山岸凉子「天人唐草」
(1980年7月25日初版・1985年1月22日第19刷発行)

 収録作品

・「天人唐草」(1979年「週刊少女コミック」2号掲載)
「岡村響子の父親は、旧家出身で、戦後も封建的な考えであった。
 響子は、父親の時代遅れな女性像に縛り付けられ、委縮していく一方で、権威ある父親像を心の拠り所とする。
 成人し、仕事に就くようになっても、彼女は自分自身を確立できず、他人の反応に振り回されてばかり。
 母親が亡くなり、見合いもうまくいかず、彼女にとって「拠り所」であった父親が亡くなった時…」

・「キルケ―(魔女)」(1979年「プチコミック」2月号掲載)
「山にハイキングに来て、最終バスを逃してしまった、五人の少年少女(広、隆、進、奈津子、道子(隆の妹)/小学四年生の道子以外は中学三年生)。
 仕方なく、彼らは道路を下るが、同じ所をぐるぐると回っていることに気付く。
 日は暮れ、野宿しようと相談していると、森の中に明かりが見える。
 そこは大きな洋館で、着物姿の女性が住んでいた。(着物の柄は、蜘蛛の巣。)
 彼女の夫は動物学者らしく、館には犬や猫、馬等、様々な動物が飼われていた。
 彼らは一晩、館に泊まることになるが、翌朝、奈津美は自分以外の連れが姿を消していることに気付く。
 彼女の前には、子猫や犬、オウム、蛙が現れるのだが…」

・「夏の寓話」(1976年「月刊セブンティーン」8月号掲載)
「大学生の澄生は、旅行中の祖父の留守番をするため、夏真っ盛りのH市(広島市)を訪れる。
 ある日の昼、彼がジュースを買いに出た時、公園の木陰で一人、たたずむ少女を目にする。
 少女は、他の子供達が遊ぶのを、寂しげに見つめてはいるが、決して交わることはない。
 何度か見かけるうちに、気になり、彼は少女に声をかける。
 少女は極端に口数が少なく、名前も住所もはっきりとわからないまま、交流を重ねる。
 彼が町を去る前日の夜、彼は、少女と花火をするのだが…」

・「悪夢」(1980年「月刊マンガ少年」5月号掲載)
「メイは21歳の娘さん。
 母親と家で暮らして、ラドというボーイフレンドも、女友達もいる。
 彼女は何故か、奇妙な夢に悩まされる。
 夢の中で、彼女は十歳ぐらいの少女で、法廷に立たされていた。
 更に、夢を見る度に、彼女は成長していき、様々な施設を転々とする。
 夢が日常を侵食していった果てに、明らかになる真実とは…?」

 2021年度の第一弾は、山岸凉子先生の名作中の名作「天人唐草」。
 人によっては、年明け早々コレかよ〜…って感じでしょうが、かまへん、オレが許す!!(by 梶原一騎)
 というワケで、今年もよろしくお願いいたします。

 「天人唐草」は、ホラーでないのに、ホラー扱いされている稀有な作品。(注1)
 「イヤなリアリティー」満載のストーリーだけでも耐えがたいのに、脳天逆落としなラストがあまりに衝撃的。
 高校の時、読んで衝撃を受けて以来、決して手に触れようとしなかったのですが、この文章を書くために、二十数年ぶりに読み返しました。(山岸作品、そんなのばっかり。)
 作者の人間を見る眼の鋭さ…と言うより、シビアさが肌にチリチリときます。
 「キルケ―(魔女)」は、山岸版「蛇女」で、この単行本の中で最もホラー。
 倒錯的な雰囲気が濃いところが実に山岸・印。
 これはよくよく考えると、メチャクチャ怖い作品だなあ〜。
 「夏の寓話」は、ナジム・ヒクメット「死んだ女の子」(注2)にインスパイアされて、描かれた作品のようです。
 「悪夢」は、1968年に11歳という年齢で少年を二人殺したメアリ―・ベル(注3)を主人公に据えた作品。
 現実と夢の境目が曖昧となって、双方を行き来する作品は多々ありますが、それにヒロインの精神的退行をうまく絡ませたところがミソで、実に分裂的な内容になっております。
 ただ、現実には、一生、刑務所で過ごしたわけでなく、1980年に釈放され、結婚までしておりました。事実は小説より奇なり!!

 「天人唐草」は、いつか書こう、書こうと思いつつ、年始の時間を利用して、ようやく書けました。
 荷物を一つ降ろした感じですが、山岸凉子作品、まだまだ先は長いです…。(明日も頑張ろう。)

・注1
 他に思いつくものは、辰巳ヨシヒロ先生「人喰魚」の単行本。
 過去の、怪奇マンガ関連の掲示板で、この作品に言及している人がいて、驚かされました。

・注2
 「原爆詩一八一人集」(コールサック社/2007年8月6日発行)にも、この詩が載っておりますが、若干の差異があります。(「夏の寓話」の訳詞では少女は六歳ですが、「原爆詩〜」の方では七歳、等)
 この詩は、チャイルド・バラッドの「グレイト・シルキー」をあてはめ、ピート・シーガーにより歌われてきたそうです。
 The Bryds の傑作サード・アルバム「霧の五次元(Fifth Dimension)」(1966年)にも採り上げられております。

・注3
 メアリー・ベル事件についてお知りになりたい方は、「マジソンズ博覧会」→「殺人博物館」→「子供による殺人」内の記事がお勧めです。

2021年1月1日 ページ作成・執筆
2023年1月14日 加筆訂正

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