伊藤潤二「サイレンの村」(1995年2月20日第一刷発行)

 収録作品

・「サイレンの村」(「眠れぬ夜の奇妙な話」1990年Vol.1)
「母からの手紙をもらい、生まれ故郷の僻村、白部村へ一度帰ってみることにした京一。
 村に向かうバスで、村長の娘の祥子と出会う。彼女は、父親の体調が思わしくないので、様子を見るために帰って来たのだと言う。
 しかも、彼女の話では、村長はもう彼女の父ではなく、魔術師の生まれ変わりだと吹聴していた変人の灰山という男とのこと。
 二人は白部村を訪れるが、村の様子は一変していた。
 人の気配がなく、田畑は荒れ放題。通りすがる人も、彼の母も外見は以前と同じものの、どこかおかしい。
 幼馴染のユカリに会おうとしても、彼女は二階の部屋に閉じこもったきり。
 教会は焼け落ち、神父は行方不明。村長も寝たきりの身となっていた。
 そして、「工場」と言われるところには、奇妙な塔が聳え立っていた。
 日が暮れると、塔からサイレンが鳴るが、それは…」

・「煙草会」(「眠れぬ夜の奇妙な話」1991年Vol.2)
「ある高校。
 近藤は、友人の白石から「煙草会」に誘われる。
「煙草会」とは、同学年の中谷が主催している会で、彼の家で煙草を吸うというものだった。
 白石にせっつかれ、仕方なしに近藤は煙草会に参加するが、嫌な味の煙草だった。
 中谷はこの煙草は自家製だと説明する。
 この煙草は、火葬場の近くに繁茂している葉を摘み取って、つくったものなのだ。
 そして、この煙草を吸うと、「目の前が真っ暗になる」…まさに「黒い味」…。」

・「黴」(「眠れぬ夜の奇妙な話」1991年Vol.3)
「新居を立てたばかりなのに、アメリカ出張が決まった青年。
 しかも、弟を通して、家が火災に遭った呂木島夫という教師の一家が借家を申し出てくる。
 この中学校教師は、カビの研究に熱心で、生徒からは「カビ」というあだ名がつけられていた。青年は、陰湿かつ卑屈な性格の呂木を非常に嫌っていた。
 が、頭を下げて頼まれたら、むげに断ることもいかず、弟の口添えもあり、とうとう了承する。
 約一年経って、自分の家に帰ってくるが、中はひどい有様。
 とりあえず、住むことにするが、徐々に家全体が何かに蝕まれていく…」
 傑作ですが、非常に不快な描写満載なので、手放しでお勧めできないのが、残念です。
 ラストの○○屋敷の描写は、シュールレアリスム絵画を見ているようです。

・「記憶」(「眠れぬ夜の奇妙な話」1993年Vol.11)
「里恵は非常に美しい娘。恋人にも恵まれ、幸せの最中(さなか)。
 しかし、彼女には拭い切れない不安が一つあった。
 彼女には七歳から十四歳までの記憶がなく、当時の唯一の記憶らしきものは、母親の側でひどく醜い娘が鏡台に向かって座っているというもの。
 彼女は、過去では、自分の顔が醜いものだったのではないかと思い悩む。
 両親に聞いても、理奈が醜かったことはないし、醜い娘についても知らぬ存ぜぬの一点張り。
 しかし、理奈は、両親の寝室のタンスから、醜い娘の写真を見つける…」

・「道のない街」(「眠れぬ夜の奇妙な話」1992年Vol.6)
「彩子はこのところ、クラスの男子生徒、岸本の夢をよく見る。どうも岸本に好意を抱いたように思う。
 友人に相談すると、それは「アリストテレス」ではないかと言う。
 それは、好きな人を自分に振り向かせるための方法で、夜、好きな人の寝室に忍び込み、耳元でずっと話を囁くらしい。
 その夜、彩子は岸本を夢に見るが、彼女は彼に痴漢まがいのことをこそこそせずに、堂々と告白して欲しいと告げる。
 岸本は反省し、そうすることを約束したところに、奇妙な男が現われ、岸本を惨殺。
 翌朝、岸本の惨殺死体が近くの路上で発見される。
 この事件を発端として、彩子の身の回りでは、奇妙な事件が続発する…」
 隙のない構成を誇る伊藤潤二先生には珍しく、分裂的な作品です。面白いことは面白いのですが、ワケわかりません。
 思いつき一発で描かれたような感じが逆に新鮮です。(練って描かれたのであれば、失礼千万な意見ですが…。)

平成27年2月7日 ページ作成・執筆

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