伊藤潤二「トンネル奇譚」(1997年11月20日第1刷発行)

 収録作品

・「長い夢」
「暁総合病院の脳神経外科病棟。
 黒田という医師の患者に向田哲郎という若い男性がいた。
 彼は一月前から夢が長くなっていると相談する。
 最初は一晩の夢がニ三日に感じられた程度であったが、今では夢の長さが一年もの長さになっていた。
 そのため、前日の記憶が曖昧になり、日常生活に支障を来すまでになる。
 ある夜、黒田は睡眠中の向田の様子を観察する。
 一瞬、全身の痙攣と激しい眼球運動が起こるが、その瞬間に、あの長い夢を見ているらしい。
 向田の夢は加速度的に長くなり、それは態度の変化だけでなく、外見の変化までももたらし…」

・「トンネル奇譚」
「ある田舎町。
 町の外れに「魔の山」と呼ばれる山があり、そこには機関車用のトンネルが通っていた。
 このトンネルは昔から事故が多く、、五郎の母親もまた、彼が幼い時、ふらふらとトンネルに入って轢死する。
 数年後、小学生になった五郎は友人達とそのトンネルを訪れる。
 奥に向かうと、何故か彼の妹のマリがいた。
 理由を聞くと、知らないうちに来たと泣きながら話す。
 その翌日、学校を休んでいたマリが家から姿を消す。
 父親が捜しに行くも、二時間経っても帰って来ず、五郎も捜しに出る。
 父親とマリの足跡が雪に残っており、それを辿ると、トンネルの中に続いていた。
 五郎がトンネルの奥に進むと、東都大学理学部宇宙線研究所というものがある。
 そこには年配の教授とその助手の石倉と小山の三人がおり、マリが保護されていた。
 だが、父親の姿はなく、彼は以来、行方不明となる。
 その後もマリは何度もトンネルに入って行き、また、宇宙線研究所の方では機器の異常と身体のダルさに悩まされていた。
 ある日、助手の石倉がここで撮った記念写真を持って駆けつける。
 写真に写っていたものとは…?
 このことで宇宙線観測所は閉鎖され、五郎とマリは伯母のもとに預けられることとなるのだが…」

・「銅像」
「青銅町中央公園にある園田前市長とその妻の銅像。
 この銅像は天才的彫刻家&鋳物師である土谷の手によるものであった。
 妻の銅像は若く美しい女性であったが、実物は醜く年老いた婆あで、公園に集まる奥様方の嘲笑の的となる。
 だが、この銅像には盗聴器と隠しカメラが仕掛けられていた。
 前市長の妻は陰口を言った女性達をパーティに呼び、睡眠薬で眠らせた後、土谷の工房で石膏漬けにして殺害。
 死体は窯で石膏ごと焼き、証拠の石膏も破壊し、これで一安心かと思いきや、園田前市長の銅像が彼女の犯罪を暴き立てる。
 実は、前市長は妻に殺され、自宅の池に沈められていた。
 妻は前市長の死体を処分すれば、銅像は黙ると考えるのだが…」

・「浮遊物」
「空中を浮遊する真っ黒な毛玉。
 これを刺激すると、いろいろと喋り出すが、それはこの毛玉を吐き出した本人の「本音」であった。
 ことの始まりは雅男と青年で、彼の自殺後まもなくして、様々な人の毛玉が町を浮遊し始める。
 この騒動の最中、和也という青年は毛玉狩りに血道を上げる。
 毛玉騒動の行く末は…?」

・「白砂村血譚」
「車も通わぬ山奥にある白砂村。
 晩秋、村の診療所に古畑という若い医師が赴任してくる。
 まず、彼が気づいたことは、村人達が皆、青白く、病的なことであった。
 カルテを見ると、村人は皆、AB型で、看護婦によれば、血族結婚が繰り返されたせいではないかとのこと。
 しかも、村には体中から突然出血するという謎の病気があった。
 古畑は砂神リヨに協力してもらい、彼女の血を大学に送る。
 以来、彼女は毎日、診療所を訪れるが、最初は青白かったのに、今は生気に溢れていた。
 彼女はこの村の人は元気になったら、また出血して、青白くなるのを繰り返すと話す。
 この村の秘密とは…?」

 「ネムキ」1月号(Vol.35)〜9月号(Vol.39)に掲載された「シリーズ潤二の絶叫コミックス」をまとめた単行本です。
 個人的には、「トンネル奇譚」と「白砂村血譚」が双璧。
 どちらがより好みか問われると、悩んでしまいますが、禍々しさの点で鼻差で「トンネル奇譚」でしょうか。
 まあ、私の感想など、ごちゃごちゃ言っても始まりません。
 傑作揃いですので、未読の方は四の五の言わずに読んでください!!
 また、読んだことのある方も秋の夜長にたまには単行本を取り出してみて、溜息をつきましょう。

2023年9月23日 ページ作成・執筆

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