山岸凉子「汐の声」(1992年4月20日初版発行)
収録作品
・「汐の声」(1982年「プチコミック」11月・12月号掲載)
「テレビ局の「幽霊屋敷探訪」の企画。
撮影場所として選ばれたのは、F県F市の郊外にある果無館であった。
17歳の霊感少女、佐和は、八方見の山口舎利、易の南北月女と共に、霊能者として撮影に参加することとなる。
佐和はインチキ霊能者扱いされて、自身もそのことを自覚していた。
だが、両親には逆らえず、嫌だ嫌だと思いながらも、取材に同行する。
この果無館は銀行の副頭取の別荘であったが、その後、入居した人物が二人亡くなり、以来、無人のままであった。
佐和は何故だか、この館が怖くて仕方がない。
彼女は度々奇怪な現象に見舞われるが、スタッフ達からは彼女の勘違いと扱われ、バカにされるばかり。
孤立を深める彼女の前に現れる少女の正体とは…?」
・「あやかしの館」(1981年「プチコミック」6月号掲載)
「東京の大学に通うため、叔母の建てた洋館に住み込むことになった葵。
叔母の由布子(ゆうこ)は独身のイラストレーターであったが、もろ少女趣味の天然おばはん。
だが、住み始めてから、館ではおかしなことばかり。
頻繁に壊れる電化製品、館の中を徘徊する人の気配、鍵がかかっているのに玄関の扉を開閉する音…。
ある夜、玄関の扉の音を確かめるために、葵が覗き穴から外の様子を確かめると…」
・「化野(あだしの)の…」(1982年「プチコミック」1号掲載)
「夕暮れ、一人の女性が家路を目指して歩く。
だが、町は見知らぬ場所で、どこに向かえばいいのか、わからない。
それ以前に、彼女は家がどこにあるのかが、はっきり思い出せない。
とにかく、知っている所に出ようと、繁華街を探す途中、彼女は様々な人物に出会う。
しかし、彼女達が話すことは意味不明な事ばかり。
いつの間にか迷い込んだ原っぱで、彼女は年配のモンペ服の女性と出会うのだが…」
・「蛇比礼(へみのひれ)」(1985年「ぶーけ」9月号掲載)
「ブティックのオーナーの女性のもとに、八年前に妹が産んだ女の子、相馬虹子がやって来る。
北海道へ開拓団として入植した妹は分娩後、亡くなり、父親は産まれたばかりの赤ん坊と共に失踪。
赤ん坊は死んだものと思われていたが、父親の死後、虹子を引き取ってほしいと役所から通知が来たのであった。
虹子は八歳の少女には似つかぬ色気を持ち、そこの一人息子、達也は彼女が気になって仕方がない。
そして、切れ長の一重の目、赤い口唇、白く細い喉…彼女の全てが彼の強迫観念となり、彼の存在を飲み込んでいく…」
多くの方がいろんな所で書かれておりますが、「汐の声」は史上最恐の怪奇マンガの一つであります。
私もこのマンガが昔からダメで、この文章を書くために読みなおした際も、夜間だけは避けました。
個人的に、シャーリィ・ジャクソン「丘の屋敷」、もしくは、その映画版「たたり」(ロバート・ワイズ監督)にインスパイアされたのでは?と考えておりますが、「汐の声」は「禍々しさ」において遥かに凌駕しております。
また、細部を読み込めば読み込むほど、怖さが増すというのも凄過ぎます。
他の作品も皆、理屈抜きで背筋が寒くなるようなものばかりで、「気味の悪さ」に関しては他の追随を許さない、名品揃いです。(でも、人に勧める気にはなれない…。)
中でも、山岸凉子版「蛇少女」(と言っていいものか…?)の「蛇比礼」はズバ抜けたヤバさです。
山岸先生の描く、マゾヒスティックな若い男は天下一品だなあ〜。
2019年4月18・19日 ページ作成・執筆