いなば哲「怪談蛇女は夜来たる」(160円)

「殺し屋として恐れられる「死神の錠」。
 錠は、やぶにらみのきつい面貌で、彼の振るう剣はまさしく邪剣。
 編笠の男に依頼され、鳥取藩の剣道指南役、岩井繁太夫(注1)を殺しに、その屋敷に向かう。
 錠と岩井繁太夫が合い向かったその時、数刻前に錠が酔っ払いから助けた母娘が現れる。
 母娘は岩井繁太夫の妻とその娘であった。
 母親がかけた声で注意が逸れたのを見逃さず、岩井は錠の片腕を切断するものの、斬り殺されてしまう。
 自分の腕が切り落とされたことに逆上し、錠は母娘と使用人を斬殺。
 娘は、庭の大木に祀られてある、白竜の祠の前で息絶える。
 すると、大木の枝が巨大の蛇となり、錠に襲いかかってくる。
 蛇から逃げようとして、そのまま意識を失った錠は、見知らぬ家で目覚める。
 その家は、一月前に父親を亡くし、一人ぼっちになった千吉という男の子が住んでいた。
 千吉は錠の手当てをして、錠に家に泊まっていくように勧める。
 最初は邪剣にしていたものの、錠は自分と同じ孤独な身の上の千吉に情が移っていく。
 一方、岩井繁太夫の息子、竜之介は両親と妹の復讐のため、片腕の男を捜していた…」

 何はともあれ、歴史に残る(かもしれない)、ファンタスティックなジャケットであります!!
 髪が蛇の蛇女はポピュラーですが、指が蛇の蛇女なんて、新機軸ではないでしょうか?(便利なのか、不自由なのか、想像がつきません。)
 こんな蛇女が暴れるのであろうと、ワクワクしながら読んでみたら、あらららら(注2)…ちっとも出てきませんでした。
 正直、ガッカリしました…。
 更に、内容的にも、それなりに読ませる出来なのですが、誰も救われないラストのために読後感はかなり複雑。
 と、まあ、そういうダブル・パンチを喰らった作品であります。
 要は、ジャケのインパクトが凄過ぎて、過大な期待を抱いたためなのですが、今となっては(多分)いい思い出です。
 ところで、誰か、この蛇女でマンガを描いてみませんか?(でも、「笑い」に逃げるのはやめてくださいね。)

 後日、にほんの歴史★学会・編「江戸の怪談」(注3)を読んでいたら、これと同じ「蛇女」が出ておりました。
 しかし、こちらは天罰を喰らって、指が蛇になる女の話で、指の蛇が共食いをしたりしております。
 これはこれでなかなかのインパクトかも…。

・注1
 文洋社やひばり書房で活躍された、岩井しげお先生をもじったものでしょう。

・注2
「ら」の発音は一文字ごとに巻き舌をきつくしながら、発音してください。

・注3
 にほんの歴史★学会・編「江戸の怪談」(静山社文庫/2013年6月4日第1刷発行)収録、「第2章 「因果応報」のコワーイ話」の「指が蛇になった女」(pp75〜78)を参考のこと。
 イラストも載っておりまして、なかなか楽しそうな図です。(小躍りしている蛇女と、「ダメだこりゃ」と笑っている二人の男…ではありません。)
 ちなみに、この本、読みやすい現代語にしており、サクサク読み進めることができます。ちょっと変わった、コワい(?)、そして、肩の凝らない話が読みたい人にお勧めです。
 「第5章 怪談なのになぜか笑える話」は凄過ぎます。(「死人を渡る女」は笑った!!)

・備考
 カバー痛み。破れを裏で補修。前の袖、取れかけ。後ろの袖の折れの部分に欠損。

2016年2月15・16日 ページ作成・執筆
2016年3月25日 加筆訂正

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