曽祢まさこ「おむかえがくるよ」(2000年10月1日初版第1刷発行)

 収録作品

・「恋物語地獄変」(「'97年月刊ホラーM6月号」)
「森下紀実江は、同じクラスの幸野正憲が好きで好きで好きで好きで(以下略)たまらない。
 日々、おまじないブックに書いてあることに従って行動し、常時、幸野君にラブラブ光線(注1)を飛ばす。
 たまには、幸野君の持ち物を失敬することもある。
 遂に、ある日、憧れの幸野君から「話がある」と電話がかかってくる…」
 ぱっと見はそうとわからないのですが、ヘビーなストーカーものです。
 ストーカーものの名品と言えば、そのスジでは、関よしみ先生の「マッド・ストーカー」が高名ですが、この作品はちっとも派手ではありません。
 その代わりと言ってはなんですが、的確な性格描写が冴えており、じわじわとこちらの神経を蝕んでいきます。
 個人的には、この作品に軍配を上げたいと思います。

・「毒虫」(「'99年月刊ホラーM8月号」)
「普通の主婦の皮をかぶっているが、陰では他人の悪口や非難を延々と口にする、岸本なるみの母親。
 父親は単身赴任で不在のため、母親と顔をつき合わしている間、際限なく聞かされる悪口になるみは辟易。
 ある日、家に帰りたくなく、公園でぼんやり過ごしていると、クラスの男子生徒の小野田と偶然出会う。
 彼と親のことを話し、「心の中でクソババアと叫ぶ」というアドバイスをもらう。
 いざ実践してみると、意外なほど、苛々が消え、心が軽くなる。
 心の健康を取り戻したなるみは、小野田と親しくなるが…」

・「閉じられた部屋」(「'99年月刊ホラーM11月号」)
「普通の女子高生の山根あかり。
 やり手のサラリーマンの父親、ちょっぴり少女趣味の母親、秀才の兄…と表面的には普通の家庭のようだが、実際は崩壊寸前。
 甘やかされ、スポイルされた兄は現在、引きこもり。
 そんな兄をひたすら甘やかし、あかりのことは眼中にない母親。
 妻と息子に嫌気がさし、仕事に逃避している父親。
 あかりもそういう現実には目を背け、普通の女子高生の生活を満喫することを心がける。
 が、ある日、あかりが興味本位で兄の部屋を覗いた時…」

・「おむかえがきたよ」(「'00年月刊ホラーM5月号」)
「老人には70歳の「定年」が定められた社会。
 定年を迎えた老人には、政府から「おむかえ」がやってくる。
「定年」を延ばす方法はただ一つ…年二回売り出されるSSL(スーパー・スペシャル・ライフ)宝くじ。
 小学生の航(わたる)の家は、小さな工場を経営して何とか生計を立ててる両親と妹、それから、家を支えている祖母の五人家族。
 祖母が定年になったため、航は自力でSSL宝くじを買おうと奮闘する…」
 筒井康隆先生の短編や、永井豪先生、藤子・F・不二雄の作品にもあったと思いますが、テーマは「老人定年制」社会です。
 よくある内容と思いきや、油断大敵、最初に読んだ時、泣いてしまいました。(全く…おっさんになったものです…。)
(何度も言ってますが)決して派手な内容でありません。正直、地味だと思います。
 しかし、殺伐としたテーマを、「家族愛」を核に据えたドラマにしておりまして、しっとりとした雰囲気があります。
 荒唐無稽な話と鼻で笑う人がいるのは百も承知…でも、このラストを見ると、知らず知らずのうちに涙腺が緩んでしまうのです。

・「フェアリー・テール」(「'92年月刊アップルミステリー12月号」(宙出版))
「リンジーの幼馴染で親友の、エイミイ・ファーガソンの口癖は、自分は妖精の取替えっ子(チェンジリング)だというものだった。
 エイミイは両親から愛を浴びることなく育ち、リンジー以外には心を開こうとしなかった。
 そんな二人が十五歳を迎えた夏、偶然、海辺で会った男性に、エイミイは恋心を抱く。
 リンジーはそんなエイミイを応援するのだが…」

 実は、心に重い作品ばかりなのです。特に、「毒虫」「閉じられた部屋」は別格です。
 いろいろと思うことはあるのですが、結果的に批評家の真似事(わかりやすく言うと、単なる詮索好き)に過ぎないと考え、くどくど述べることはしません。
 興味を持たれた方は、是非読んでみて下さい。
 そして、恐らく、私達には想像のつかない「独りで生きていくこと」に思いを馳せてみたら、如何でしょうか。

・注1
 今は忘れ去られし、セガ・サターンを良くも悪くも代表するギャルゲー「センチメンタル・グラフティ」。
 そのゲームの中のキャラで、えみる(「りゅん」「りゅん」うるさい奴)という電波キャラがおりまして、そのキャラが歌った「ウルトラ・エスパー」という電波ソングより引用。
 たまに聴いてますが、実に名曲ぞ!!

平成27年9月10〜12日 ページ作成・執筆

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