関よしみ「超エゴ! ―あたしサイテ―?―」(2016年10月1日初版第一刷発行)

 収録作品

・口絵「夏休みの宿題 植物観察」(1994年少女フレンド9月号増刊サスペンス&ホラー特集号」)

・「不幸福の王子」(2002年月刊ホラーM11月号)
「自動車事故により、両親を亡くした少女、幸田杏奈。
 兄の幸田善行は下半身に重度の障害を負い、一生車椅子生活となる。
 親が遺してくれたマンションの家賃収入と、事故の際の保険金で、二人は生活には困らなかったが、善行は自分の身に降りかかった不幸を思い、欝々と過ごす。
 退院して幾日経ったある日、善行は杏奈に、これから「幸福の王子」になると宣言する。
 善行は、マンションの屋上から望遠鏡で辺りを観察して、世の中には自分よりも不幸な人がたくさんいることに気付いたと言う。
 不幸な人々を救うために、善行は不幸な人へこっそり金を届けるよう、杏奈に頼む。
 自動車事故の責任を感じていた杏奈は喜んで兄の手足となって働くが、その行為が様々なトラブルの種となっていく…」
 どうも地味な印象のある話ですが、よくよく読むと、なかなか深い話なのではないでしょうか。
 ベースとなっているのは、オスカー・ワイルドの名編「幸福の王子」ですが、オチもちゃんと決まってます。(あと、ヒッチコックの「裏窓」の要素もあり?)
 ただ一つ、引っかかるのが、アシスタントさん(実は旦那さん)の描かれた絵です。
 なかなか達者な線で、丁寧に描き込まれていると思うのですが、如何せん、関よしみ先生と絵柄が違うので、妙に浮いてしまっているような気が…。
 揚げ足取りな指摘とは思いつつも、一応、書いておきます。

・「自虐の迷宮」(2000年月刊ホラーM3月号)
「腸捻転になった経験から、看護師への憧れを抱く、桃子。
 しかし、両親に反対されると、その憧れはあっさり引っ込んでしまう、意思の弱い少女でもあった。
 結局、エスカレーター方式で、女子高へ入学し、ぬるま湯のような学校生活を送る。
 しかし、いつの間にか、桃子は眉毛を無意識のうちに抜く癖がついていた。
 どうも自己嫌悪心から発する自傷行為として、そういう行動をしているらしい。
 次第に、桃子には自傷行為が心の張りを保つために必要となっていき、自傷行為はエスカレートしていく…」
 個人的な感想としては、あと一押し欲しかった作品です。(特に、ラスト。)
 「自傷行為」に及ぶ心理をより多角的に描写したら、傑作になったかもしれません。
 ただ、あまりにヘビーな描写に徹してしまうと、主人公は単に変態マゾヒストになってしまうでしょう。(注1)
 あくまでも「自己嫌悪」と「自虐行為」の狭間を揺れ動く、思春期の少女が主人公ですので、難しいテーマだったように思います。
 ちなみに、主人公が平然とリストカットする描写はかなり「痛い」デス。

・「光と影の方程式」
「中学三年の高岡歩は、母親に受験勉強と責め立てられ、湧き上がる憎悪を抑えることができない。
 また、歩がしばしば比較される学級委員の優等生、勝原良子にも、「いい人」であることは知りながら、たまに苛々してしまう。
 そんな苛立ちに満ちた日々に、いくら頑張っても、母親の自分に対する要求は高まるばかりで、歩は窒息寸前。
 そんなある日、歩は、塾をさぼって、落ちこぼれ同然のクラスメート達とカラオケに行く。
 楽しく過ごし、心にたまった毒を洗い流したように感じるが、帰宅後、歩を待っていたのは、母親の叱責であった。
 遂にキレて、家をとび出した歩は偶然に良子と出会う。
 良子の家で歩は母親のことを愚痴っていると、歩は「いい子」と言われる良子の心の闇を垣間見ることとなる…」
 ドロドロはしておりますが、怪奇マンガとは言いにくく、読者が関よしみ先生に(どうしても)求めてしまう「パンチ」は弱いです。
 だからと言って、つまらないことは決してなく、思春期の少年少女の抱く「閉塞感」をうまく捉えているように思います。
 ダークな「青春」マンガの隠れた逸品でありましょう。

・「強欲な女神」(1998年「少女フレンド4月号増刊サスペンス&ホラー特集号)
「保田美春は、高校入学式の時に、素晴らしくきらびやかで、美しい母子を目にする。
 そのあまりに若々しい母親の方は比留間魅夜、彼女の娘は比留間朝香という名であった。
 若々しいのも当然で、比留間魅夜は健康と美容の総合クリニックを都内でいくつも経営する実業家として知られていた。
 魅夜が美春の母親と中学の同級生だったことが縁で、美春と朝香は友人となる。
 また、美春の幼馴染の瀧口遼太も朝香に一目惚れをして、遼太も彼女と交際を持つ。
 新しく友人になった美春と遼太に、朝香は秘密を打ち明ける。
 秘密とは、朝香が、近いうちに、母の魅夜に殺されそうだということであった。
 魅夜は、朝香の若くて健康な身体に、自分の脳を移植して、美と健康を保とうとしていると言う。
 朝香は二人に魅夜を殺すように訴えるのだが…」
 「強欲の女神」(講談社)からの再録です。  楳図かずお先生の「洗礼」を髣髴させるストーリーであります。
 関よしみ先生の作品は、脳移植を巡るサスペンスと、「若さ」と「美」に振り回される家族が崩壊し、また一つとなるストーリーがうまく絡められ、単なる二番煎じではありません。
 佳作とは思いますが、どことなく影の薄い作品であります。一応は、ハッピーエンドだからでしょうか…?

・「あとがき 自虐と欲の光と影と…」
 関よしみ先生の後書きは、味のあるエッセーで面白いです。
 「自傷の迷宮」と「光と影の方程式」の後にも1ページずつ作品解説が描き下ろされておりまして、これも興味深いです。
 作品と共に、作品解説も楽しめると、かなり得した気分です。

 「エゴに振り回される人間」をテーマに据えた作品集です。
 内省的な内容の作品が多く、関よしみ先生の作品の魅力とされている「極端さ」は希薄です。
 そのため、極限状況下での人間のエゴの激しいぶつかり合いを描いた「愛の墓標」や「血を吸う教室」あたりのレベルを求める方々には、物足りない内容かもしれません。
 でも、極端な作品だけが関よしみ先生の魅力なのでしょうか?
 私見でありますが、20世紀から21世紀へ移行するあたりから、登場人物を徹底的に突き放した作風から、登場人物に対して作者が共感をしているような作風へ変わっていったように思います。(ほん一部の作品しか読んではおりません。見当違いな意見だったら、ごめんなさい。)(注2)
 登場人物は皆、ちっぽけでつまらない人間であり、自分の背後の「影」に呑み込まれになりながらも、「光」に向かって「生き続け」ようとしております。
 そういった人物を描くことで、「人生」についての考えを表明しようとした作品も(派手さには欠けますが)味わい深く思います。
 とは言っても、説教臭さや押しつけがましさはあまりなく、関よしみ先生の真摯な思いが率直に込められているといった感じで、そこが作品に温かみを持たせているようです。
 まあ、いずれにせよ、やはり関よしみ先生にしか描けないマンガではないでしょうか?
 こういう拙文でも、もしも興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、是非とも目にしていただけると、私にとっては幸甚の至りです。

 と、ちょっぴり力を込めてレビューを書きましたが、マニアやファンの頭の中身は、九割がた、「脳内妄想」もしくは「勘違い」だけで構成されております。
 肩入れが過ぎて、牽強付会かつ冷静な判断ができていない部分が多々あるとは思いますが、単なる一意見として、おおらかな心持で割り切っていただけますよう、心よりお願いいたします。

・注1
 「自己嫌悪」→「自虐行為」→「快感」もしくは「救い」…ということなのでありましょうか。
 この「快感」・「救い」が「性的快感」・「宗教的法悦」にまで嵩じたら、「ヘルレイザー」に出てくる魔道士ばりの変態になるのかもしれません。(サイコパスの心理に関しては、私の理解の範疇を超えております。)
 この手の変態で史上最狂なのは、アルバート・フィッシュでありましょう。
 手っ取り早く、情報を得たい方は名サイト「マジソンズ博覧会」の「殺人博物館」内「人肉嗜食」のページをご覧になってください。
 書物で、私が知っているものは、以下の通り。
「別冊宝島368 身の毛もよだつ殺人読本」(宝島社/1998年3月3日発行)より「身体に錆びた針を埋め込んだ男」(真木貞夫氏・文/pp121〜131)
ブライアン・マリナー「カニバリズム 最後のタブー」(平石律子氏・訳/青弓社/1993年11月19日第一版第一刷発行)より「怪人フィッシュ」(pp137〜151)

・注2
 ネットによると、この時期には、プロパガンダに利用されてもおかしくないようなマンガも幾つかあるようですが、私はほとんど読んだことがないので、触れないでおきます。

2016年9月28日 ページ作成・執筆
2022年12月29日 加筆訂正

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