「怪談特集H」(発行年月日不明/150円)



 収録作品

・東田健二「黒い七つの影」
「戦国時代、戦いの後、捨て子を拾った青年。
 青年はその赤子を育てようとするが、彼の兄がその地の城主を裏切ったことがばれて、村中から爪弾きになる。
 その青年につきまとう、物の怪のような影があった…。」

・小林一夫「呪いの絵」
「江戸時代、玉江は、夫ある身にも関わらず、好色な家老につきまとわれていた。
 玉江の夫の新之助は剣の修行に出たまま、行方知らず。
 家老は、玉江の父である、絵描きの伯雲に取り入ろうとするが、すげなく断られ、逆上のうちに伯雲を斬殺してしまう。
 伯雲の死体を始末したものの、伯雲が描いた若衆の絵から、若衆の姿が消えてしまう。
 その頃、旅の途中の新之助の夢枕に、血まみれの伯雲の亡霊が立ったのであった…。」
 いい感じのストーリーで、この本の中で一番出来が良いと思われます。

・山口勇幸「鬼女」
 人生にそう滅多にあることではないのですが、何気なく手に取った本に人生を変えられることがあります。
 私にとっては、この「怪談特集H」に収められている、山口勇幸「鬼女」こそ、そういう作品の一つでした。
 時空を超えた、傑作中の傑作です!!
 と、大口を叩いてみたものの、世間的には決して優れた作品とみなされないでしょう。
 こう言ってしまうと、山口勇幸先生には失礼に当たりますが、プリミティブという形容がぴったりです。
 しかし、上手下手を超えたところに、この作品の素晴らしさがあります。
 それはマンガへの「情熱」。
 一読すれば、山口勇幸先生の「情熱」が如何に自然発火寸前であるか、お分かりいただけると思います。
 磁気波の狂った太陽のフレアを思わす、荒れまくった描線で埋め尽くされたページの中に、山口勇幸先生の「情熱」が、「個性」がリアルに刻印されております。
 それは「描く」というよりも、「掻き毟る」と形容した方がしっくりきます。
 紙を情熱に赴くままに「掻き毟り」、その傷口からから滲み出した血液が凝固し、編み上げた瘡蓋(かさぶた)なのであります。
 そして、21世紀になった今日でさえも、その瘡蓋を爪で剥ぎ取れば、生々しい血が滲み出すことでしょう。
「生きた」作品というのは、こういう作品のことを言うのではないのでしょうか?

2014年3月30日 執筆・ページ作成
2019年10月16日 加筆訂正

文洋社・リストに戻る

貸本ページに戻る

メインページに戻る