「怪奇貸本収蔵館第二号 若林哲弘・編」(2016年5月3日初版発行)
収録作品
・妖奇七郎「貸本からアニメへ 若林哲弘」
・「眠る霧」
「ある夜、魚料理研究家の煮多利(にたり)は濃霧で道に迷ってしまう。
途中、道の真ん中に立っていた娘を車に乗せるが、ひどい眠気に襲われ、事故を起こしてしまう。
彼が意識を取り戻すと、すでに娘の姿はなく、目の前には沼が広がっていた。
その沼で、彼は、太古の時代に生きていた硬鱗魚を捕まえる。
偶然見つけたホテル「血笑亭」で、彼がその魚をさばいていると、先程の娘が現れ、彼を「ひどい人」となじる。
娘は窓ガラスをぶち破って逃げ、ホテルの女主人に尋ねても、さっぱり要領を得ない。
夜更け、彼は、奇妙な物音が床下から聞こえてくることに気付く。
床には隠し戸があり、その下には地下に続く階段があった。
地下室にはあの娘と似た女達が集まっており、解剖された魚を囲んで、涙を流していた。
女達は彼に気付くと、寄ってたかって彼を拘束する。
実は、女達は、硬鱗魚の化身であった。
その魔の手は、彼の息子、煮多利焼三(にたり・やくぞう)にも伸びる…」
・「死神の札束」
「さびれたパン屋の青年、ガン太。
両親はなく、祖母と二人暮らしで、夜間学校に通うものの、悪友の赤井とつるむ毎日。
ある夜、赤井と墓場で喧嘩した後、彼は百万円の入っているトランクを見つける。
どのような金かわからないので、一生懸命に働いて儲けたふりをしてから使おうと祖母が提案し、ガン太はそのトランクを木の根元に埋める。
以来、彼は真面目に働くようになり、商売もどんどん上向いて行く。
しかし、あの金は、クビになる寸前の死神13号の仕掛けた罠であった…」
・バナナ海峡「異端の漫画家 祝復刻!」
・成瀬正祐「白い兎月」
「マジンガーZ」等の作画監督を務めた若林哲弘先生が、1961〜62年頃に兎月書房にて発表した貸本怪奇マンガを復刻したものです。
特に「眠る霧」は怪奇漫画史に残る傑作だと思います。
この作品はストーリー自体はゲテモノなのですが、日本的な陰湿さはさほどなく、西洋志向で、ロバート・ブロックと共通するような雰囲気(おどろおどろしいわりに、明快でスタイリッシュ)があるように感じました。
「まんだらけZENBU No.66」(2014年11月15日発行)のpp334・335に、カラー付きで「眠る霧」の単行本が紹介されておりますので、興味ある方はどうぞ。
また、「死神の札束」は実はいい話で、ちょっぴり感銘を受けました!
すっとぼけてユーモラスな描写の中に、人生への深い洞察が窺え、味わい深いです。
個人的に充分、お勧めできる内容です。もし、機会があれば、読まれて損はないと思います。
2019年6月6日 ページ作成・執筆