高港基資・他「恐怖体験 呪詛の呟き」(2013年9月4日初版発行)

 収録作品

・高港基資「千人針」
「美大生のはるかの身に半月ほど前から奇妙な現象が起こるようになる。
 数日に一度の割合で、集中している時や眠っている時に、身体に縫い玉が縫い付けられるのである。
 縫い玉の糸を、繊維会社の人に見てもらうと、80年ぐらい前の木綿糸で、もとは赤い糸だったらしい。
 また、はるかは、布を手にした、モンペ姿の女性の夢を見るようになる。
 縫い玉の数は徐々に増えていき、はるかの父親は、背中に縫い付けられた縫い玉を見て、「千人針みたいだ」と呟く。
 はるかの身内で、戦争体験者は祖父だけで、彼女は祖父のいるH県に向かう。
 しかし、祖父は寝たきりで、子供の頃のことは覚えてないと繰り返すばかり。
 はるかは、夢で見た女性を絵に描き、村の年寄りに聞いて回る。
 村人達は何かを知っているようだったが、教えてはくれず、ようやく一人の老婆がしぶしぶ口を開く。
 夢に現れた女性は中尾時栄。
 夫は小学校の教師で、三人の息子がいた。
 だが、主人はスパイ容疑で憲兵に連行され、更に、三人の息子達にも召集令状が来る。
 時栄は、息子達のために千人針を村人達にお願いして歩くのだが…」

・高港基資「試着室」
「とある衣料品店。
 三つ並んでいる試着室の真ん中は使用中止の札がかかっている。
 と言うのも、ここは「ヤバい」からであった。
 誰もいないのに、異音やカーテンの下から靴下をはいた子供の足が覗いていたりする。
 ここの従業員は「不要な好奇心」を持たず、あれと共存する。
 ただ一人、新人バイトが面白半分で中を覗き、以来、原因不明の失踪をした以外は何事も起こらなかった。
 ある日、子連れの女性が試着室に入る。
 すると、その子供が真ん中の試着室に入ってしまう。
 店長はすぐさま駆けつけて、中に声をかけると…」

・高港基資「磔の家」
「ある青年が峠道をツーリング中、便意をもよおす。
 木立の中で用を足した後、廃屋が目に入る。
 半世紀前ぐらいの建物らしく、入ってみると、両手を上げた人物の形をした、どす黒い痕が壁についていた。
 痕に沿って、壁には釘が打ち込んであり、床の道具箱には鋸、金槌、何本もの釘、そして、血で汚れたような布切れが入っていた。
 彼は慌ててその場を立ち去るが、ツーリングを終えて数日後、奇怪な夢を見る。
 夢の中、彼は見知らぬ男に身体中、釘を打ち込まれる。
 激痛で目を覚ますと、ベッドに一本、釘が刺さっていた。
 彼は霊能者にお祓いをしてもらうのだが…」

・高港基資「選択肢」
「ある男は人生において常に間違った選択肢を選んできたと思っていた。
 最初の選択肢は両親の離婚の時で、彼は母親を選ぶ。
 だが、数年後、母が再婚した相手は彼を虐待し、母親も弟が産まれてからは彼を放置する。
 次の選択肢は小学四年の頃。
 クラスは上田と高橋の派閥に分かれており、彼は性格の穏やかな上田につく。
 二人は仲良しになり、彼は上田派のナンバー2にまでなるが、突如、上田が転校してしまう。
 それから後は高橋に散々いじめを受けたのであった。
 選択ミスはそれ以降も続き、気が付くと、彼は26歳で、無職・住所不定の身となる。
 だが、そんな彼に智子というボランティアの女性が声をかけ、いろいろと面倒を見てくれる。
 彼は彼女を愛し、驚くべきことに、彼女も彼を愛してくれる。
 そして、結婚し、その後も幸せなことが続くが、彼の脳裏にはこれも選択ミスという思いが拭いきれず…」

・高港基資「消失」
「地方に住む高校生の青年。
 彼は親友の岩田と話していて、ある異変に気付く。
 彼が知っていた人が毎日一人ずつ存在しなくなるのであった。
 原因不明のまま、生徒、教師、近所の人が彼の周りから姿を消していく。
 彼は身の回りの人を写真に撮ったり、文章で残したりするも、全く役に立たない。
 時は流れ、彼の周囲には数人の人と数軒の家を残すだけになり…」

・高港基資「黒焦げ犬」
「サラリーマンの絵島は隣家のゴンという犬を憎んでいた。
 と言うのも、この犬は夜遅くまで吠えて、うるさくて仕方がないからであった。
 ある日、彼は出張に出かける。
 だが、それはアリバイ作りで、その晩、彼はゴンに火炎瓶を投げつける。
 ゴンは全身大やけどを負うも、何故か死なない。
 一方、絵島はこれで静かになるかと思いきや、寝ようとすると、犬の鳴き声が聞こえ、ろくろく眠れない。
 しかも、自分でも知らない間に、奇妙な行動を取るようになり…」

・「しかえし」
「池溝徹は自動車事故で重体であったが、どうにか一命をとりとめる。
 意識を取り戻した彼が真っ先に知ろうとしたのは、会社の課長が無事かどうかであった。
 彼は子供の頃、いじめられ、自殺を図ったことがあった。
 数日間、生死を彷徨っていた間、いじめっ子達が皆、惨殺される。
 それは彼の生霊の仕業であった。
 そして、彼は今、課長に壮絶なパワハラを受けており…」

・油豆「友人の母」
「山本は、里帰りのついでに、友人の家に寄る。
 彼は友人の母親との再会を期待していた。
 友人が自分の部屋に行っている間、居間のドアの隙間から、友人の母親が顔を覗かせ、微笑むと、姿を消す。
 昔のままだと山本が感動していると…」

・油豆「境界」
「ある青年が同じサークルの林のアパートに泊まりに行く。
 ふと見ると、携帯電話がない。
 林に自分の携帯電話にかけてもらうと、離れたところから着信の音が鳴る。
 行くと、バスルームの中からであった。
 しかも、バスルームの扉はガムテープがあちこちに貼られて、開かないようにしてある。
 テープを剥がし、携帯電話を回収するが、林の様子が一気に落ち着かなくなる。
 林に頼まれ、青年は帰ろうとするのだが…」

・坂元輝弥「雪のとおりみち」
「冬休み。
 小林晃太という少年が友人宅から自宅へ帰って来る。
 すると、自宅に向かって、雪の上に足跡が残っていた。
 足跡は一直線に彼の家に向かい、塀を通り抜け、家に続いている。
 晃太が携帯電話で母親に連絡をすると、母は今、外出中だと言う。
 中に入るべきかどうか、彼が家の外で迷っていると…」

・稲垣みさお「鬱の家」
「稲垣さん一家は夫のヒイトと妻のみさお、それと、娘のひーちゃん。
 夫は双極性障害(躁鬱病)で、妻は騒音が苦手。
 鬱病を発症しそうな夫を妻は気遣うのだが、やがて限界が来て…」

 個人的に印象に残ったのは、高港基資先生の「千人針」と油豆先生の「友人の母」。
 「千人針」は高港先生の奇想と残酷描写が冴えまくってます。
 「友人の母」はしみじみと不気味…。

2023年3月29・31日/4月6日 ページ作成・執筆

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