「怪談特集I」(発行年月日不明/150円)



 収録作品

・東田健二「黒い沼」
「主人公の青年のまわりの人達が何者かに次々と襲われます。そして、沼の護岸工事に関わる陰謀が徐々に明らかになるのでした…。」
 主人公の行動が「チャージマン健」並みに行き当たりばったりなので、ストーリーの把握がなかなかに困難です。

・小林一夫「怨霊」
「とある商人は、矢継ぎ早に起こる不幸で家族を失います。商人の屋敷の前を通りかかった僧は、それが「呪いの面」による祟りと言い、法力で「呪いの面」を供養しようとします。さて、「呪いの面」に関する経緯とは…」

・山口勇幸「烏(からす)」
「舞台はとある山奥の部落。そこでは烏を大明神として祭っておりました。主人公の小太郎は、許婚のお花の父が危篤であったため、薬となる黒百合を烏山に取りに行きます。黒百合を夜に摘むと、祟りがあるという言い伝えがあったのですが、小太郎は意に介しませんでした。お花の父親は回復したものの、小太郎は行方不明になります。その夜、烏が大勢鳴き騒ぎ、烏山に流星が落ちます。しばらく経って、小太郎は医者を連れて帰ってくるのですが、部落の異変に気づきます。周囲の人間が、姿かたちは変わらないものの、以前とは「違う」人間になっているのでした…。」
 粗筋を読んでいただければ、すぐに「ピ〜ン」と来たと思います。そう、これは『ボディ・スナッチャー』(注1)ではありませんか!!
 あの当時(1960年代前後)に、恐らく、ジャック・フィニイの原作を読んで、これをマンガに取り入れたのは、なかなか凄いことではないかと思います。(注2)
『ボディ・スナッチャー』の設定を丸パクリして、舞台を江戸時代の豊臣家の残党が潜む、山奥の部落、それに、烏大明神が絡むという、他に類を見ないような奇妙なマンガになっております。
 実際、時代劇に「侵略テーマSF」という、どう考えても「水と油」な要素を、問答無用で叩き込んで、混ぜこぜにした強引さは、実験的とも取れます。
 稚拙な絵柄の裏に、とんがりまくったアバンギャルドな姿勢が見え隠れするところに、山口勇幸先生のマンガに対する、「地平の彼方まで一方通行」な心意気を感じてしまいます。

・注1
『ボディ・スナッチャー』の原作は、侵略テーマSFの傑作の一つと言われる、ジャック・フィニイ『盗まれた町』です。(未読です…)
 何度か映画化されておりますが、ドン・シーゲル(『ダーティ・ハリー』の監督)が監督した『Invasion of the BodySnatchers』(1956年)は、SFホラーの大傑作であります。
 半世紀前の映画ですが、今観ても、怖い映画です。異星人に侵された町の人達に追っかけまわされるラストはかなりの迫力。
 派手な特殊効果など頼らずに、身近な人間がいつの間にか「知らない」人間にすりかわっていく恐怖を、徹底した演出で描いております。
 ただ、この映画は日本未公開にでして、ビデオやDVDでも出ておりますが、一般に普及しているものでなく、日本では知名度が低いのが、かえすがえすも残念であります。

・注2
 昔のSFマンガを読むと、あまりの安直さに辟易させられるものが多いです。
 それを考えますと、『鉄腕アトム』を描いた手塚治虫の影響は計り知れないものがあります。
 手塚治虫がいなければ、『ドラえもん』の藤子・F・不二雄もなく、また、横山光輝の『鉄人28号』もなかったかもしれません。如いては、永井豪の『マジンガーZ』もなく、とすると、韓国で『テコンV』が制作されることもなく、フランスで『UFOロボ グレンダイザー』が、イタリアで『鋼鉄ジーグ』が大ヒットすることもなく、米国で『宇宙戦艦ヤマト』が『StarBlazer』のタイトルで放送されることもなかったでしょう。
 そう考えると、感慨深いものがあります。

平成26年4月28日 執筆・ページ作成

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