いなば哲「大江戸怪奇伝」(170円)
・「老蛇」
「追手から逃れるため、山越えをしている最中、道に迷ってしまった三人の悪党。
リーダー格の島本、粗暴な亀首、消極的で無気力な質の薄井。
彼らは池で水浴をする女性を見つけ、その後をつける。
女性が入っていったのは岩の間にできた小さな穴で、その奥深くに扉があった。
扉を叩き、女性に中へ入れてもらうと、扉の向こうには板張りの広間があり、その奥に襖が立てられていた。
女性はおこそ頭巾をしており、襖の向こうの部屋を決して覗かないよう三人に厳命する。
食事も酒もあり、絶好の隠れ家を発見したと浮かれる島本と亀首は酒をかッ喰らって寝てしまう。
一方、下戸の薄井は便所を探して、真っ暗な女の部屋に入る。
そこで偶然手にしたものは、蛇の卵であった。
気付いた女は三人に「大切なもの」を返さないと命はないと脅し、薄井は速攻で卵を部屋に戻すが、どうも様子がおかしいと思い始める。
夜も更け、島本と薄井が眠りに就くと、女の顔が気になって仕方のない亀首はこっそり女の部屋に忍び込む。
女は亀首に顔を見たら生きて再びこの祠を出ることはできないと言うが、亀首は鼻で笑って、女の頭巾を剥ぎ取る。
そこで亀首が見たものは…」
面白いです。
内容はズバリ「蛇女」であります。
が、鱗を飲ませたり、噛みついたりして、仲間を増やす云々の陰湿さはなく、大の男を丸呑みするアグレッシブさが非常に新鮮。
中編ということで程よくまとまっており、隠れた逸品なのではないでしょうか?
・「血の壁」
「女の子を襲った、旗本斉藤隆五郎の愛犬を斬った侍、尾崎。
斉藤の取り巻きに襲われ、重傷を負わされた尾崎は逃げ惑う。
が、袋小路に迷い込み、絶体絶命。
行き止まりの壁に背をつけ、尾崎が壁に溶け込みたいと強く願うと、不思議なことに、彼の姿は壁と同化してしまった。
この能力を活かし、尾崎は斉藤への復讐を果たそうとする…」
元ネタはアポリネールの名編「オノレ・シュブラックの失踪」であります。
これに侍の復讐への妄執を付加して、まあまあ読ませます。
・備考
ビニールカバー貼りつき、また、一度ビニールカバーを外して、張り直したようで、カバーに剥げ多々あり。糸綴じあり。小口研磨のため、一回りサイズが小さし。読み癖ひどし。切れ、シミ、汚れ多数。pp73・74、コマの中に小欠損あり。pp129・130、コマにちょっぴりかかる欠損あり。後ろの遊び紙に貸出票の剥がし痕あり。
2016年2月23日 ページ作成・執筆