諸星大二郎「栞と紙魚子 夜の魚」(2001年8月30日第1刷発行)

 女子校生コンビの栞と紙魚子。
 栞は新刊書店の娘で、紙魚子は古本屋、宇論堂の娘。
 彼女達は毎回、おかしな事件に巻き込まれる…。

・「雑貨の戦争」(「ネムキ」2000年1月号)
「栞は「ゴブリン」という輸入雑貨の店、紙魚子は「つくも堂」という骨董店で買い物をする。
 店を出た後、ばったり出会った二人は栞の家で、買ったものを見せ合う。
 栞は、大きな貝殻に貝のキーホルダー。
 紙魚子は、古そうな茶碗と皿、這子や福助の人形、ドクロの根付。
 すると、栞の買ったものと紙魚子の買ったものが互いに争い始め…」

・「迷惑な侵入者」(「ネムキ」2000年3月号)
「ある日、栞は庭の塀の上に「変な丸い顔の猫」を見かける。
 猫は庭に入ってきた後、姿を消すが、以来、栞は家の中で「変な丸い顔」を見かけるようになる。
 翌日、栞は紙魚子に事情を話し、家に来てもらう。
 「変な丸い顔」は家の至る所を侵食しており、それは栞達にも及んできて…」

・「本の魚」(「ネムキ」2000年5月号)
「宇論堂で紙魚子が店番をしていると、古紙回収の男性が四丁目の家で出た本を持ってくる。
 その中には、成人男性の背丈ほどもある、巨大な本があった。
 日本に一冊しかない珍しい本ということだが、中に書かれている文字は全くわからない。
 とりあえず、紙魚子は栞に電話して、本を見に来るように誘う。
 だが、二人とも本の中に呑み込まれ、妙チクリンな罠にさらされる。
 この本の正体とは…?」

・「古本地獄屋敷」(「ネムキ」2000年7月号)
「紙魚子の父親が行方不明になる。
 父と最後に会ったセドリ師の木田によると、どうも「地獄の古本屋敷」に本を探しに行ったらしい。
 栞と紙魚子がその場所に行くと、幾つも建て増ししたような、奇妙な家であった。
 中は、壁の両面を床から天井まで本でぎっしり。
 しかし、どれも古くて汚く、価値のないものばかりであった。
 奥に進むと、何人もの本マニアが、目当ての本を探索している。
 そのうちに、栞と紙魚子は迷ってしまい…」

・「見知らぬ街で」(「ネムキ」2000年9月号)
「気が付くと、栞は霧深い、見知らぬ街を歩いていた。
 弟の章がバットマン風の怪人に連れ去られ、彼女は彼を捜す。
 そのうちに、彼女は市長主催の晩餐会にまぎれこむ。
 晩餐会の料理に、巨大な卵が出る。
 卵を巡って、きとらと怪人猫マントが争い、晩餐会は大騒動。
 一方で、卵はどんどん巨大化し…」

・「顔・他」(「ネムキ」2000年11月号)
「顔(一)」
 台風で、大雨が降った時、ある男性が、股川上水の様子を見に行く。
 川を見ると、女性の顔が、会話をしながら、並んで流れてくる。
 男性は、助けようと、川にとび込むのだが…。
「忘れっぽい幽霊」
 早苗に頼まれ、栞と紙魚子は美樹のマンションを訪れる。
 美樹は二人に両親を紹介するが、実は父親は幽霊であった。
 彼はリストラが原因で自殺したのだが、死んだ時の記憶障害のため、自分が幽霊であることをよく忘れていて…。
「顔(二)」
 台風で、道路が冠水した日。
 ある女子生徒が下校途中、道路に四つん這いになっている女子生徒を目にする。
 その女子生徒は顔を水に付けているのだが…。
「立ち読み幽霊」
 宇論堂に「立ち読み幽霊」が現れる。
 これは男性の幽霊で、白昼堂々、店の中で延々と立ち読みをする。
 この幽霊にいつかれると、店の雰囲気がどうしても陰気になり、客足はさっぱり。
 紙魚子はどうにかして幽霊を追っ払おうとするのだが…。
「顔(三)」
 ある少女が塾から帰る途中、狭く暗い路地の方から人の声が聞こえてくる。
 少女が路地を覗くと…。

・「本の魚2」(「ネムキ」2001年1月号)
「紙魚子の父親がオークションで競り落とした本は海や魚に関する書籍であった。
 その中に稀覯本のル・コントス「直立魚類・上」があって、紙魚子は大喜び。
 この本を手に入れてから、店の本におかしなことが起きる。
 棚に置いていた本の文字がところどころ空白になるのであった。
 栞が店の本を開くと、中から小魚が現れ、空中を泳いでいく。
 更に、「図説・海の不思議な生き物たち(第五巻)」という本の中からウツボが現れ、「直立魚類」をくわえて、本の中に姿を消す。
 騒動の最中、宇論堂に電話がかかってくる。
 相手は「海洋堂」の主人で、先日、競り落とした本を譲ってほしいと頼まれる。
 あの本について知るため、二人は海洋堂を訪れるのだが…」

・「夜の魚」(「ネムキ」2001年3月号・5月号)
「井の頭町では頻発する怪事件。
 それは一夜のうちに、家ごと住人が消滅してしまうのであった。
 噂によると、夜、大きな魚が町を泳ぎ回っていて、行方不明者は魚に呑まれたと言われる。
 ある夜、栞は、噂の「夜の魚」を目撃する。
 その魚が通り抜けた家は、翌日、空き地になっていた。
 その空き地には黒い草がはえるが、しばらくすると、今度は空き地にいつの間にか新しい家が建っている。
 住人も戻ってきているが、「へろへろ」して、どうも様子がおかしい。
 実はそれらは偽物で、行方不明になった人々は顔以外は魚にされていた。(きとらは蟹(?)化。)
 栞や段先生の家も被害にあい、栞、紙魚子、段先生の三人は、きとらとマチ子(身体はお魚)の案内で、二人がいた「夜の海」に向かう…」

 「栞と紙魚子」第四弾は「魚」と「本」をテーマにした作品がメインです。
 中でも、「古本地獄屋敷」と中編「夜の魚」は傑作!!
 諸星大二郎先生は読書狂らしく、「古本地獄屋敷」に出てくる古本マニアはやけにリアルです。
 一方、「夜の魚」は前半が諸星版「ボディ・スナッチャー」で、後半は「魚人の国」での戦いとなります。
 「ボディ・スナッチャー」(注1)をもとにした作品は多々ありますが、こんなヘンテコリンなアレンジは諸星大二郎先生にしかできません。
 それでいて、こんなに面白いというのは、もう凄すぎる…。

・注1
 これを機に、フィリップ・カウフマン監督「ボディ・スナッチャー」(1978年)を観てみました。
 乗っ取られた人々よりも、ドナルド・サザーランドの顔の方が怖かった…。(白目がヤバい。)
 感心したのは二点で、まずは、植物に乗っ取られた人の本体がくしゃ〜と潰れるシーン。あ〜なっとんたんか!!と膝を打つ思いでした。
 もう一つは、人面犬のシーン。恐らく、これが後の「人面犬ブーム」のもとになったはず。
 ただ、異星人に人間と気づかれないようにするには、無表情を装う…という設定は、どうかと思ったぞ。

2022年8月22日/2023年1月26日・4月20日 ページ作成・執筆

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