青池保子「死の谷」(1983年11月30日初版刷発行)

 収録作品

・「ドラキュラ館は大騒動!」(1975年「週刊少女フレンド」掲載)
「ロンドン郊外にあるオールマン大学。
 男ばかりの大学に飽き飽きして、女好きのマッチョマン、ジョン=ロード=ジュニアと、ニンニク好きの美青年、クレイグ=フロストは、女を求めて、大学を脱け出す。
 彼らが森をさまよっていると、そこに可憐な娘が一人おり、彼らは彼女の後をつける。
 娘が向かったのは、ディオンヌ尼僧院で、彼らも女装して、尼僧院に潜入。
 娘の名はアンジー=アンジー=ウォーホルで、婚約者に捨てられ、男性不信になっていた。
 尼僧院にはディオンヌという妖艶な美女が院長をしており、尼僧達はジョン達に興味津々。
 というのも、尼僧院は吸血鬼の巣窟であった。
 ジョン、クレイグ、アンジーの運命や如何に…?」

・「混戦!オールマン大学」(1976年「増刊少女フレンド」掲載)
「男ばかりのオールマン大学。
 敷地内で、ジョンとクレイグは飛行する「お釜」を目撃する。
 お釜UFOは馬術用グランドで消え、そこにいた馬はホモとなり、クレイグに好意を寄せる。
 また、馬だけでなく、様々な動物がホモとなり、クレイグに付きまとうようになる。
 一方、ジョンが学長を脅迫して呼び寄せた、音楽の女教師、ブリュンヒルデ=ワーグナーは破壊力抜群の怪女。
 そんなこんなで学園は大騒動に…」

・「恋の不時着」(1974年「増刊少女フレンド」掲載)
「ビクトリア姫(ビッキー)は、南太平洋の小さな島国、サザンクロス王国の姫君。
 親善訪問の後、ニューヨークに向かう途中、国王が腹痛を起こし、キャベツ畑へと不時着をする。
 そこには、男だけの家族、ペッパー家がいた。
 ペッパー家の長男で獣医のジョイフル=ペッパーの治療で国王は回復し、また出発するが、どさくさに紛れて、ビッキーは飛行機を脱け出す。
 彼女はペッパー家に厄介になるも、世間知らずのお嬢さま故、失敗ばかり。
 カンカンなジョイフルに対し、彼の弟達は彼女に親しみを持つ。
 そのうちに、ジョイフルも彼女の天真爛漫さや優しさに惹かれるようになり…」

・「さよならジュリアン」(1972年「週刊少女フレンド」掲載)
「雪の中を裸足で歩いている娘。
 デイモンは彼女を保護するが、彼女は記憶喪失にかかっていた。
 彼女の名はレナ=ルーディ、そして、抱いていた猫の名はジュリアン。
 ジュリアンは、デイモンの資産家のおじ、リード氏と同じ名前であった。
 おじのジュリアンはデイモンに対して惜しみない援助をしてくれたが、デイモンは自分の力で生きる決心を固め、おじから離れようとしていた。
 デイモンはレナを自分のアパートにおき、彼女を徐々に愛するようになるのだが…。
 レナの失われた過去とは…?」

・「呪われた谷」(1975年「週刊少女フレンド」掲載)
「アナベラは、ロータス家の御曹司、ギルバートと新婚旅行中、テーベで彼が行方不明となる。
 ギルバートは考古学者でもあり、アクミームの谷にタルカス三世の墓が見つかったと二人の土地の男に言われ、そこに向かったきり、消息を絶ったのであった。
 ギルバートのおじが、姪のミカエラと共に、アナベラのもとに駆け付ける。
 おじによると、タルカス三世の墓の呪いは有名で、アラブ人の血が流れ、霊能力を持つらしいミカエラも不吉な言葉を口にする。
 三人は、ギルバートを捜しに、タルカス三世の墓を訪れる。
 タルカス三世は、妻のメリトアテンに命と王座を奪われ、ピラミッド内部の壁に埋め込められていた。
 ミカエラはアナベラに、彼女はメリトアテンにそっくりだと告げる。
 以来、彼女は「夫を殺した」という声に悩まされるようになる…」

・「死の谷」(1964年「週刊少女フレンド」掲載)
「ある山の麓の町を訪れた、エルンスト・クネフとルートの兄妹。
 目的はエルンストの療養であったが、彼は肺病で先のない身であった。
 この地には「死の山」と呼ばれる山があり、エルンストはその麓に行ってみる。
 すると、真っ白い葉をつけた木の下、黒いマントを着た、不思議な娘がいた。
 彼女は彼の名前を知っており、もうすぐ「白い木の葉の冠」を持って、彼を迎えに行くと告げる。
 その後、彼は町でマリアンネ=シュタイナーという少女と出会い、恋に落ちる。
 彼は彼女と過ごす時間を楽しむが、病状は急激に悪化。
 そして、あの娘が冠を持って彼の前に現れる時…」

 歴史的名作「死の谷」を中心に、怪奇色・サスペンス色が強い作品を集めた単行本です。(前半の三作はギャグで、後半の三作はシリアスです。)
 「死の谷」は作者が高校二年生の時に描かれた作品らしいのですが、今読んでも、完成度は高く、作者の「天才」にただただ感嘆です。(注1)
 ですが、この単行本の目玉は「呪われた谷」!!
 これは、エジプト王家の呪いをテーマにした、隠れた大傑作です!!
 あまり書くと、ネタばれになるので、遠慮しておきますが、興味を持たれた方は読んで、損はありません。
 青池保子先生の作品には詳しくはありませんが、「エロイカ」等の面長の主人公が出ている作品よりも、少女マンガ風の作品の方が好みであります。

・注1
 「死の谷」は、文藝春秋・編「少女マンガ大全集」(文春文庫ビジュアル版/1988年9月10日初版)にも収録されております。
 巻末の「作家の横顔」には、「死の谷」が描かれた当時の事に触れており、非常に参考になります。

・注2
 「呪われた谷」は、「このマンガがすごい!」編集部・編「大人の少女マンガ手帖 オカルト・怪奇ロマン」(宝島社/2016年7月6日第1刷発行)にて知りました。
 この本は非常に資料性が高く、1970〜1980年代の少女怪奇マンガを知るうえで最適な一冊だと考えております。
 欲を言えば、もう少しボリュームが欲しかったことと、松本洋子先生・成毛厚子先生・柿崎普美先生といった、当時、活躍された方々を掘り下げてほしかったものです。

2020年12月24日 ページ作成・執筆

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