諸星大二郎「栞と紙魚子と青い馬」
(1998年5月30日第1刷・1999年1月30日第4刷発行)
女子校生コンビの栞と紙魚子。
栞は新刊書店の娘で、紙魚子は古本屋、宇論堂の娘。
彼女達は毎回、おかしな事件に巻き込まれる…。
・「本を読む幽霊」(「ネムキ」1996年9月号)
「栞と紙魚子は鴻鳥友子の館に招待される。
鴻鳥友子は「蔦屋敷のお嬢さま」と呼ばれる、おっとりした娘であった。
友子によると、最近、夕食が終わった頃に幽霊が出ると言う。
その幽霊は鴻鳥和子という名の婦人で、数十年も前にこの屋敷に住んでいた。
彼女は美食家で、右手に包丁、左手に「陳氏菜経」という本を持っている。
「陳氏菜経」は明の時代の中国で書かれた料理の本で、紙魚子はその本が戦前の完全版かどうか気にかかっているようなのだが…」
・「青い馬」(「ネムキ」1996年11月号)
「深い霧の朝、栞はふらふらと胃の頭公園まで歩く。
すると、公園に青い馬が二頭おり、どこかに走り去る。
馬の後を追って歩いていると、見なれぬ商店街に迷い込む。
そこでは、野菜を積み上げている八百屋や深海魚を扱う魚屋と、おかしな店ばかり。
そぞろ歩いているうちに、栞は紙魚子とばったり出会う。
二人はもらった福引券で福引を引くと、四等の食事券を手に入れる。
ステーキハウス・ゴブリンという店で、二人はステーキを注文するのだが、店にはどんどんお客が入って来て、大騒動に…。
この商店街の秘密とは…?」
・「おじいちゃんと遊ぼう」(「ネムキ」1997年1月号)
「栞と紙魚子は、段一知先生の家に、新しい担当者を案内する。
すると、家の前に、先日なくなったガスタンクと、家とガスタンクの上には、これまた剥ぎ取られて消えたコンクリートの壁が渡してあった。
家の中に入ると、中の様子がだいぶ違っていて、家の中を土管や地下鉄が走っている。
段先生は、義父母(奥さんの両親)が来ているため、あちこちから空間を寄せ集めてきたと説明する。
クトルーちゃんはおじいちゃんに遊んでもらって、大はしゃぎだが…」
・「雪の日の同窓会」(「ネムキ」1997年3月号)
「記録的な大雪の日。
栞達は学校に来たものの、生徒の大半は休み、先生も来ていない。
休校かと思いきや、男子は雪かき、女子は調理実習と校内放送が流れる。
栞と紙魚子は家庭科室に行くが、先生はおらず、ゲテモノな材料ばかり。
学校から出ようとするも、奇怪な連中が学校にたむろして、学校から出られない。
学校には次々な妖異なもの達が集まり、あちらこちらで大騒ぎ。
彼らは同窓会に来たらしいのだが…」
・「足跡追って」(「ネムキ」1997年5月号)
「雨上がりの午後。
栞と紙魚子は、道で倒れている老人を見かける。
声をかけると、老人は、二人に彼の前の足跡を消える前に追うよう頼む。
その足跡は「アッチー」という伝説の中に生きる幻の生き物で、誰もその姿を見た者はいないという。
足跡は、公園、鴻鳥友子の屋敷、洞野達の映画撮影の現場を荒らしながら、続いていくのだが…」
・「黄昏の胃之頭公園」(「ネムキ」1997年7月号)
「栞の書店で段一知のサイン会をすることになり、栞は、紙魚子の共に、クトルーちゃんの面倒を見ることとなる。
二人がかりでもクトルーちゃんのパワーには勝てず、しまいには浮浪者達を巻き込み、てんやわんや。
日が暮れる頃、公園にベビーカーの女が現れる。
噂によると、このベビーカーには、その人にとって「すごく怖いもの」が乗っているというのだが…」
・「空き地の家」(「ネムキ」1997年9月号)
「ある日の下校時、通学路の近くにある空き地に家ができていた。
戸が開いており、覗くと、何故か中に入ってしまう。
中には何故か、その人がどうしても欲しいものがあり、何故か、無断で持ち帰ってしまう。
栞はぬいぐるみ、紙魚子はレア本、鴻鳥友子は人の片足、洞野達は映画撮影用の着ぐるみ…。
しかし、これらの品々にはある目的があり…」
・「頸山のお化け鳥居」(「ネムキ」1997年11月号)
「栞は、去年までクラスメートだった後藤ゆかりに頸山神社まで一緒に来てくれるよう頼まれる。
何やら、忘れ物をしたらしいが、一人で取りに行くには怖いと言う。
頸山神社は隣町にあり、小さな無人の神社だが、裏手の林の中に「お化け鳥居」があった。
お化け鳥居は石か何かでできているようで、幾つも連なっており、突き当りには大きな石がある。
このお化け鳥居には、鳥居の奥の石に向かって願をかけ、自分の誕生日の数だけ鳥居に触りながら出ると、願い事が叶うという噂があった。
本来は、願い事が叶った時には、鳥居を奉納するらしいが、石に、血を混ぜた絵具で鳥居の絵を描けば大丈夫と言われる。
ゆかりは鳥居の中に入らず、栞と紙魚子が中に入ると、ゆかりの言った13番目の鳥居に「たまごっち」があった。
それを手にして、ゆかりは明らかに怯える。
実は、先日、C組の女子生徒が塾帰りの夜道にお化けと出会い、たまごっちを奪われていた。
その夜、栞はゆかりから電話を受け、たまごっちを返しに神社へ行くのに付き添って欲しいと頼まれる。
一度は断ったものの、気になり、掛けなおすと、ゆかりは出かけた後だった。
栞と紙魚子も頸山神社に向かうのだが…」
・「ラビリンス」(「ネムキ」1998年1月号)
「胃の頭町外れにある寂れたアミューズメント・パーク。
巨大迷路が売りであったが、最近、新趣向を採り入れたと言うので、栞、紙魚子、早苗、マチコの四人は入ってみる。
中に入る時、ヒントを書いた紙をもらうが、全く意味がわからない。
迷路をさまよっているうち、早苗とマチコの姿が消える。
栞と紙魚子はゴールを出るが、早苗達は行方不明のままであった。
更に、迷路はまだ終わっておらず、栞の家は迷路になっていて、出入り口が突拍子もない場所につながっている。
どうやら、ヒントのカードに手掛かりがあるようなのだが…」
単行本の個人的ベストは、諸星流迷宮譚「ラビリンス」です。(ボルヘス「バベルの図書館」も出てきます。)
他の作品も相変わらず、ハチャメチャなストーリーでかっ飛ばしてくれますが、「頸山のお化け鳥居」は民俗学の要素のある伝奇ホラーで、意外と怖いです。
あと、名脇役、鴻鳥友子も登場して、嬉しい限りです。
2021年12月10・24・26日 ページ作成・執筆