川口まどか「海の砂漠」(2000年4月1日初版第1刷発行)

 収録作品

・「海の砂漠」(1999年「月刊ホラーM」12月号掲載)
「南海の孤島にあるジェシカ・バークレー海洋研究所…別の名を「彼女の牢獄」。
 ジェシカ・バークレーは世界でもトップクラスの海洋生物学者であったが、浮気性の夫と別れたことと子供時代の家庭環境のトラウマのため、性格に非常に難があった。
 彼女は人を人とも思わず、特に、実の娘のリナノを容赦なく虐待する。
 研究所には高津唐次とケーシー・ゾーンという二人の博士がいたが、二人とも、自分の将来を優先し、ジェシカを止めようとはしない。
 ある日、リナノは鮫用の餌を船で獲りに行くが、彼女は船で気絶した状態で発見される。
 ジェシカは船を研究所に曳いて、網を上げると、その中に人間の青年がいた。
 長い黒髪の青年は見かけは人間だが、水中の中で自由に行動し、ジェシカの鮫が襲いかかっても、逆に喰い殺してしまう。
 ジェシカはこの新発見に大興奮するが、精密機械が異常を来し、ケーシーは感電死する。
 更に、研究所を嵐が襲い、彼らは孤立する。
 嵐の間、ジェシカと高津はこの「人魚男」について調べるが、精密機器が使えないために、思うようにはかどらない。
 嵐は続き、人魚男の食糧が問題になっていく。
 捕獲から二十日後、リナノはミスをして、最後の一匹の鮫を死なしてしまう。
 彼女は母親に折檻され、翌日、嵐がやまなければ、人魚男の餌にされることになるが…」

・「海の響き」(2000年「月刊ホラーM」2月号掲載)
「ルドガー・ハウエルは名家の御曹司。
 社長令嬢との婚約も決まり、前途洋々であったが、ある日、突然、警察に逮捕される。
 容疑は経理課のベリンダ・ノートン殺し。
 彼は無罪を主張するも、状況は圧倒的に彼に不利であった。
 ある夜、留置所のビルの窓を壊し、何ものかが侵入してくる。
 それはラミという少女であったが、人間離れした身体能力を持っていた。
 彼女は「人魚」で、海の底に住んでいたが、彼の感情が流れ込んできたので、調べに来たと話す。
 ラミは西へ1000キロのシカズに真犯人がいると話し、二人はそこを目指す。
 道中、ルドガーはラミと接することにより、心の拘りを一つまた一つと解いていくのだが…」

「人魚」を扱っておりますが、一般的なイメージのものとは違い、川口まどか先生によるオリジナルです。
 超人的な能力を持った、テレパシーで通じ合う(一応は)平和的な種族として描かれており、孤独な人間と触れ合い、孤独を癒すことにストーリーの重点を置いております。
 また、極限状況における描写も実に冴えていて、サスペンスとしてもなかなかの出来です。
 川口まどか先生の作品は実に独特で、好みが分かれるとは思いますが、読む価値はあると思います。

2023年5月18〜20日 ページ作成・執筆

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