犬木加奈子「ゴキブリの家」(1994年8月1日第1刷発行)

 収録作品

・「暗闇の女たち」(1990年「ナイトメア」)
「1号室 料理好きの女」
 まめで料理は得意だが、地味で面白味のない女性。
 夫は外に女を作っているようだが、それでも、彼女は夫のために、手の込んだ家庭料理を作り続ける。
 そんな彼女は、友人に頼んで、田舎から定期的に届けてもらう「もの」があった…。
「2号室 ゴミ置き場の女たち」
 団地のゴミ置き場は主婦達にとって恰好の井戸端会議所。
 ある日、ゴミの収集日でもないのに、ゴミが捨ててある。
 来週、ゴミ当番の主婦がそれを預かり、持ち主を特定するために、ゴミ袋の中身を検める(あらた・める)。
 ゴミからは、自分の家庭よりもいい暮しが想像され、主婦は嫉妬に狂うのだが…。
「3号室 117の女」
 三井ミサ子は、ある男性と愛人関係にあった。
 独り淋しい夜には、電話の時報を聞いて、寂しさを紛らわす。
 最近、隣部屋に女性が越してくるが、以来、奇怪なことがミサ子に起きる。
 ミサ子は管理人に相談するのだが…。

・「ゴキブリの家」(1990年「ミステリーラビアン」)
「美しく着飾り、売れっ子ピアノ教師として活躍する、いわばカリスマ主婦の香山ユリ子。
 夫はK商事のエリートで、他の主婦の羨望の的であった。
 だが、実際は、夫はエリートコースから転落組で、彼女はうわべばかり飾るのに精いっぱい。
 それを端的に表すのが、ゴミだらけの台所であった。
 そこからはユリ子の大嫌いなゴキブリがいくらでもわき出てくる…」

・「顔のない女」(1992年「ナイトメア」)
「子供のない若夫婦ばかりが集まった集合住宅。
 ある主婦は、いつの間にか隣に見知らぬ女性が越していることに気付く。
 その女性は、陰気臭く、顔に特徴が見出せない。
 ある日、その女性が主婦に話しかけてきて、共に買い物に行く。
 それをきっかけに、女性は主婦の部屋に理由をつけては上がり込むようになる。
 女性は主婦のことを根掘り葉掘り聞いたり、部屋を舐めるように見つめる。
 彼女の思惑とは…?」

・「樹海奇譚」(1991年「ACラビアン」)
「ドジで、全く冴えず、皆の笑い者になっている弱木。
 趣味を持とうと、カメラを始めてみたものの、樹海で迷子になる破目に陥る。
 途方に暮れ、投げやりになった時、彼は女性の自殺体を発見する。
 女性は死後さほど時間は経ってなく、死に顔は非常に美しかった。
 弱木はわけのわからぬ衝動に駆られ、女性を写真に撮り、その裸体をもフィルムに収める。
 遂には、死姦まで犯した時、死体が微笑み、「ふたりだけの秘密」と囁かれたように弱木は思う。
 彼は、月明かりのおかげで道に出て、命拾いするが、フィルムの中の女性をもう一度、目にしたい誘惑に駆られる。
 とうとう意を決し、彼はフィルムを現像に出すのだが…」

・「霊と遊ぶな子供たち!!」(1992年「あなたの恐怖体験」)
「犬木加奈子先生自身が、幼少期、学生時代、そして、漫画家になってから体験された怪奇譚を描いたもの。」
 これを読めば、どうして犬木加奈子先生が霊現象や怪奇現象を頑として信じないと明言されている理由がわかります。

・「悪夢の扉」(1989年「別冊フレンド」)
「ひとつめの扉 夢みる少女」
 退屈な日常に飽き飽きしている少女。
 彼女は刺激を求め、どんな夢でも現実になればいいと願う。
 その願い通り、彼女は望む通りの夢を見ることができるようになるが…。
「ふたつめの扉 かえるの王子」
 外見と内面、両方の美しさを備えていると思い込んでいる少女。
 彼女は何者かに付きまとわれていた。
 ある時、それはハンサムかつ性格良好、しかも、大会社の息子という少年であることが判明する。
 少女は彼と会うが、彼の顔はカエルのようにイボでいっぱいであった。
 尻込みする少女に、彼は「カエル王子」の話をする…。

 大人向けの作品から「フレンド」掲載作品、怪奇体験ものとバラエティー豊かな短編集です。
 個人的なベストは、タイトルにもなっている「ゴキブリの家」です。
 バッド・テイストながら、現実から幻想への移行を鮮やかに描写して、非常に上手いと思います。

・備考
 左の画像の単行本、カバーに痛みあり。テープでの補修あり。
 ちなみに、右の単行本、左の単行本と中身はいっしょなのですが、カバーに発行年月日が記載されておりません。いつ出版されたんだろう…?

2017年5月25日 ページ作成・執筆
2023年3月17日 加筆訂正

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