタコンベに隠れ住む人々であった。
 その中で、新妻を殺された日本人の青年は、彼女に協力し、二人でビアンカの研究室に忍び込むが…。
「PART.4 ジークフリードの城」
 渚に、彼女の出生の謎を解く機会が訪れ、ドイツへ飛ぶ。
 彼女の母親はエミ。
 彼女には、ラース・エレンバハの惨劇が絡んでいた。
 十八年前、ジークフリードのゆかりの地として知られるラース・エレンバハの村では、野外劇場で「ニーベルンゲンの指輪」を上映していた。
 そこに、甲冑で身を固めた騎士が現れ、村人達を大量虐殺し、生き残ったエミをさらっていく。
 エミはどこからか逃げて来て、その村に身を隠していた女性であった。
 その後、放浪のジプシーが妊婦となったエミを保護する。
 エミは狂乱しており、渚を産んだ後、息を引き取り、紆余曲折を経て、日本の加取家に養子となったのであった。
 渚は、母親の最期を看取ったジプシーに会いたいと願うが、彼らの行方はわからない。
 とりあえず、渚は、白薔薇結社の本部へ案内される。
 そこには、サキの父親で、白薔薇結社の王がおり、渚は彼と面会するのだが…。
「PART.5 燃えつきて…」
 ジークフリードの騎士こそが、黒薔薇団の王だと明らかになる。
 サキと真日人は黒薔薇団の本部に監禁され、サキは黒薔薇団の王に抱かれそうになるが、彼女には真日人との赤ん坊を身籠っていた。
 一方、自分の出生の秘密を知った渚が下した決断とは…?
(「月刊ハロウィン」1986年6月〜10月号)

・「呪文」(1986年「ハロウィン増刊 HALLOWEEN NIGHT」)
「知子は、夫が他の女と浮気していることを知っていた。
 過去、彼女は夫のために必死に働いたお陰で、夫は一流商社に就職し、生活は安定する。
 だが、彼女は子供が産めない身体となり、子供を欲しがる彼の心は彼女から離れてしまっていた。
 夜店で買った魔法書を参考に、彼女は、夫を取り戻せるよう、悪魔に祈るのだが…」

 井出知香恵先生がいつ頃からホラーにシフトしたのかはわかりませんが、「薔薇結社」はその中でも初期の作品ではないでしょうか?
 荒唐無稽と紙一重の壮大な設定を相変わらずの「ドラマティック」な展開で読ませます。
 また、「スキャナーズ」にインスパイアされたと思しき人体破壊描写やサイキック・バトルの描写もあり、その貪欲さにもプロ意識を感じます。
 絵柄に食指が動かない人もおられるでしょうが、「エンターテイメント」としてはいい出来だと個人的に思います。
 あと、短編「呪文」は優れた短編です。
 これにも、スプラッター・ブームの影響か、あまりに豪快な残酷描写が炸裂しております。(こういう情け容赦のないところが好きなんです!!)

2021年7月26・27日 ページ作成・執筆

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