緑の五寸釘・編集「恐怖漫画短編集 孤独」(2018年8月1日発行)

 収録作品

・稲垣みさお「窓のむこうがわ」(「ホラーM」1997年2月号)
「美香は友人から双眼鏡をもらう。
 彼女が外を眺き見していると、アパートに住む男の子が彼女を双眼鏡で見つめていた。
 少年は彼女の部屋をずっと眺めており、翌日、彼女は少年の住むアパートに文句を言いに出かける。
 そこは見るからに老朽化したアパートで、部屋にはやつれた母親と病身の少年の二人暮らしであった。
 彼の楽しみは父親の形見の双眼鏡で外を眺めることだけであり、美香は少年と毎日、互いに双眼鏡で見ると約束するのだが…」

・杉原那月「ママのハンバーグ」(「ホラーM」2002年8月号)
「有名な料理人の祖母と母親を持つ、くるみ。
 調理実習の係に選ばれたため、彼女は祖母と母親に料理を習う決心をする。
 二人は涙を流して喜び、一族から代々受け継いだ料理の技術を全て、彼女に授ける。
 「料理には愛情というエッセンスが必要」という教えの真意とは…」

・真山創宇「恋い焦がれる島」(「ホラーM」2007年10月号)
「海で消息を絶った、誠二の父親は一年後、変わり果てた姿で発見される。
 父親は精神錯乱を起こしており、何かに怯えたまま、一年後には衰弱死。
 誠二は「二度と海に行っては駄目だ」という父親の言葉を守り続けてきたが、16歳の時、ガールフレンドと海に出かける。
 そこで、彼は波間に助けを求める女性の姿を目にして、助けに向かうのだが…」

・崇山祟「鏡地獄」(2013年9月原稿公開)
「殺気だった満員電車の中で、コオロギについて思いを馳せる、サラリーマンの青年。
 コオロギは密集した中で飼うと、共喰いをする習性があった。
 疲労が募り、幻覚まで見るようになった彼の精神がある一線を超えた時、彼は鏡で仮面を作り、ラッシュアワーの電車に乗り込む…」

・矢樹純・原作/加藤山羊・作画「山童」(「ビッグコミックスピリッツ増刊 スピリッツcasual」2005年8月16日)
「毎週、山でバードウォッチングをする中年の男性。
 ある日、彼が双眼鏡を覗いていると、川の中に半袖短パンの色黒の少年がいるのが目に入る。
 山の麓のそば屋の老夫婦に少年の話をすると、その少年は「山童(やまわろ)」という妖怪らしい。
 特に悪さをするわけではないが、絶対に目を合わせてはいけないと彼は警告されるが…」

・神田森莉「人間の形をしていない赤ん坊」(1991年「ACラビアン5月号増刊 恐怖ミステリー」)
「施設で育ち、家庭の温もりを求めて、二十歳で結婚したものの、夫はマザコン、姑からは日々いびられる加代。
 ある晩、彼女は公園で浮浪者にレイプされる。
 その浮浪者は「ものすごい伝染病」にかかっており、射精した直後に頓死する。
 その後、加代は妊娠するが、その子は浮浪者との間にできた子供であった。
 だが、そのことが夫と姑にばれ、臨月の加代は夫と姑から暴力を受ける。
 そのショックで、加代は出産するのだが…」

・柴原むかで「刺す!」(「ホラーM」2007年5月号)
「頭に尖った針が出ている女子高生の小山。
 他校の男子生徒、加村は彼女の頭上の針に興味を惹かれ、針をどうにかしようかとしたところ、あやまって針が胴体を貫通。
 仕方なく、小山は加村を頭上に乗せたまま、登校するのだが…」

・渡辺保裕「湿っぽい部屋」(1997年「ミステリーDX8月20日号増刊 ザ・ホラー」)
「ある青年のもとに、前に住んでいたアパートの大家から手紙が届く。
 手紙には、代々「202号室」で暮らした方に集まってもらい、アパートが取り壊される前に、どうしても話したいことがあると書かれていた。
 彼がそのアパートを訪れると、202号室には既にそこの住人が集まっていた。
 窓のない、湿っぽい部屋で、大家は話し始める…」

・小津哲也「夢」(「恐怖の快楽」1997年4月号)
「平凡な主婦の留美は、眠りにつく度に、悪夢に悩まされるようになる。
 夢の中では、彼女は中国の皇帝に仕える下女であり、拷問を受けたり、皇帝に凌辱される。
 彼女は眠ることに恐れを抱くようになるが…」

・近藤宗臣「見知らぬ女」(「恐怖の快楽」2004年2月号)
「慎二と付き合いだしてから、香織はある女性の姿を目にするようになる。
 しかし、彼氏にも友人にも女の姿は見えず、何故付きまとうのか、理由もわからない。
 慎二と婚約して以来、前よりも頻繁に女を見るようになり、香織は慎二の過去の女性関係を疑うようになる。
 そんなある日、女は香織に手招きをし、香織は女の後に付いて行くと…」

(表紙・雨がっぱ少女群/扉絵・谷口トモオ/目次・高塚Q)

 私の知っている中で、最高の「怪奇マンガの目利き」(注1)の御一人である「緑の五寸釘」さんの同人誌です。
 この本のコンセプトは、自身のフェイバリットの中から、未単行本化の作品を集めたものという、実にマニアックなもの。
 自然、マイナーな作家が多くなりますが、どの作品も、広大な範囲の中から(特に、乱脈を極めた「恐怖の快楽」と「ホラーM」を中心に)選び抜いたもので、非常に「個性的」なものばかり。
 実際、一読して、「怪奇マンガの持つ可能性」はこんなにも広大だったのか!!と衝撃を受けました。
 有名な作品をちょこちょこっとアレンジしました〜という安直な作品は皆無で、底知れぬ悪夢をそのままに紙面に焼きつけたような、不安と禍々しさ、生々しさ、そして、圧倒的な奇想に、一般の人々が漫画というものに対して持つ既成概念を粉砕すること必至です。
 同人誌ということなので、再版はかかることはないでしょうから、怪奇マンガ・ファンはもちろんのこと、漫画の持つ可能性に思いを馳せる方にも是非購入されて、一読することをお勧めしておきます。
 そして、いつの日か、「孤独」の続編や、貸本漫画編を出していただけるように、心から応援しております。

 ちなみに、私のお気に入りは「ママのハンバーグ」「川童」「湿っぽい部屋」。(一部、ネタばれを含みますので、御注意ください。)(注2)
 「川童」は、現代に生きる妖怪としての河童を描いたものですが、ちゃんと時代に合わせて、姿形を変えているところが新鮮でした。
 また、河童を扱った作品にしては珍しく、人間味溢れる妖怪ではなく、モンスターとしての側面を強調しているところも面白いと思います。
 「湿っぽい部屋」は、非常にうまい、ダークな短編です。
 ラストの主人公の独白が奇妙な余韻を残します。
 そして、個人的なベストは「ママのハンバーグ」。
 開いた口がふさがらないとは、このことだ!!
 この作品は絵柄がくせもので、「りぼん」あたりの少女漫画風絵柄に油断していたら、ひっくり返りそうになった(マジで)。
 絵柄と、バッドテイスト極まる内容のギャップが、いや、もう、本当に凄いです。
 あと、ラスト、トラウマ映画「力王」を思い出して、プチ鬱になりました…。
 最後に、「恋い焦がれる島」「鏡地獄」も非常に印象的でしたが、あまりに常軌を逸した作品で、思いをうまく言葉で表現できません。仕方なく、割愛させていただいた旨、付け加えておきます。

・注1
 緑の五寸釘さんは長年に渡り、怪奇マンガの情報や魅力を積極的に、そして、情熱と愛を持って発信しております。
 その姿勢に、深く、深く敬意を表します。

・注2
 一応、簡単な粗筋等、載せておりますが、本来は、内容を全く知らない白紙のまま、読むのがベストだと思います。
 もしも、「緑の五寸釘」さんが内容紹介を望まないのであれば、どのような方法でも連絡をいただければ削除いたします。

2018年8月9・10・12日 ページ作成・執筆
2019年4月26日 加筆訂正(人にはそれぞれ「理由」があり、「信念」があります。どうも自分の価値観を押し付け過ぎました…。)
2021年4月2日 一部削除(冗談のつもりでしたが、そう受け止められない可能性もあるため)

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