伊藤潤二
「サイレンの村」(眠れぬ夜の奇妙な話コミックス/1993年5月30日第一刷発行)
「サイレンの村」(ハロウィン少女コミック館/1995年2月20日第一刷発行)
収録作品
・「サイレンの村」(「眠れぬ夜の奇妙な話」1990年Vol.1)
「京一は母からの手紙をもらい、生まれ故郷の僻村、白部村へ帰省する。
村に向かうバスで、彼は村長の娘の祥子と出会う。
彼女は東京で働いていたが、父親の体調が思わしくないため、仕事を辞めて帰って来た。
彼女は、彼女の父はもう村長でなく、魔術師の生まれ変わりだと吹聴していた変人の灰山という男が今は村長だと話す。
二人は白部村を訪れるが、村の様子は一変していた。
人の気配がなく、田畑は荒れ放題。通りすがる人も、京一の母も外見は以前と同じものの、どこかおかしい。
また、幼馴染の谷山ユカリに会おうとしても、彼女は二階の部屋に閉じこもったきりであった。
祥子の方も父は寝たきりに身になり、彼の親友の神父は行方不明、しかも、教会は焼け落ちていた。
そして、「工場」と言われるところには、奇妙な塔が聳え立っている。
日が暮れると、塔からサイレンが鳴るが、それは…」
・「煙草会」(「眠れぬ夜の奇妙な話」1991年Vol.2)
「ある高校。
近藤は、友人の白石から「煙草会」に誘われる。
「煙草会」とは、同学年の中谷が主催している会で、彼の家で煙草を吸うというものだった。
白石にせっつかれ、仕方なしに近藤は煙草会に参加するが、一口吸って「暗い味」を感じる。
中谷はこの煙草は自家製だと説明するが、この煙草は、火葬場の近くに繁茂している葉を摘み取って、作ったものであった。
「黒い味」のする、この煙草を吸うと、「目の前が真っ暗になる」というのだが…」
・「黴」(「眠れぬ夜の奇妙な話」1991年Vol.3)
「赤坂という若いサラリーマン男性が新居を立てたばかりなのに、アメリカ出張が決まってしまう。
しかも、弟を通して、家が火災に遭った呂木島夫という教師の一家が借家を申し出てくる。
この中学校教師は、カビの研究に熱心で、生徒からは「カビ」というあだ名がつけられており、赤坂は陰湿かつ卑屈な性格の呂木をとても嫌っていた。
しかし、頭を下げて頼まれたら、むげに断ることもいかず、弟の口添えもあり、とうとう了承する。
約一年後、自分の家に帰ってくるが、中はひどい有様。
しかも、文句を言おうにも、呂木一家の消息は不明であった。
とりあえず、簡単に掃除して住むことにするが、徐々に家全体がカビに蝕まれていく…」
傑作ですが、非常に不快な描写満載なので、手放しでお勧めできないのが、残念です。
ラストの○○屋敷の描写は、シュールレアリスム絵画を見ているようです。
・「記憶」(「眠れぬ夜の奇妙な話」1993年Vol.11)
「里恵は非常に美しい娘。恋人にも恵まれ、幸せの最中(さなか)。
しかし、彼女には拭い切れない不安が一つあった。
彼女には七歳から十四歳までの記憶がなく、当時の唯一の記憶らしきものは、母親の側でひどく醜い娘が鏡台に向かって座っているというものであった。
彼女は、過去、自分の顔が醜かったのではないかと思い悩む。
両親に聞いても、理奈が醜かったことはないと断言し、醜い娘については知らぬ存ぜぬの一点張り。
しかし、理奈は、両親の寝室のタンスから、記憶にある醜い娘の写真を見つけてしまい…」
・「道のない街」(「眠れぬ夜の奇妙な話」1992年Vol.6)
「彩子はこのところ、クラスの男子生徒、岸本の夢をよく見て、どうも岸本に好意を抱いたように思う。
友人に相談すると、それは「アリストテレス」ではないかと言う。
「アリストテレス」とは好きな人を自分に振り向かせるための方法で、夜、好きな人の寝室に忍び込み、耳元でずっと話を囁くらしい。
その夜、彩子は岸本を夢に見るが、彼女は彼に痴漢まがいのことをこそこそせずに、堂々と告白して欲しいと告げる。
岸本は反省し、そうすることを約束したところに、奇妙な男が現われ、岸本を惨殺。
翌朝、岸本の惨殺死体が近くの路上で発見される。
この事件から数か月後、彩子は家にいづらくなっていた。
と言うのも、家族が覗き魔になり、彼女の部屋をあらゆる手段を駆使して覗き見しようとするからである。
友人宅を回って泊まるのも限界で、彼女は玉枝叔母のもとに置いてもらおうと考える。
だが、叔母の住む小里町は違法建築の嵐で、迷路になっていた。
とりあえず、彩子は町の奥にある叔母宅を目指すのだが…」
隙のない構成を誇る伊藤潤二先生には珍しく、分裂的な作品です。面白いことは面白いのですが、ワケわかりません。
思いつき一発で描かれたような感じが逆に新鮮です。(練って描かれたのであれば、失礼千万な意見ですが…。)
「眠れぬ夜の奇妙な話コミックス」と「ハロウィン少女コミック館」の二種類出ておりますが、内容は一緒だと思います。
個人的には「眠れぬ夜の〜」の方がA5判のため、読みやすくていいと思います。(老眼に優しくて助かります。)
2015年2月7日 ページ作成・執筆
2024年3月30日 加筆訂正